#4 死力を尽くして

 戦いの行方は、一進一退を繰り返し、熾烈を極めた。

 無尽蔵のHPとMPかと思われた魔王も、膝をついて崩れる場面が心なしか増えてきた。


「よし、もう少しよ!」

「あとひと押しだね!」

「気張っていくぞ!」


 それぞれに声を掛け合い、励ましあった。しかし、俺は分かっていた。みんなギリギリだってことを。

 アイテムも尽き、HP回復もままならなかった。MPなんてとっくの前に枯渇しているはず……。


 それでも、みんなは必死に喰らいついた。倒されても、倒されても。その度に立ち上がり、何度も、何度も、喰らいついた。


 やがて最終局面にきた。

 魔王が攻撃をしなくなったのだ。

 ここがチャンスとばかりに一斉に攻撃を加えた。しかし、俺たちに魔王を倒すだけの余力はほとんど残されていなかった。奴も瀕死なら、こちらも同じだった。

 そんな諦めムードをミクが断ち切った。


「マサル、下がって!」

「えっ。なんで……」

「マサルくんは、待機して待ってて」

「いいから、俺らに任せとけって」


 突然俺の前に割り込んできた3人は、示し合わせたかのように手を高々と掲げ、手にはめていたリングを光らせた。


「待て! それって!?」

「なによ、その顔は! 私は自分のために使うんだからね」

「自惚れんなよ、マサル! 俺は自分で決めたんだ!」

「僕も一度使ってみたかったんだよな」


 何も言えなくなった。まったく動けなくなった。

 俺は彼らが今からしようとしてことを知ってる――。


 それは、プレイヤー最強のマジックアイテムだった。

 効果は、諸刃の剣。自らの経験値を力に代えて、究極の物理攻撃を放つ。

 しかし、その代償はあまりにも大きい。


「止めてくれ!! 俺のために、そんな……」

「ここまで追い込んで、今更なに言ってんだ。経験値なんて、またためりゃいいことだろ?」

「だな、ミク」

「僕もそう思うよ。だからマサルはちゃんと最後まで見ててね」

「じゃあみんな、行くよ! マサルに宝玉を届けるんだ!!」

「「「おおー!!」」」


 3人の掛け声が合わさると、指先につけたリングから眩いばかりの光が四方へと拡散した。命とも呼べる経験値が姿を代え、聖剣となり、黄金に輝いた。


「ミク! オンジ! トオル!」


 俺は喉が潰れるほど叫んだ。3人の名前を心の底から叫んだ。


 空気の切る音と共に、聖剣は魔王へと飛来し、突き刺さった。

 悲鳴とも雄叫びとも取れる耳をつんざく怒号を上げて、魔王の体が太陽のように激しく煌き、そして倒れた。


「やったか……」

「なんとかね……」

「ふー。よかった……」


 すぐに3人の元に駆け寄った。


「馬鹿野郎! なんで、なんで……」


 涙と鼻水とで、うまく話せなかった。喉の奥に詰まる思いをうまく吐き出せないでいた。


「クソッタレ! どうして……そこまでして」


 3人は微笑みを浮かべ、「楽しかった」と言い、消えた。


 固く握った拳を何度も叩きつけた。両手の拳を何度も叩きつけた。


「クソぉー!!」


 悔しがる俺の傍に、彼女は来てくれた。

 何を言うわけでもなく、ただ傍に来てくれた。

 泣きじゃくる俺に、そっと手を当て、ただただ黙って見届けてくれた。


 しかし、彼女の様子が一変する。なんだ!?


《まもなく、第二形態に移行します。残り10分……》

《まもなく、第二形態に移行します。残り9分50秒……》


 突然始まったカウントダウン。


「なんだこれは!?」

「魔王の第二形態……。まさか、GM……!?。こんなことまで仕掛けているだなんて……私知らなかった」

「おい、何言ってんだ!? 第二形態ってなんだよ!」


 3人によって倒された屍が輝き始めた。周囲から何かをかき集めるように、光の粒がすごい勢いで集合していく。


 どうやら、GMは本気らしい。


「くっ。何も残ってない……HPもMPも……く、クソー」


 悔しがる俺の目の前で、魔王の復活、第二形態が、今まさに始まろうとしていた。


 まさかと思い、慌ててアイテムホルダーを開けた。

 ドロップ欄を開けて探すも、そこには何も入っていなかった。


「おい、うそだろ。コイツを倒さないと貰えないのかよ」


 俺は愕然がくぜんとした。大切な仲間まで失い、やっと手に入れたと思ったのに――。

 手のひらに乗せた水のように、希望は消え失せた。


「これは、バグよ。こんなの私聞いてない!」


 突然張り上げた彼女の声に、俺はふと我に返った。


 ――バグ。


「そっか、行くぞ!」

「ど、どこに!?」

「いいから着いて来い!」


 俺は、戸惑う彼女の手を握りしめ、魔王の玉座から抜け出した。

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