第12話山賊

 みんなを言いくるめることに成功した俺は、セドリックと数名の兵で村からほど近い、南西の森に来ていた。


 パリスとルナは連れてこなかった。

 女を攻略しに行くのに女を連れて行っても仕方ない。


 ルナに至っては爆裂魔法をぶっ放され、山火事を引き起こす恐れもあるし、なにより女山賊が傷ついたら大変だ。


 あのちびっ子は限度というものを知らなさそうだし、俺に対しても吹き飛ばすと言うくらいだ。

 連れてくるには色々と危険すぎる。


 その点、セドリックは適任だ。

 軽装に身軽な身のこなし、広い視野で危険を察知する。

 それに何より女好きだ。


 類は友を呼ぶ、同族嫌悪と言う言葉もあるが、何事もポジティブが大事だ。

 ネガティブな男に女は惹かれないだろう。


 山賊は20近くいるらしいし、女が頭の一人だけという事はないだろう。

 沢山いたらセドリックにも分けてやろう。


 もちろん、いい女は俺がもらう。


 期待に胸を膨らませながら、慎重に森の中を進んでいく。

 慎重に進む理由は山賊や魔物の奇襲を受けないようにするためだ。


 突然、前方を歩くセドリックが足を止め、膝を突いて地面を確かめている。


「どうかしたのか?」


 セドリックは膝を突いたまま振り返り、返答する。


「足跡だ!」


 セドリックの元まで行き確認すと、数名の人の足跡が確かにある。

 セドリックは俺を見上げながら「まだ新しい」と言い、俺たちは先を急ぐことにした。


 しばらく獣道を進むと、開けた土地に小屋を発見し、恐らく山賊たちのアジトだろうと判断した。


 「俺たちが小屋を確認してくる、アルはここにいてくれ」


 セドリックは俺にここで待つよう言い、数人の兵と小屋に近づき、小窓から中の様子を確認している。


 随分と慎重な奴だな。

 たかが山賊にそこまで警戒する必要もないだろうと、小屋に向かい歩きだそうとした時、小屋を偵察に行っていた兵の太ももに矢が突き刺さった。


「ぐああぁぁあぁぁぁ」


 堪らず兵が声を上げ、矢が飛んできた方角にセドリックが目を細め、近くにいた兵にすかさず指示を出す。


「負傷した者を後方へ避難させ、矢を抜かず布で縛るんだ」


 セドリックの指示に従い、兵は迅速に行動する。

 すぐにポーションを使わないのは、さらなる重傷者が出た時のことを考えてだろう。


 飛空艇に戻れば幾らでもポーションはあるのだが、現在は数を持参していない。

 弓隊の隊長を務めるだけあり、冷静で的確な判断だといえる。


 しかし敵ものろまではない。

 この隙を逃しまいと、茂みの奥から太刀を振りかざす長髪の男が走り込んできた。


「うらああぁぁぁぁぁあぁぁ!」


 セドリックは弓を捨て、腰に提げた短剣を抜き取り、長髪の男の刀身を短剣で受け止めた。


 「何者だ貴様らあぁあああ!」

 

 長髪の男は怒りの中にも冷静さを兼ね備えており、ただの山賊でないことは一目瞭然だ。

 しかもこの男、なかなかのイケメンだ。


 うちのセドリックに負けず劣らずといったところか。


「俺たちはアイーンバルゼン国からやってきた!」

「アイーンバルゼンだ! 他国の兵がなぜこんなところにいる!」


 セドリックと長髪の男は競り合い、会話をしながら互の出方を伺っている。


「ココル村の村長に頼まれここに来た!」

「俺たちを捕らえに来たというわけか!」


 このままでは不味いな。


 長髪の男は完全に俺たちが自分たちを捕まえに来たと勘違いしてる。

 それに、セドリックは弓の名手だ。

 見たところ剣の腕はイマイチ。


 それに引き換えこの男、かなりの腕だ。

 茂みの奥にも数人潜んでいるようだし、面倒になる前に止めるか。


 俺はセドリックと長髪の男に歩み、声をかけた。


「セドリックもそこの長髪の男も剣を収めよ!」


 俺が出てきたことにセドリックは驚き、声を荒げる。


「なぜ出てきたアル! 戻るんだ!」


 長髪の男はセドリックの慌て方で、すぐに俺が上の立場だと気づいたのだろう。


 競り合っていたセドリックの僅かな隙を突き、セドリックの土手っ腹に強烈な前蹴りを入れ、セドリックが後方へ吹き飛ぶと同時に、俺の方に太刀を振りかぶり走り込んできた。


「お前がこいつらの主かぁあああ!」


 長髪の男の振り抜かれた太刀が俺の体に触れる前に、俺も腰から黒き刀身、漆黒の剣を抜き受け止めた。


 ギィイイイイ!


 鉄がぶつかる音と同時に長髪の男は驚いている。

 細身ではあるが、190近い男が両手で振り抜いた太刀を、俺は片手で容易く止めたのだ。


「な、なんだお前!」


 その光景を見ていたセドリックも兵士たちも、驚き目を見開いている。

 俺は片手で長髪の男の太刀を受け止めながら、男に話しかけた。


「なかなかいい腕だな! 山賊にして置くのはもったいないな、お前名前は?」


 男は睥睨し、恐る恐る答えた。


「ゼン……ゼン=マクロングだ」


 ゼンと名乗った長髪の男に俺は微笑みかけ、話を続ける。


「ゼンか、いい名だな。ではゼン、剣を収めてはくれないか? できることならお前を斬りたくはない!」


 俺の態度が気に障ったのか、ゼンは眉間にしわを寄せ後方へ飛び、腰を落とし太刀を肩の後ろに構えた。


「俺を斬る? 舐めるなよ小僧」


 明らかにゼンの身に纏う雰囲気が一変した。

 俺から距離を取り、太刀を構える姿から、なんらかの人技を繰り出すことは明白だ。


 人技、それはパリセミリス兵との戦闘でザックが魅せた特殊な技だ。

 絶え間ぬ努力の中で武人が会得する、魔法とは異なる力。


 人技を会得し、極めた者の中には、仙人や勇者と呼ばれた者もいた。

 まだ俺が七大魔王だった時代にも、勇者が俺の首を取りに来たことがあった。


 もちろん、人技はその者の才能や性質によって力の性能は異なる。

 全く同じ人技を有する者はいない。


 故に、目の前にいるゼンが勇者に匹敵する人技を有しているかもしれない。

 お手並拝見だな。

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