第29話手にした誇り

 街の南側に位置する建物の屋根に身を潜め、俺たちは待機してたっす。

 屋根の上から双眼鏡を覗き込み南西と南東を見渡し、南に向かい東西北に待機していたと思われるパリセミリス兵が、次々と移動を開始していることを確認してたっす。


 早朝だったこともあり、パリセミリス兵は夜勤疲れで疲れた者や寝起きで足がおぼつかない連中も大量に確認できたっす。


 さらにバルとメスたち諜報員の働きの甲斐もあったのか、街の外を出歩いている住民は今のところいないみたいっすね!


 敵の数も南西と南東にうまいことバラけているみたいっす。


 ここまでは予定通りといったところっすね。

 戦闘が開始して既に2時間が経過していたんすけど、アルトロ王子の方はうまくいってるのか気になるっすね。


 ただアルトロ王子はバケモン並に強いから俺なんかが心配するのは失礼な気もするっすね。


 このままうまくいけば俺とポブの出番はなさそうっすね。

 そんな風に呑気に考えていたんっすけど、ポブが何かを発見したみたいで騒ぎ出したんっす!


「こりゃやべでぇやんすよスネーク!」

「どうしたっすか?」

「南西の方角を見てみるでやんす!」


 俺はポブから双眼鏡を受け取り、ポブの指差す方角を双眼鏡を覗き込み見てみたっす!

 確かにまずいっす!


 俺が双眼鏡から捉えたモノは魔族っす!

 左の額から角を生やした見るからにヤバそうなやつっす!


 唾を飲み確認すると、ゼンとリリアーナの方角に一直線で進んでいるっす!

 魔族を確認していたんっすけど、次の瞬間俺は双眼鏡を放り投げてしまったっす!


 なぜなら魔族は遠く離れた場所から双眼鏡で見ていた俺に向かって笑いかけたんっす!

 ポブはそんな俺の様子に驚き声をかけてきたっす。


「どうしたでやんす、スネーク!」

「まずいっす! まずいっすよポブ! あの魔族はマジでやばいっす! すぐにアーロン隊長とパリスの姉さんに南西に応援に向かってもらわないと、リリアーナとゼンが殺されるっす!」


 俺の言葉に顔がこわばるポブ、だけど立ち止まっている時間はないっす。


「アーロン隊長とパリスの姉さんの元まで死んでも行くっすよ!」


 俺の言葉にハッと我に返ったポブが頷いたっす。


「どちらか一人だけでも伝えれたらいいでやんす!」

「行くっすよ!」


 俺とポブは軽快な身のこなしで屋根の上から飛び降り、できるだけ敵に気づかれず、だけど1秒でも早く伝えるために慎重かつ迅速に行動を開始したっす。


 大通りからの移動はパリセミリス兵が大量にいるから避け、狭い路地裏を駆け抜けたっす!


「次の角を左に曲がるっす!」

「了解でやんす!」


 この調子なら間に合うはずっす!

 そう思っていたっす!

 だけど、角を曲がると俺は何かにぶつかり尻餅をつき、ぶつかった何かを見たとき震えが止まらなかったっす。


 ポブは俺の後ろで固まってしまったっす。


「あぁ? 何だこいつら?」

「こんなところにいるってことは間違いなく敵だな!」

「どうした?」


 俺の前には5人……いや、8人っす!

 8人のパリセミリス兵がいたっす!


 パリセミリス兵は俺たちを見て不敵な笑みを浮かべ、武器を手に迫り俺たちを殺すつもりっす!


 最悪ここで死んでも俺は構わないっす!

 アルトロ王子の盾になるためここに来たんっすから。


 だけどリリアーナとゼンを助けなければいけないっす。

 俺は覚悟を決めるっす!


「ポブ! ここは俺が何とかするっす! ポブは二人に伝えに走るっす!」

「なにを言ってるでやんす! 死ぬ気でやんすか!」

「男になるっすよ! さぁ行くっす! 1秒でも早く伝えるっす」


 ポブは俯き少し躊躇っていたっす。

 そんなポブに俺は声をかけるっす。


「これは任務っすよポブ!」


 俺の言葉に頷き、囁くようなポブの声が微かに聞こえたっす。


「……すまないでやんす」


 ポブは別の道から二人に伝えるために駆け出したっす。


「おい一人逃げたぞ!」

「逃がすな!」


 俺はパリセミリス兵の行く手を阻むため、腰の短剣を抜き取り立ちはだかったっす!


「こ、ここは通さないっす!」

「なんだコイツ!」

「このチビ震えてやがるぜ!」

「漏らしちまうんじゃないか?」


 パリセミリス兵たちは俺を嘲笑ってるっす。

 でもそれでいいっす!

 それでポブが逃げる時間が稼げるなら、笑われるくらい、馬鹿にされるくらいいいっす!


「邪魔だチビ!」


 俺は蹴り飛ばされたっす。

 顔から鼻血が吹き出てめちゃくちゃ痛いっす。

 だけど、行かすわけには行かないっす。


 俺はポブを追いかけようとする男の足にしがみついたっす。


「ここからは一歩も行かせないっす!」

「鬱陶しい野郎だな!」

「ちょっと遊んでやろうぜ!」


 兵たちは何度も何度も俺を蹴ったっす!

 それでも俺は男の足を離しはしないっす!


「い゛がじぇないっず!」

「泣いてやがるぜコイツ!」

「馬鹿じゃねーの!」


 路地裏に男たちの高笑いが響き渡り、それが残響になって何度も何度も俺の耳に入り込んでくるっす。


「っあ! きたねぇーな! 人のブーツに鼻水つけてんじゃねぇーよ!」

「もう殺しちまおうぜ!」

「あああぁぁぁぁぁ!」


 一人の男が俺の足に剣を突き刺したみたいっす。

 激痛で意識が飛びそうっす。


「まるでゴキブリみたいだな!」

「こんな所で一人死んでいくなんて、笑えるくらい惨めだな!」

「お゛れ゛は、惨めなんかじゃないっす! 一瞬だったけど、誰かの為に生きることができたっす、誰かの為に死ねるっす! 親もいなかった俺が王子の家臣にまでなったっす! 例え今日ここでお前たちに殺されたとしても、この一ヶ月間は胸を晴れるっす!」


 笑いたければ笑うっす。

 だけど!


「王子がくれた、兵団のみんながくれた、リリアーナにゼンのみんながくれた俺の誇りは死なないっす!」

「ごちゃごちゃうっせぇーんだよ!」

「あああああぁぁ!」

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