第26話愛の賛美歌
早朝6時にあたしは街の南西に来ていた。
ゼンとレジスタンスのメンバーと共に、大事な任務を遂行するためよ。
本当はアルトロについて行きたかったけど、わがままばかり言ってしまえばいつか愛想を尽かされるかもしれないから、あたしはあたしのすべきことをするのよ。
アリアを助けたいからするんじゃないわよ。
あたしの家族を、故郷を助けてくれなかったセスタリカなんてもうどうでもいいの。
あたしはアルトロの、彼の一番になるの。
そのためにここで役に立つ女だと証明するのよ!
大丈夫よ、こんなところで死んだりしないわよ!
アルトロがくれたこの鞭だってあるのよ。
あたしは腰に付けていた鞭を両手に取り、バシッと引っ張り音を立てる。
これはアルトロが、あたしだけのために用意してくれたアダマンタイト製の鞭。
一度全てを失ったあたしの唯一の宝物。
ほら、彼が守ってくれるわ。
大丈夫、臆することなんてないのよリリアーナ!
離れた所にいるゼンが、手はず通りパリセミリスの連中に絡んでいるわ。
アイツの憎しみと恨みが解き放たれたとき、あたしの戦いが始まる。
ゼンがパリセミリス兵を斬りつけ、怒りの咆哮を上げている!
それと同時に、ここオスターの南西に敵が押し寄せて来ている。
やってやるわよ!
無数のパリセミリス兵がゼンの元へと駆けていく無防備な背中に、あたしはアダマンタイト製の鞭を叩き込んでやった!
「ああぁぁあああ!」
あたしの鞭を背に浴びたパリセミリス兵は、背中の肉がそぎ落ち骨が砕けたみたいで、倒れ込み動けなくなっているわ。
さすがアダマンタイト製ね、軽く当てただけなのに物凄い威力だわ!
これならイケる!
仲間が背後から攻撃を受けたことで、多くの兵が立ち止まり、あたしの方に武器を掲げて突っ込んでくる!
「女如きがなめるなぁああ!」
「「ぶち殺せぇええ!」」
「女だからってなめんじゃないわよ!」
あたしは迫り来る兵たちに、とっておきを披露してあげる。
鞭を持つ右腕を天に掲げ、ぐるぐると大きく弧を描く。
「くらえぇ! 人技! 茨の道!」
あたしの弧を描く鞭から無数の刺が伸び、目の前の女を見下す時代錯誤の男たちの体を突き抜ける。
同時に無数の男たちのみっともない叫びが街に響き渡るのよ!
「「わぁぁああああ!」」
聞こえるアルトロ?
これがあたしがあなたに捧ぐ愛の賛美歌よ!
「さぁもっと泣きなさいよ! じゃないと彼の元まで響かないじゃない!」
武器を手に屈強な男たちが女ひとりに足踏みしている、近づけなくて当然よ!
それが茨の道なのよ!!
茨の道を掻い潜り、あたしの元にたどり着けるのはアルトロだけよ!
そのはずだったのに、気が付くとカマキリみたいな男が、あたしの子宮に強烈な膝蹴りを叩きつけていた!
「ぐう゛ぅ゛」
あたしは数メートル後方へ吹き飛ばされた。
すぐに体制を立て直そうと地面に膝を突いたとき、
袖で血を拭いすぐに男に目を向けると、カマキリみたいなブサイクがあたしを見下しほくそ笑んでいる。
「女のくせに、な~に調子乗ってんのかな?」
「時代錯誤のクソ男が!」
「口の利き方を教えてやろうか? 非力な女!」
そう言うと男は地面を蹴りつけ急激に加速し、膝を突くあたしの顔をケリつけていた。
あたしはさらに後方へ吹き飛ばされ、鼻血が出て、とてもアルトロに見せられない顔になっていた。
男は薄ら笑いを浮かべて、手に持つ二刀の短剣を宙に放り投げ遊んでいる。
コイツがアインの言っていた実力者なの?
だけど大丈夫! まだやれる!
男は完全にあたしを舐めている、その証拠に手に持つ短剣を使わなかったのがいい証拠。
あたしは右手に持つ鞭を見つめる。
泣いちゃダメ、泣いてはダメよリリアーナ!
泣きそうになる感情をグッと堪えて、右手に力を込める。
「なんだその目つき? これだから戦場に慣れていない女はめんどくさい。実力差がまるでわかっていない!」
あんな言葉に惑わされてはダメ、アルトロはもっと速かった!
そうよ! アルトロに比べれば目で追える奴なんて全然速くなんてないわ!
思い出すのよ、アルトロとの出会いを、彼の速さを!
「実力差? 二発蹴り入れたくらいで男ってすぐ勘違いするのよね!」
「ぁあ? 勘違いだ? 馬鹿かお前?」
「あんたのそのガリガリの肉、すぐに削ぎ落としてあげるわよ!」
「このアマがぁあああ!」
男は再び加速し、一気に間合いを詰めてくる。
一発目は完全に油断して膝蹴りをもらった、二発目は膝を突いていたから避けることすらできなかった、けど!
「あぁ?」
避けれる!
あたしはカマキリ野郎のケリを屈んで躱し、そのまま後ろに手を突き、股間を蹴り上げてやった。
「ぐう゛う゛ぅ゛ごの゛……アマ゛」
男はみっともなく内股で股間を抑え、意味不明に小刻みに飛び跳ねているわ。
男の体って本来戦闘に不向きなんじゃないかとすら思えるわね。
だけど、この隙を逃すほどあたしは間抜けじゃないわ!
あたしは男から少し距離を取り、手に持つ鞭を男の首に巻きつけてやった。
「な、な゛にずんだ!」
あたしはニヤリと笑いかけてやったわ。
「そんなの決まってるじゃない! あんたを夏の照りつける地面でぺしゃんこになっているカマキリみたいに、ぺしゃんこにするのよ!」
「っえ?」
「うりゃぁああああ!」
あたしは男の首に巻きつけた鞭を、力一杯引き、背負い投げをする要領で男の体を宙に舞上げる。
鞭に引っ張られ宙に舞い、弧を描く男の体を地面に叩きつけ、何度も何度も繰り返し叩きつけてやった!
男は死んでしまったのかはわからないけど、ピクリとも動かなくなったわ。
動かなくなった男にあたしは捨て台詞を吐くの!
「女をなめんじゃないわよ! 男の分際で!」
あたしはあたしを取り囲むパリセミリスの兵を睨みつけ、彼らにも言ってやるわ!
「どこからでもかかってきなさい! 死ぬ覚悟のできた者からね!」
あたしの戦いはこうして幕を開けたの!
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