第14話側室

「あんたら一体なんなのよ?」


 ヘタレ込んでいた女王様が立ち上がり話しかけてきた。

 どうやら話を聞く気になったようだ。


「俺の名はアルトロ=メイル=マーディアル。セスタリカより西にあるアイーンバルゼンから来た、第三王子だ!」

「「おうじぃぃいい!」」


 まぁその反応は正しいな。

 俺のような可憐な美少年が王子様なんだもんな。


「お前が王子!」


 俺に自慢の人技を防がれ、ショックで固まっていたゼンが刃を鞘に収め、俺の顔をガン見してきやがる。

 男に見つめられても嬉しくないのだがな。


「ちなみにそこにいるのはセドリックとその部下だ! 皆アイーンバルゼンの兵士だ」


 山賊たちはセドリックたちに視線を向け、すぐに俺へと戻し、先程まで転げまわっていたモヒカンが不思議そうに聞いてくる。


「なんで他国の王子様がこんな所にいるんっすか? それに俺たちに話ってなんっすか?」


「お前たち山賊の頭はそこの女王……じゃなくて。そこの女でいいんだよな?」


 俺の言葉に少し緊張したようすで頷いている。


「ええ、あたしが頭よ!」

「そんなに緊張しないでくれ。俺たちはお前たちを退治しに来たわけでも、捕らえに来たわけでもない!」

「じゃあ、何しに来たのよ?」


 当然の答えだな。

 なら俺もド直球に聞いてみるか。


「お前はこの国、セスタリカの没落貴族か?」


 女は真っ直ぐに俺の目を見て、悔しそうに唇を噛み涙を浮かべている。


「だったらなによ! それがあんたになんか関係あるわけ!」


 コイツの反応を見る限り、貴族としての誇りはまだあるようだな。

 それにゼンやスネークに他の山賊たちの反応も同様だな。

 やはり村長が言っていた通り、こいつらは元家臣か。


「なぜ貴族の地位を失った? 見たところお前は俺と年も変わらんだろう? 親はどうした?」


 俺の問いかけに俯き、悔しさを押し殺している。

 少し無神経すぎたか。


「死んだわよ……殺されたわよぉおお!」


 悔しさを押し殺していた女が怒気を上げた。

 静まり返る森に女の悲痛な叫びが木霊する。


「パリセミリスの兵か?」

「そうよ……あいつらがみんな殺したのよ。セスタリカの兵も誰も助けに来てくれなかったわ、あたし達は国からも見捨てられたのよ!」

「……それは気の毒だったな」

「慰めなんていらないわよ!」


 俺はこの場にいる山賊たちに目を向け、反応を確かめるが、皆悔しさを押し殺している。


「ここに居る者たちは、お前の家臣だった者たちか?」

「一部はそうよ」

「一部? では残りの者は?」


 その問にゼンが答える。


「俺の……マクロング家の元家臣だ。それと、そこにいるスネークたちはパリセミリスの兵から逃げる際に知り合った」


 ゼンも貴族だったのか!

 ゼンほどの腕があれば、騎士団に入団することも可能だっただろう。


「山賊は全員で20ほどいると聞いたが? この場には10人もいないようだが?」

「全員で16名だ。この場にいない者は近くで待機している。お前たちが見えたんでな」


 なるほどな、気づかれていたのか。


「ところで頭の、お前の名はなんという?」

「リリアーナ=ストロングよ」

「ではリリアーナ、お前は俺の側室になれ!」

「はぁあああ?」


 リリアーナは赤面し驚いている。

 ゼノもスネークもセドリックたちも皆驚いている。

 セドリックや兵たちに関しては、何言ってんだお前と言いたげな顔をしている。


 まぁ言いたいことは分かる。

 だがそのためにわざわざここまで来たのだ。


「なんであたしがあんたなんかの側室になるのよ! ふざけんじゃないわよ、この変態!」


 鞭を振り回すSM好きの女王様に変態呼ばわれされるとは!

 それともこれもプレイの一貫か?

 コイツ本物だな!


「こんな生活をずっと続けるわけにも行かんだろう?」

「だからってなんであんたの側室になるのよ!」

「お前が気に入ったからだ! それ以外にあるまい」


 再び林檎のように顔を真っ赤にし、口を開けている。

 まんざらでもない顔だな!

 こいつ完全に俺に気があるな、間違いない。


 俺とリリアーナ二人の遣り取りを見て、ポカーンと間抜けな面をしているゼンへと視線を向け、大事なことを伝える。


「ゼン、お前も俺の下で働け!」

「ええぇ? 俺は男だぞ!」


 何言ってんだこいつ!

 まさか気色悪いこと考えてんじゃないだろうな!

 コイツやっぱりアホだろ!


「そんなこと見りゃわかる! お前の腕を買ってやるって言ってんだ!」


 鞘に収めた太刀を見つめ、ようやく理解したのか真剣な顔つきをしている。


「俺の腕を……一国の王子が認めた! だが、俺はお前に手も足も出なかったんだぞ!」

「そのことなら気にするな。俺に敵う奴などいないのだから」


 それにしても表情が冴えないな?

 嫌なのか? 山賊暮らしよりマシかと思うのだが。


「俺と来るのが嫌なのか?」

「……そうじゃない。俺の腕を認めてくれたことは単純に嬉しい!ただ……」

「ただなんだ?」

「俺とリリアーナがいなくなれば、残された仲間たちが気がかりでな」


 なるほど、そういうことか。

 貴族という立場を失ってもなお、自分についてきてくれた者たちを見捨て、自分だけ新たな人生を踏み出すことに抵抗があるんだろう。


「そのことなら気にするな。お前たち16人全員、俺の元に来ればいい! もちろん、リリアーナは俺の側室だがな!」

「いいのか!」

「いいわけないでしょ!」


 目を輝かせ希望に満ち溢れるゼンと、恥ずかしがりながらも確実に喜んでいるリリアーナたちを手に入れた俺たちは、残りの山賊を迎え、ココル村に帰還するのだ。

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