第23話騎士の誇り

「俺たちは元々東の砦のひとつを守っていたんだが、情けないことに砦は落とされちまった。俺たちはその後、残った僅かな兵と共に、ここオスターへ立て直すために一時的に避難したんだが、あのクソ野郎にハメられた!」


 テーブルについてた肘を上げ、悔しそうに拳をテーブルに叩きつけるアイン。

 アインの言葉に反応し、問いかけるアーロン。


「クソ野郎というのはこの街の領主か?」

「あぁそうだ、ドウン=ドバンのクソ野郎は裏でパリセミリスと繋がってやがった。疲弊していた俺たちをかくまうと見せかけて、パリセミリスの兵を街に引き入れ、油断していた俺たちを一網打尽にし、フルク王子を捕らえやがった!」

「あなたは守るべき王子を見捨て逃げたのですか?」


 ルナが遠慮のない痛烈な一言をアインに浴びせる。

 ルナの言葉に眉を曲げるアイン。


「そう思われても仕方がない。事実、俺はここにいてフルク王子は捕らえられている。それが全てだ」


 アインに何があったかはわからない、ただ俺がフルク王子の立場だったら、希望を繋ぐためにも、最も信頼の置ける人物を逃がすだろう。


 相手の立場になって考えれば、王子という立場上すぐには殺されはしない、だが騎士を生け捕りにする必要はそれほどない。

 だからこそアインを逃がし、その間に自分を助ける時間を与えることこそが、最良の手だとも言える。


 だがそれは騎士としては恥だ!

 遠まわしにお前の力では俺を救えないと言われているようなものだ。

 騎士としての誇りを取り返すためにも、アインはこの街オスターで戦っていたのだろう。


 悔しそうにしながらもアインは話を続けた。


「俺は王子を救出すべくこの街に残り、逃げ延びていた仲間と合流しレジスタンスを立ち上げた。幸い街の連中はドウンにもパリセミリスの兵にも嫌気がさしていたから、協力者を募ることは容易かった。だがそんな時、耳を疑う情報が入った!」

「アリアのことか?」


 俺の言葉に目を瞑り頷くアイン。


「そうだ。どこからか情報を得たアリア様がこの街に来ており、ドウンと接触し捕らえられたと言う情報が入った。正直愕然としたさ、フルク王子を救出することだけでも手一杯だというのに、アリア様までも助け出さなくてはいけないんだ。だがそんな時、また新たな情報が寄せられたんだ!」

「新たな情報って?」


 リリアーナが不思議そうに聞いているが、大体の見当はつく。


「見慣れない男がドウンや俺たちレジスタンスを嗅ぎ回っているというものだ。」

「それでポブに接触を図ったというわけか?」

「あんたバレバレじゃない!」


 ゼンの言葉に頷くアインと、リリアーナの一言に面目なさそうに頭を下げるポブ。


「初めはパリセミリスの差し金かと捕らえたのだが、自分はアイーンバルゼンの第三王子、アルトロ=メイル=マーディアルの子分だと言い張るポブの話を聞き、アルトロ王子たちを待っていたというわけさ」

「それってあんた捕まって命乞いしていたら味方だっただけの、ラッキーじゃない!」

「運も実力のうちでやんすよ」


 確かにリリアーナの言う通りなのだが、ポブの言ってることも間違ってはいない。

 まぁ俺は基本、結果よければ全て良しだ。

 過程を気にすることはない。


 現にこうして仲間が増えたんだ。

 捕らえられたアリアを救出するためには、様々な条件を満たさなくてはいけない、そのために仲間は多いに越したことはない。


「それでアイン! 俺たちを待っている間に何もしなかったわけじゃないんだろ? アリアの居場所も突き止めているのだろう?」

「もちろんさ、アリア様もフルク王子も、ドウンの屋敷の地下の牢獄に幽閉されていることは間違いない! ただ屋敷の警備は厳重だ。」

「屋敷に侵入することは容易ではないということか?」


 アーロンの言葉に頷くアインだが、すぐに言葉を紡ぐ。


「だが策はある。そのためのレジスタンスなんだが、腕の立つ者や指揮官になりそうな優秀な人材がいなくてな」

「そのために俺たちを待っていたというわけか?」

「ご名答! ココル村でのことはポブから聞いている、ポブ自身その目で見たわけではないらしいが、ココル村での一件が事実なら、十分だと考えたのさ!」


 自信満々な態度で足を組み直すアインに、セドリックが尋ねる。


「なぜ腕の立つ者が必要なんだ? なにをさせるつもりだ?」

「あんたらの中で指揮官と腕の立つ者を数名、レジスタンスのメンバーと共に街でパリセミリス兵相手に大暴れして欲しい! そうすることによって屋敷にこれ以上兵が来ないようにして欲しいのさ!」

「腕の立つ者が数名必要な理由は?」


 俺の問に迷わず答えるアイン。


「こっちの戦力は500程に対して、パリセミリスの兵は2000を超えていることと、敵さんの中にも腕の立つ者が混じっている。それに魔族が潜んでいるかもしれない!」

「「魔族!?」」


 アインの予期せに言葉に驚く一同、やはり背後になにか居たか!

 

「砦を襲われた時、魔族や魔物がパリセミリスに協力していたのさ」

「魔族や魔物が人に協力しているというのですか?」


 ルナの疑問に俺の考えを話す。


「これは飽く迄俺の考えだが、パリセミリスは既に魔族に乗っ取られていると考える方が自然だろうな!」


 俺を真っ直ぐに見つめるアインは頷く。


「フルク王子の考えもアルトロ王子と同じだった、しかしそのことはパリセミリスの一部の連中しか知らないと考えているのさ」


 当然だ、魔族に国を乗っ取られたなんて民衆が知ればパニックを起こすことは明白だ。

 アーロンも皆、深刻な表情を浮かべている。


 だが今は目の前の、オスターのことだけを考えるんだ。

 なにせ俺のアリアの命が懸かっているんだ。


「今は目の前の敵に集中しろ! 後のことはこの一件が終わってからだ!」


 俺の言葉にアインもアーロンたちも頷き、俺たちはアリアとフルク王子救出の話を続けた。

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