#3 仲間との出会い

 その後、俺は自宅で倒れてそのまま入院。


 一週間後――。

 やっと退院出来た俺は、自宅に戻ってすぐにVRゴーグルを嵌めた。

 ワクワクしながら速攻ログインした。が、そこは違っていた。

 いいや、これが元々正しいのだろう。今ままでが変だったのだ。


 何度ログインし直しても、正規の画面しか出てこない。

 嫌だ! もう一度会いたい――。


 そんな折だった。

 ”魔王討伐キャンペーン”が行われた。

 彼女会いたさだけに、必死にレベルを上げて、金を貯めて、課金して、魔王の玉座に挑んだ。

 そこに、君は――居た。


「久しぶり」

「マサル……」

「なんだ、覚えていたのか。俺はてっきり忘れられたかと」

「忘れるわけないじゃん! マサルの馬鹿!」

「えー、馬鹿ってなんだよ」

「馬鹿は馬鹿! 今頃になって……」

「今頃って……。そんなこと言うなよ」


 彼女は俯いてそれ以上話そうとしなかった。そしてバトルが始まり、俺はあっさりと負けた。完敗。魔王に一人で立ち向かって勝てるわけがない――。


 でも、俺は諦めなかった。レベルを上げて、再び挑んだ。


「どうして俺は魔王に戻れない、なにか理由が……」

「やめて。もういい。……それにマサル、元気になったし」

「なんだよ、それ! 毎日は無理でも時間のあるとき、俺」

「もういいって……。さあ、戦うわよ!」


 惨敗。

 何も出来ず終わった。自分が魔王をやっている時には気づかなかった。

 負けた後の、スケルトンのアドバイス。優しく励ますその言葉。

 やっぱり俺はまた救われた。


「一つ聞きたいことがある」

「なに?」

「いま、魔王を倒すと貰える宝玉。あれって、もしかして君が……」

「ああ、ううん。そうね」


 彼女は、言葉を濁し背を向けた。

 魔王討伐キャンペーンで貰える特典。それは、AI搭載のNPCだった。


「言い方はちょっとあれだけど……、お前が貰えるのか?」

「えっ。ああ、うん……」

「だったら俺、なんとかしてやるから!」

「う、うそ……」


 スケルトンは振り向き、祈るような仕草をして俺を見た。


「マサル、ありがとう。でも無理だよ」

「なんで! なんで無理なんだよ! 君はいつも俺に言ってくれてたじゃないか! 『無理なことは一つもない』って」

「うん……。でも、宝玉は無理なの。たぶん、運営さんは渡したがらないと思うの。だからね、分かって。大人の事情ってやつなの、だから私は……」

「うるさい、うるさい! 黙って待ってろ! 俺が絶対倒してやるから!」


 俺はその日から、一生懸命に頑張った。ソロ狩りしかしてこなかった俺が、仲間を集い、慣れないパーティーを組んだ。一人じゃダメだから。一緒になってレベルを上げてくれる仲間を探し求めた。

 もちろん、途中で投げ出す奴、付いてこれない奴、文句ばかり言う奴も大勢いた。

 だが、俺は決して諦めなかった。挫折する度、心が折れそうになる度、話し合い、励まし合い、助け合った。


 そして――3人の仲間が出来た。


「ギリギリ間に合ったな、マサル」と、魔法使いのオンジが言う。


 俺の隣で胸を張ってふんぞり返る女戦士ことミクが、それを聞いて今日の意気込みを語りだした。


「今日はキャンペーン最終日。なんとしても宝玉は手に入れるわよ。魔王をぶっ倒して、サーバ初の栄冠もついでに貰っちゃうわよ!」


 日頃から大人しいタンク役のトオルが、珍しく強く頷いた。


「うん。マサルくんのためだったら俺は今日、死んでもいいー!」

「なに馬鹿なこと言ってんだよ、トオル。みんな生きて一緒に戦って勝つんだよ」

「マサルは気にするなって。俺たちみんな分かってるんだぜ。宝玉について来るAIのことをさあ」

「ど、どうしてそれを……」

「仲間だろう、俺たち」


 なぜだか急に涙があふれた。

 俺は、自分の私利私欲のためだけに頑張ってきた。なのに、こいつらは――。


「最初は嫌な奴だと思ってたけどさあ。マサルくん、まっすぐじゃん」

「そうそう。マサルってホント、子供よね」

「16才の中二病って、ほんとウザいよな」


 3人の笑い声が、ホールに響き渡った。パーティーを組んで一ヶ月とちょっと。

 ここまで仲良くなれた、いいや、VRゲームという枠を外れたとしても、ここまで仲良くなれた仲間を持ったのは初めてだった。

 胸を張って友と呼べることも――。


 俺は力強く頷き、巨大扉に両手をかけて力いっぱい押して入った。

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