第19話出発

 ココル村の南東で、俺はリリアーナ、ゼン、スネークの四人と共に、アーロンが来るのをじっと待っていた。


「しかし何人くらいでオスターに乗り込むんっすかね?」

「確かにアーロンの言うとおり大人数で行くのは好ましくないから、本当に少人数だろうな」

「問題ないわよ! その気になればあたしとゼンだけで憎きパリセミリスなんて、皆殺しにしてやるわよ!」


 腕を組みのんきな表情のスネークとは対照的に、石垣に腰を下ろし、太刀を握り締めるゼンは既にやる気満々だ。

 そのゼン以上にやる気に満ち溢れているのがおてんば娘、リリアーナだ。


 リリアーナの腰には俺が用意してやったアダマンタイト製の鞭が装備されている。

 リリアーナが使っていた革製の鞭は俺がみじん切りにしてしまったからな。


 だがそのお陰で、リリアーナの鞭の威力は俺と戦った時より遥かに上がっているだろう。

 なにせアダマンタイト製だ!


 鉄の100倍以上の強度と、革に匹敵するほどのしなりを得るように、一流の職人が創り上げたモノだからな。

 その鞭から繰り出される『茨の道』はかなり脅威だろう。


 なんて考えているとアーロンが馬と数人の兵を引き連れやって来た。


「待たせたな、アル」


 俺はアーロンが連れてきた兵に目を向けた。

 パリス、セドリック、ルナ、あと二名はよく知らんが、優秀なんだろうか。


「そこの二人はよく知らんが使えるのか?」


 俺の問いかけにアーロンは真顔で頷き、二人の兵は少し緊張しているようだ。


「戦闘力は期待できないが、この二人は工作要員だ!」

「工作要員? それは必要なのか?」


 俺が魔王をやっていた頃は力ずくが基本だったし、面倒なことは幹部に丸投げだったからな。

 しかし人間同士の戦いには必要なものなのかもな。


「まずオスターについてもアリア様たちがどこに捕らえられているかなどの情報を集めるのも、その道のプロが行った方が早くて的確だ!」

「なるほど」

「さらにスネークの話だと、街の領主だった男がパリセミリス側に寝返っているとのことだ、他にも寝返っている者がいるか、調べあげることも重要になってくる。さらに街の者たちにアリア様が街を救おうと戦っていることを伝え回ることで、住民をこちらの味方に付けることも狙いだ!」


 なるほど、戦いは剣を交えるだけではないということだな!

 つまりは情報を掌握し、操作した者が有利になるということか。

 勉強になるな!


「自分はバルと言います」

「私はメス、アルトロ王子のお役に立てるよう全力を尽くします!」


 二人共まだ二十代といったところか。

 バルの方は堅物って印象だな、メスはどことなく軽そうな印象を受ける。

 お互いに持っていないものを持ち合わせているいいコンビじゃないか。


「全力を尽くしてくれることはありがたいが無茶はするな! お前たちはアイーンバルゼンの大切な民なのだ、命の危険を感じたら逃げることを俺が許す!いいな?」


 バルとメスは互いに顔を見合い少し驚いていたが、すぐに笑みを浮かべ頷いた。

 その姿を見ていたアーロンたちも笑を浮かべている。


「噂通りの御方のようですね、アルトロ王子は!」

「全くだ! あなたのような方のためなら全力を尽くしますよ。もちろんヤバくなったら指示通り逃げさせていただきます」

「それでいい」


 しかし噂通りとはどういうことだ?

 アイーンバルゼンにいた頃の俺の噂といえば、前代未聞のクズ王子だが、なんかニュアンスが違うな。

 まぁいいか。


 ともかく俺を含めたこの10人の心強い仲間と共に、オスターに囚われたアリアを救い出し、アリアのハートを今度こそ射止めてやるぞ。

 俺のパラダイス計画は誰にも止めることなんてできないんだ。


 ちなみに、ザックはアーロンがココル村からいなくなるので、その間村を守り兵たちを指揮するためにココル村に残っている。


 兵団の副隊長を務めるザックが残っているなら問題ないと思う。

 まぁもしなにかあったとしても、飛空艇もあることだし大丈夫だろう。


「それじゃオスターへとっとと行きましょう!」

「いざとなれば私の爆炎魔法で街ごと吹き飛ばしてあげますよ!」

「オスターの女性たちは俺とアルで救ってやるさ!」


 パリスの言葉に皆頷き、馬に股がりいざオスターへと出発したのだが、ルナは相変わらず物騒なことを言っているな。

 それに引き替えセドリックは素晴らしい!


 オスターの女たちか、美女がたくさんおると良いな。

 なんて考えていたら、俺の背に乗るリリアーナが、俺の腰を腕で目一杯締め付けている。

 何かを悟っているのだろうか!


「アルトロ! オスターへ行っても変な女にちょっかい出さないでよね。じゃないとあたしのアダマンタイト製の鞭が音を立てるわよ!」


 俺の耳元でなんと恐ろしいことを口にするのだ!

 だが、そんなジェラシーに燃え上がるリリアーナも可愛い。

 ジェラシーのない女など、売春宿にいるダッチワイフと同じだ。


 テンションの上がった俺は手綱を手に立ち上がり、声を上げて駆け抜ける。


「今行くぞ、オスターへ!」


 俺の姿を見て他の連中も馬に鞭を入れ、速度を上げた。

 こうして俺たちはアリアたちを救出するべく、オスターへと馬を走らせた。

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