第28話赤い悪魔
街の南東で所定の位置に着き、俺は腕を組み目を瞑り、その時を待っていた。
待っている間脳裏を過るのはアルのことだ。
俺が第一に守らなくてはいけないのはアリア様でもフルク王子でもない、ましてや他国の街を救うことでもない。
俺がこの命と引き換えにしても守らなければいけないのはアルだ!
なのに俺は何をしている!
守らねばならない王子を一人戦地に送り出し、なぜ俺はここで雑魚の囮をしている!
俺はもちろん止めた、アルに危険だから俺の側にいろと言ったのに、アルは全く聞く耳を持たなかった。
セドリックとゼンもアルなら大丈夫だと言っていたが、何も分かっていない。
アルトロは一国の王子なんだ、その王子がもしも戦死し俺たちだけがおめおめとアイーンバルゼンに帰還なんてしてみろ!
死罪もありうることだ。
俺は兵団長として部下300人の命を預かっている、彼らにももちろん、俺にも祖国で帰りを待つ家族がいる!
万が一の時、俺の首だけで済めば良いのだが。
そんな万が一など起こさぬためにも、パリセミリスの連中を1秒でも早く全滅させアルの元へ向かわねば。
最悪俺じゃなくてもいい、パリスでも誰でもいい。
アルの元へ向かわせなくてはいけない。
目を閉じ考え込んでいると騒がしい声が聞こえる、始まったか!
俺はゆっくり目を開き周囲を確認する。
四方からパリセミリスの兵がなだれ込んできている。
敵を確認すると俺は左腰に提げた剣に手を伸ばし、駆け出し相手の懐に入り込み剣を振り抜いた。
燃え上がるような赤が辺に飛び散り、数人の兵が透かさず俺へ刃を
剣を振り上げた男の腕を切り落とし、流れるように首を刎ね、その男の首が地面を転がる頃にはさらに前方にいた二人の首を刎ねる。
「「あ゛ああ゛ああ゛ぁぁ!」」
断末魔が響き渡るがそんなことはどうでもいい。
こんなちまちま殺していたのでは遅すぎる!
だが今は一人ずつ斬っていくしかない。
もどかしい気持ちになりながらも、俺は敵が集まる場所へ駆け込みできるだけ多く斬っていく。
駆け上がり壁を走り敵の中心へと飛び込んだ!
「な、なんだコイツどこから現れた!」
「この命知らずのバカをヤッちまえぇぇえええ!」
上空から突如現れた俺に驚いているが、雑魚に構っている暇わない。
俺は相手の顔など確認せず、ただ斬った!
右から左へ、左から右へ、上から下へ、下から上へ、斬って斬って斬りまくる!
全身に
「うおおおぉぉぉぉぉl! 早くぅもっと来やがれぇぇやぁぁぁあああ!」
「冗談じゃない!」
「な、なんだよこの化け物!」
パリセミリスの兵はどいつもこいつも腰抜けばかりか!
イライラする! 早く殺されに来いよ!
どのみち全員死ぬんだ!
早いか遅いかの違いだろぉ?
「そこをどけぇ!」
「道を開けよ!」
声が聞こえるとパリセミリスの兵が道を開け、奥から二人現れた。
一人は大剣を肩に担いだ男、もう一人は高価な金属鎧に身を包んだ男か。
どう見ても一人は俺の嫌いな貴族だ!
「ニュセル様! それに隊長!」
「これであの化け物も終わりだぁ!」
「ざまぁ見ろ化け物がぁ!」
何やら騒がし!
パリセミリスの雑魚が隊長の登場に勝利を確信しての歓喜か?
戦場で他人にすがる時点で兵失格だな!
「なんだ? この血まみれのオッサンは?」
「とっとと殺してしまえ! そしてこの暴動を早いとこ鎮火してしまえ!」
「畏まりましたニュセル様!」
ニュセルとかいう男に媚を売る大剣使いの男が、俺の目を真っ直ぐ見つめる。
大剣使いの男は30代前半とまだ若い。
確かにいい闘気を身に纏ってはいるが、まだ成熟していない。
「聞こえていたか狂犬? 残念だがここで今すぐに死んでもらう!」
「若造が! 誰に言ってんだ?」
「実力差を
男は右肩に乗せていた大剣を両手で掴むと腰を落とした。
男の身体からは凄まじい闘気が溢れ出ている。
「人技か?」
俺の言葉に広角を上げた。
「察しがいいな! だが安心しろ、痛み無く、死んだことすら気づかん程にすぐ終わる!」
「いいだろう! 剣の稽古をつけてやる、代価はお前の命でいい!」
「ほざくなよオッサン!」
静まり返った戦場で俺は両手で剣を構え、大剣男と向き合った。
そよ風が俺を通り抜けた次の瞬間、大剣男のそれは来た!
「人技! 強者のひと振り!」
大剣男が人技を叫び、振りかぶった大剣が俺の
ガァギギイイイイイイィィ!
鉄の衝突でけたたましい音が鳴り響く。
「な、なに!?」
「なんだこれ? これが人技? なめてんのかお前?」
「な、なんだと!」
「何をやっている早く倒してしまえ!」
大剣男の後ろで鬱陶しい貴族がぎゃぎゃ騒いでいるが、どのみち直ぐに殺す!
俺は剣の柄を握る両手に力を込め、大剣を叩きおってやった。
ご自慢の大剣をへし折られ顎が外れたのか、間抜け面を見せつけてくる。
同時に周囲にいる兵たちも後ろで呑気に見物していた貴族も、皆顎が外れたらしい。
俺は間抜け面に言ってやる。
「雑魚と遊んでる暇はないんだ! もう死んでくれるか?」
「ま、待ってく――」
なにか言いかけていたが、問題ない。
俺はそのまま貴族の元へ歩み寄る。
俺が近づくと腰でも抜かしたのか、意味不明に手を突き出している。
「た、頼む、い、命だけは、そうだ! お前を雇ってやる! 報酬はお前の望む額をくれてやる! どうだ、悪くはないだろう?」
「――黙れ!」
「やめぇぇええ――」
頭のおかいな貴族を始末し、1秒でも早くアルの元へ駆けつけるため、俺は再び剣を振るう!
「だすげでぇぇえええ!」
俺の耳にお前たちの声は届かない!
全てを切り刻むだけだ!
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