第21話茶番

 下水から街へ入り、橋の下で身を隠しながら、スネークと共にアリアを追ってオスターへ侵入し、潜伏している者がやってくるのを待っている。


「オスターに留まり潜伏している元山賊の仲間は、私たちがオスターへやってきたことがわからないんじゃない?」


 橋の下へ移動するために川の中を移動し、ずぶ濡れになった服を絞っていると、パリスがスネークに既に潜伏している仲間がここにちゃんとやってくるのかを聞いている。


「大丈夫っすよ! 数時間置きにこの場を巡回することになっているのですぐ来るっすよ」


 スネークの言葉を聞き俺たちは納得した、スネークはこうなることを分かっていて前もって準備をしていたということなんだろう。

 コイツは思っていたよりもかなり優秀だな。


 戦闘に関してはまるでダメだったが、あらゆる状況を想定した行動は評価に値する。


 俺たちは橋の下に身を隠しながらも、周囲の警戒を怠らず、待ち人を待ち続けていたら、突然スネークが指笛を鳴らし始めた。


 橋の壁に身を隠しながら数回指笛を響かせると、スネークは俺らに顔を向け、待ち人の到着を知らせた。


「来たみたいっす!」


 俺たちは頷き、スネークの方に身を向けていると、一人の男が橋の下まで降りてきた。

 フードを被った男はスネークに向かい頷くと、すぐに俺の元へと駆け寄り声をかけてきた。


「アルトロの親分、待ってましたぜぇ! 準備の方はあらかた整えておりやす。まずはレジスタンのアジトへご案内いたしやす!」


 お、親分? そんなことより準備は整えてあるとか、レジスタンスのアジトってなんだよ!

 こいつは一体俺たちがここに来るまでの間なにをしていたんだ!


 俺と同様にアーロンたちも、フードの男のレジスタンスと言う言葉が気になったみたいだ。


「レジスタンスとはなんだ? 報告にはなかったぞスネーク!」


 若干キレているアーロンがスネークを問い詰めている。

 まぁ無理もない、軍隊にとって情報を共有することは命を共有することと同じなんだ。

 部下の命を預かっているアーロンが知らなければ策を練り、手を打つこともできないんだ。


 アーロンのイカつい顔にビクッと体を震わせ、すぐに言い訳を始めるスネーク。


「この街にはパリセミリスの侵略を許せない連中がいるっす、そいつらがパリセミリスと戦う準備をしているという情報はあったんすけど、まさかポブの野郎がコンタクトを取っているなんて知らなかったす!」


 スネークが慌てている姿を見て、ポブと呼ばれているフードの男がアーロンに謝罪する。


「スネークを怒らないでやってくれでやす、悪いのはあっしなんでやす。アルトロの親分がここ、オスターに乗り込んでくることは予想ができやした、スネークが親分に報告に行ったあと、あっしも何かお役に立てないかと、勝手な判断でレジスタンスに接触を図った次第でやす。勝手な判断をしたことは謝りやす、処罰ならあっし一人が受けるでやす!」


 ポブの言葉を聞き、スネークはポブの前で庇うように両手を広げ、涙目になりながらアーロンに訴えている。


「ポブは悪くないっす! 処罰なら俺が受けるっす、だからポブのことは許して欲しいっす!」

「いけねぇ、いけねぇよスネーク!」

「ポブ!」


 二人は抱き合いへたれ込んでいるが、なんだこの茶番は!

 アーロンもみんなも冷めた目で呆れている。

 そもそもアーロンは別にそこまで怒ってはいないだろう。

 現に言い過ぎたかもと、二人を見て顔を引きずらせているじゃないか!


「いや、まぁ……処罰は考えていないが、これからは気をつけてくれよ!」


 アーロンの言葉を聞き二人は感激している。


「人情でやす、これぞ人情でやす!」

「よかったす、本当に良かったすねポブ!」


 いつまでやってんだよこいつらは!

 ここは敵地なんだぞ! お前らのくだらない茶番はもういい!


「それよりポブ! そのレジスタンスとか言う奴らは信用できるんだろうな?」


 二人は顔を見合わせ立ち上がり、ポブが話し始める。


「レジスタンスは信用できる人たちでやす!」

「その根拠は?」

「レジスタンスのリーダーを務める男はセスタリカの第三王子、フルク王子の側近にして騎士のアイン=アルセミアでやす! またレジスタンスのメンバーはセスタリカの残党兵や、オスターの街の人々から集まっているでやす!」


 フルク王子! ということはアリアの兄か!

 アイン=アルセミアとかいう騎士がこの地に留まっているということは、アリアの兄もここオスターに今も幽閉されているということか。


 主君を守りきれなかった騎士が、おめおめとこの地を去ることもできず、体制を立て直し主君の奪還に奮闘しているということだな!


 確かに信用はできそうな相手だな!


 俺はアーロンの顔を見て確認をすると、アーロンたちもポブの話を聞き納得したようで、問題ないと頷いている。


「話はわかった。ではポブ、そのアインなる者の元まで案内するのだ!」


 ポブは嬉しそうに頷き即答する。


「お任せ下せぇ! アインの旦那もアルトロ親分の到着を待っておりやす!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る