第20話屈辱

  俺たちはスネークの案内で三日間の馬旅を続け、何事もなくオスターの街並みが目視できる距離までやってきた。


 当初アーロンが懸念していた偵察部隊にも遭遇はしていない。

 ただ、遭遇していないというだけで既に見つかっており、敵の大将に報告されていないとも限らないのだが。


 まぁそこは考えても仕方がない。

 仮にパリセミリスに俺たちの存在が知られていたとしても、アリアを救出することは変わらない。


 問題はアリアが現在もオスターにいるかどうかだ。

 すでに別の場所へと移送されていたのなら厄介だ。

 それが敵地であるパリセミリス内なら尚更厄介だろう。


 俺たちはオスターの街の近くで馬を下り、スネークと共にアリアたちを監視していた元山賊が、今もオスター内に潜伏しているということをスネークから聞かされていた。


 潜伏している仲間と連絡を取るにはオスター内に入り込まなくてはいけない。

 そのためスネークの案内で、街の外から街の中へと続く下水を通らなくてはいけないらしい。


 なにせ街の周囲は巨大な外壁が取り囲み、出入り口にはパリセミリス兵が警備に当たっているのだ。


 この巨大な外壁を見ただけでも、他国の兵が簡単にオスターという街を落とせないことは一目瞭然だ。

 なのにオスターの外壁は全く崩壊していない。


 この街に攻め入る以前、或は戦争前からすでに、この街の領主とパリセミリスは繋がっていたのだろう。


 だとすればなぜ、この街オスターの領主は寝返ったかだ。

 セスタリカとパリセミリスでは間違いなくセスタリカの方が兵力は上なのだ。


 一時的にパリセミリス側に有利にことが運んだとしても、兵力差が勝るセスタリカが長期戦になれば絶対的に有利なのだ。


 このセスタリカとパリセミリスの戦争はきな臭いことばかりだ。

 何もかもが釈然とせん。


 考えられることはひとつ、パリセミリス側の後ろに何かがいるということだ。

 そのなにかを確かめるためには、ある程度の地位を持つ者でなければ知りえないことだろう。


 ましてやココル村を襲った雑魚をいくら拷問しようが、端から情報を知らなければ意味がない。


 その真偽を確かめるにはアリアを捕らえている親玉を捕まえることが必要だ。


 アリアの救出と、この国の脅威を探るために俺はこれからスネークが案内してくれた、鼻がひん曲がりそうな下水に入るのだ。


 当然のようにスネークもアーロンたちも入っていくが、俺は王子だぞ!

 元七大魔王の一人だぞ!

 屈辱だ! なんでこの俺が糞まみれの中を歩かにゃならんのだ!


 先程は捕らえると言ったがやめだ、殺す!

 確実に殺してやる!

 この俺様に糞まみれの中を歩かせたんだ、万死に値する!

 もはや極刑は免れんだろう!


 前方を歩くスネークが振り返り、俺の顔を見て近くにいたパリスに話しかけている。


「パリスの姉さん!」

「ん? なに?」

「なんかアルトロ王子の顔がおっかないっす! 何かあったんっすかね?」


 スネークの言葉を聞き、皆一斉に俺の顔を確認し、すぐに正面へと向き直した。


「スネークはバカなのですか? クソ踏んで笑顔になるやつなんていないですよ。あとでこの糞まみれの下水、爆裂魔法で吹き飛ばしますよ!」

「許可する!」


 ルナと俺の言葉に笑みを浮かべ、話に混ざってくるセドリック。


「ハハハ、それはよく爆発するだろうね! メタンガスに引火していつもより爆発すること間違いなしさ」


 セドリックの言葉になぜか瞳を輝かせるルナ。

 やれやれと呆れるゼンも口を開いた。


「クソ花火なんて上げたらこの街が壊滅してしまうだろ!」

「それよりもっと違う方法で街へ侵入できなかったのスネーク!」


 元は貴族育ちのリリアーナだ、この糞まみれの道に俺同様お怒りだ!


「仕方ないっす! このルートが確実で安全なんっす!」

「だからってねぇーあんた――」

「よさぬかリリアーナ! スネークはよくやってくれている、怒りと屈辱はもうしばらく溜め込み取っておくのだ。すべて敵に叩き込んでくれるわ!」


 俺の言葉に完全に納得はしていないが、仕方ないと頷いている。


「……アルトロがそう言うなら」


 みんなの様子を黙って見ていたアーロンが微笑んでいる。


「どうしたアーロン、この臭さで頭がおかしくなったか?」

「いや、敵地に乗り込んでいるというのに、頼もしい仲間たちだなと思っただけさ」


 アーロンの言うとおり、敵地に潜入しているというのに緊張なんてまるでしていないな、バルとメスも黙ってはいるが、緊張しているわけではなさそうだ。


 俺たちはまっすぐ続く下水を喋りながらも、警戒を怠ることはなく進んで行くと、奥に光が見えた。


 透かさずスネークが光を指差し俺たちに知らせる。


「あそこから街の川原に出れるっす!」


 スネークの言葉に自然と皆笑みが溢れた。

 当然だ。

 この地獄のような場所から一刻も早く抜け出したいのだ。


「安全を確認するため、合図するまでここで待っていてほしいっす」

「俺も一緒に行こう」


 光が差し込む出口まで、スネークとセドリックが確認に行き、すぐに二人が手招きをし俺たちを呼んでいる。

 小走りで駆け寄り、スネークが川原に出るための鉄格子を器用に外していく。

 その光景を見てパリスが感心している。


「器用に外すわね!」

「あらかじめ外れるように細工してたっすよ。さぁここから街に入るっす」


 俺たちはスネークが外してくれた鉄格子をくぐり、街へと侵入を果たした。

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