第17話主の命令

「待つんだアル!」


 今すぐオスターへ向かい、アリアの救出に向かう意思を伝えると、アーロンは俺に待てと言ってくる。


 アーロンは状況が分かっていないのか?

 すぐに救出に向かわなくてはアリアの身も無事では済まないかもしれないんだ。


「なにを待つと言うんだ! すぐに飛空艇でオスターに向かう準備をするんだ!」

「冷静になれアル!」


 アーロンは俺の目を真っ直ぐに見つめ、俺に冷静になれと言っているが、俺は至って冷静だ。


「俺は冷静だアーロン! 俺のどこが冷静じゃないという?」


 アーロンは深呼吸し、自身の考えを話し始めた。


「いいかアル、俺もアリア様たちを救出に向かうことは賛成だ。だがオスターまでは馬で行く。それとアリア様たちを救出に向かうのは、極少人数で編成した部隊だ!」


 コイツは何を言っている!

 馬でオスターまでは三日かかるのだぞ!

 それにオスターはパリセミリス兵が占拠している、少人数で攻め入っても時間がかかるだけだ。


 だが、アーロンの目は真剣だ。

 一体なにを考えている?

 俺は瞳を閉じ、深呼吸し、再びアーロンの目を見て問う。


「理由はあるんだろうな?」

「もちろんだ!」


 周囲を見渡せば、ザック、パリス、セドリック、ルナにゼンたちもアーロンが正しいと言いたげな表情をしている。


「いいだろう! では理由を話せ!」

「まず飛空艇を使わず馬で向かう理由は一つだ! 飛空艇なんて目立つもので乗り込めば、敵にすぐに発見されてしまう。そうなれば人質になっている者たちを盾に使われかねない。それに何よりこちらの存在に気づいたパリセミリスが、アリア様を別の場所へ移送する可能性がある」


 確かにアーロンの言うとおりだな。

 俺は焦って状況が見えなくなっていたのか?

 情けない! それに比べこの男は優秀だな。


 アーロンが貴族の家柄に生まれていれば、騎士団でもそれなりの地位を築いていただろう。

 つくづく貴族制度というものが国をダメにしていることがわかるな。


「して、少人数で向かう理由は?」

「敵が偵察部隊を放っている可能性があることを懸念し、大人数での大移動は目立ちすぎるのと、先日ココル村へと攻め入ったパリセミリス兵から連絡が途絶えたことを不審に思ったパリセミリスが、再びここココル村へと兵を派遣する可能性が危惧されること。アルトロ王子はココル村をセスタリカの王から任されている、この村に何かあれば、それはマーディアル王家はもとより、我らが祖国アイーンバルゼンの顔に泥を塗ることになります。それだけは一兵とし、見過ごせることではない」


 そこまで俺のことを、アイーンバルゼンのことを考えてくれていたのか。

 俺は頷き、考えを改め、アーロンの意見を認め指示を出す。


「ではアーロン、お前がオスターへ同行させる者たちを選び抜くのだ! それと万が一の事態を想定し、ココル村を守り抜けるだけの優れた兵もここに残すのだ、いいな!」

「もちろんだ!」


 アーロンは俺の言葉を聞き、嬉しそうに微笑んだ。

 きっと一介の兵に過ぎないアーロンは、戦地で自分の意見が通ったことなどなかったのだろう。


 周りの者たちも、自分たちの隊長の意見が通ったことを喜んでいる。

 良き隊長は部下に慕われると聞く、その部下たちを育て上げたのもアーロンなのだろう。


 俺はこいつらがますます気に入った。

 俺はアーロンに再び指示を出した。


「では一時間後、オスターへ向かいここを発つ、それまでに部隊の編成と準備をしておくように!」


 アーロンたちに出発の時刻を告げ、この場を立ち去ろうとした時、俺の腕をがっちり掴むリリアーナが大声を上げた。


「オスターへはあたしも一緒に行くからね!」


 な、何を言っておるのだ?

 連れて行くわけないだろう!

 アーロンたちも驚いているじゃないか。


 しかし、俺の腕を掴み、透き通る眼差しを向けるリリアーナの顔は真剣そのものだ。

 リリアーナの言葉を聞き、黙って聞いていたゼンも声を上げた。


「悪いが俺もオスターへは同行させてもらうぞ!」


 なんでこいつらわざわざ戦場に行きたがるんだ?

 ココル村に残っていた方が楽できるだろう。

 そう思ったのだが、ゼンはその想いを俺にぶつけてくる。


「ようやく山賊から抜け出せ、新たな主君を得たというのに、俺のいない場所で死なれでもしたら俺は自分が許せない! ならばせめて盾としてでも同行させてくれ!」

「ゼンの言うとおりよ! あたしは、アルトロ! あなたの側から離れない! あなたが命を落とすその1秒前に、あたしは死ぬわ!」

「俺も行くっすよ! オスターまでは案内人が必要っす。俺も王子の盾になるっす!」


 ゼン、リリアーナ、スネーク、こいつらは大馬鹿だ!

 だけど、愛すべき大馬鹿だ!

 彼らの想いを汲み取ることも主の務めだ!


「いいだろう!ゼン、リリアーナ、スネークの三名はオスターへ同行させる! いいなアーロン!」

「ああ」


 アーロンも彼らの想いを汲み取ったのだろう、俺とアーロンの言葉を聞き、三人の顔には笑みが溢れている。

 俺の腕を掴むリリアーナの手にも力が込められているのがよくわかる。


 俺は喜ぶ彼らに主として、最初の命令を下す。


「ただし! リリアーナ、ゼン、スネーク! 俺のために死ぬことは許さん! 俺が年老いて死にゆくまで、俺を守り抜くことがお前たちの最初の任務だ!」


 俺の最初の命令に三人は深く頷き、微笑み意気込みを口にする。


「もちろんよ!」

「その任務必ず遂行してみせる!」

「俺もやるっすよ!」

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