第13話女王様!?

 太刀を構えるゼンに、セドリックや兵たちも身構えている。


 目を見開いたゼンの体から闘気が溢れ、必殺の一撃は放たれた。


「人技! 首刎ね地蔵!」


 ゼンが人技を繰り出すと、俺の体がゼンの太刀へと引き寄せられていく。

 ゼンは微動だにする事なく、引き寄せられる俺の首めがけ太刀を振り払う。


 俺は敢えてゼンの太刀に引き寄せられてやった。

 しかしその光景を目にしていたセドリックは焦ったのだろう。


「アルゥゥウウウ!」


 セドリックの叫びと同時に、再び刃がぶつかり合う音が響き渡り、ゼンもまた驚愕に顔を歪めていた。


 俺がゼンの太刀を黒き刃で軽々と受け止めていたからだ。


「受け止めただと! 俺の首刎ね地蔵を見切ったというのか!」


 俺は微笑み後方へ跳躍した。

 ゼンは自分の人技を軽々と防がれたことに驚いているようだが、それほど驚くことではない。


 ゼンの人技、首刎ね地蔵は文字通り、地蔵のように動かず相手の首を引き寄せ、斬り刎ねるというものだ。


 初めからゼンの刃が首に来るとわかっているのなら、受け止めることは容易い。

 恐らくゼンの首刎ね地蔵は、対複数戦を想定して編み出された技だろう。


 不意に引き寄せられたのならまだしも、あんなに堂々と首刎ね地蔵と叫ばれては、首を守れと言われているようなものだ。


 俺の見立てでは首刎ね地蔵の範囲はゼンの半径3メートルといったところ。


 ゼンの3メートル以内にいる複数の敵を、一気に引き寄せ斬り刎ねるのだろう。

 確かに使い勝手のいい人技ではあるが、それなりの経験を積んだ者との一騎打ちでは通用しないだろう。


「見切ったもなにも、お前の人技は一騎打ちには向かないだろう」


 俺の言った意味を理解したのか、固まってしまった。

 コイツ腕はいいが、アホだろう。


「とりあえず刀を収めて、俺たちの話を聞いてくれないか?」


 ゼンに話し合いを求めていたのだが、ゼンが固まってしまった姿を見て、慌てて援護をしようと茂みに潜んでいた山賊が飛び出してきた。


 「あたしが相手だぁあああ!」


 怒気と同時に飛び出してきた者に目を向け、俺は笑みが溢れた。


 茶髪に片方で結んだヘアースタイル、猫のような鋭い顔つきに豊満な胸。

 俺を誘っているとしか思えないショートパンツから惜しげもなく披露される白い太もも。


 間違いない、コイツが俺の探していたパラダイスの住人だ!


 鞭を巧に操り、俺に放てきやがる!

 女王様プレイか! 悪くない!

 その変態プレイ付き合ってやろう!


 放たれた鞭を躱し、右足で力強く地面を蹴り、一気に女王様の懐へと入り込む。


「ようこそ。パラダイスへ!」


 一気に間合いを詰められた女が驚き、後ずさりするが、俺は離れない。


「意味わかんない! なんなのよコイツ!」

「下がるのか? さては、ドSなフリしたドMだな! この変態めぇ」

「はぁ? なに言ってんのコイツ! キモイんだけど!」

「キモいと言いつつ嬉しいんだろ? ちなみに、何カップだ?」

「なんであんたにそんなこと言わなきゃいけないのよ! スネーク援護して!」


 近くいたスネークと呼ばれる下僕のモヒカンに援護を求める女王様!

 女王様の指示を聞いた羨ま……じゃなくて、哀れな下僕が忠実に指示に従い、短剣片手に突っ込んできやがる。


「これでも喰らえぇえええ!」


 チビのモヒカン下僕が短剣を突き出してくるが、コイツは雑魚だ。

 華麗に躱し、膝蹴りを腹にお見舞いしてやった。


 痛かったのか腹を抱えぐるぐると回り転げている。

 手加減してやったつもりなのだが、弱すぎる。


 恐らくこの山賊たちの中でまともなのはゼンだけなのだろう。

 だから、初めに飛び出してきたのもゼン一人だったのだろう。


 そう思っていたのだが、鞭を構える女王様から闘気が溢れている。


 女王様は腕を突き上げ、鞭をぐるぐると回し始めた。

 まさか、女王様も人技を会得しているのか?


 人技を発動する前に止めることも可能なのだが、面白い!

 見てやろう!


 「これでも喰らえぇえええ! 茨の道!」


 女王様が鞭を放った瞬間、放たれた鞭から無数の刺が生え、広範囲に伸びた刺が俺たちを襲った!


 少し離れた場所にいたセドリック達も慌てて回避するが、回避し損ねた数人の兵の体に伸びた刺が突き刺さる。


 デタラメな人技だな、だが回避し損ねた兵たちも急所は外れてる。

 いや、外してくれたと言った方がいいのか?

 まさに、茨の道だな。


 女王様は俺に視線を向け、外したことを悔しがっている。

 

「なんで躱せるのよ!」


 悔しがっている姿もキュートなのだが、そろそろ遊びはおしまいだ。


「人技、俺の加速ファーストアクセル


 俺の人技、俺の加速ファーストアクセルは人に転生してから会得したものだ。


 その特性は他者の1秒を自身の2秒にするもの。

 この能力は普段、ベッドの上で高速で腰を振るために生み出されたものなのだが、戦闘にも使える。


 俺は加速し、女王様の鞭を目にも止まらぬ速度でみじん切りにしてやった。

 女王様は、自分の握っている鞭が細切れにされ、短くなった柄の部分しかないことに気づくと、その場にヘタレ込んだ。


 俺は剣を鞘に収め、戦意を失くした山賊たちに声をかけた。


「俺たちはお前たちと話をしに来ただけで、争いに来たわけじゃない!」


 俺の言葉に山賊たちは顔を見合わせ、キョトンとしていた。

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