第11話腹黒

 昨晩の宴は盛り上がった、村人たちも村を救った俺たちに上機嫌でご馳走を振舞ってくれた。

 だが、肝心のアリアとの距離はあれ以上近づくことはなかった。


 捕虜となったパリセミリス兵は馬小屋に捕らえ、兵たちが交代で24時間監視している。


 アリアと一緒に来たフレイを含めた四人の付き人の内、一人が早馬を走らせ王都タリスタンに報告へ向かった。


 直に王都から兵がやって来て、捕虜を引取りに来るだろう。


 俺は村長が用意してくれた家があったのだが、狭いし何よりベッドが小さいので、飛空艇に戻り、飛空艇の自室で眠りについた。


 もちろん隣にはシスが居た。

 今は洗濯など雑用があるらしく、部屋を出て行ってしまったのだが、俺もやることがあるので支度を済ませて村に行く。


 やる事といえばもちろん決まっている。

 アリアとシスターアイシアの攻略である。


 できれば女狐フレアも攻略したいのだが、優先順位というものがある。


 なので、今こうして村を徘徊し二人を探しているのだが、どこにもいない。

 相手がいなければ攻略のしようがない。


 仕方なく、村の中央広場までやって来ると、見つけた!

 あの可憐な真紅の髪に、村に似つかわしくないドレスに身を包んでいるのは間違いない、アリアだ!


 アリアの他にもフレイ、アーロン、ザック、パリス、ルナ、セドリックに村の村長まで居る。


 一体何をしているんだ?

 俺はみんなに近づきながら声をかけた。


「そんなところに集まって何してるんだ?」


 一斉にこちらに顔を向けるが、何やら渋い顔をしている。


「ちょうど良かったわアル!」


 パリスが俺を呼ぶのだが、何がちょうど良かったのだろう?

 みんなの元にたどり着くと、パリスが事の経緯を教えてくれる。


「実は村長さんが村の近くの森に以前から山賊がいるって言うのよ」

「それがどうした?」


 聞き返すとアリアが突っかかってきた。

 よほど俺とコミニュケーションが取りたいのだな。

 素直じゃない奴だ。


「あんた鈍いわね! 迷惑だから退治してくれって言ってんのよ!」


 アリアは可愛いが、正直めんどくさい!

 山賊なんてどこにでもいるだろう、それにこれまでだって居たのなら気にする事なかろう。


 この際、俺らがいる間に何とかさせようってか!

 腹黒すぎだろ、村長。


 そんなむさ苦しい連中どうでもいい。

 それよりアリアとの仲を深める方が先決だ!


「手の空いてる者にでも退治させたらいいだろう」


 それもそうだと頷くアーロン。

 アーロンが頷いたのを確認し、セドリックが村長に山賊の詳しい情報を聞く。


「それで山賊の詳しい特徴とか、人数とかはわからないのか?」

「山賊は20人ほど確認されており、山賊の頭は女だと聞いております」


 ん? 女?

 いや待て、どうせ山賊だ、ゴツイ女に決まってる。


 だが、賢い俺は念のため聞き耳を立てる。


「女が山賊の頭とは珍しいじゃねぇかっヒ」


 朝から見事に酔っ払ってやがる。

 だが、ザックの言うとおり、珍しいな。


「どのような怪力女なのだ? 爆裂魔法で吹き飛ばすか」


 ルナの言うとおり、2メートル位ある怪力女だろうな。


「それが噂によると、かなりの美女が頭だそうで――」

「――嘘だぁぁあああ!」


 いかん! つい口を挟んでしまった。

 皆驚いて俺を見ている。

 体制を立て直すため、っゴホンと一つ咳払いをして。


「続けなさい、村長」


 と、何食わぬ顔で話を聞く。


「あくまで噂ではありますが、元は貴族の出とかで、手下の者たちも貴族時代の家臣たちと聞いております」


 女山賊! 元貴族の美女!

 このとぼけた顔の村長が言うことが事実なら、欲しい!


 是非ともパラダイス計画に加えたい!

 倒すなんて以ての外だ!


「じゃあ、私とルナとあと適当に暇そうな兵を誘って、退治しに行ってくるわよ」

「それはありがたい」


 何が退治じゃ、どこがありがたいんじゃ!

 馬鹿かこいつら!


「待て!」


 話は済んだとこの場を後にしようとしていた全員が、一斉に立ち止まり俺を見る。


「話はもう終わりましたよ、アルトロ王子」

「フレイの言うとおりよ!」


 何が話は終わっただ、何も終わってないだろう!


「よく考えてみろ! 元貴族のいたいけな女性が生きるために止む終えず、山賊に身をやつしたのだ! それは間違いなくセスタリカとパリセミリスとの戦争が原因じゃないのか?」

「……それは」


 黙り込むアリアとフレイ。

 俺を見守るアーロンたち。

 俺は話を続ける、不審がられぬように、正当性を示すため。


「退治するのではなく、話し合い、共存の道を探してやることこそが、一国の姫の責務なのではないか? ひとりひとりの民あってこその国なのだ」


 俺の話を重く受け止めすぎたのか、アリアが俯いてしまった。

 フレイはなぜか崇敬の眼差しを俺に向けている。


「国とは人だ! 話し合いそれでもダメだった時は、やむを得ないこともある。――だからこそ俺が行こう、セスタリカ国の素晴らしき繁栄のため、俺が行って話をしてくる」


 この場にいる者たちに視線を向け、反応を確かめる。

 ど、どう? 説得力あったかな?


 フレイは深々と頭を下げている。

 アリアは俯いたままだ。

 アーロン、パリス、ザック、ルナ、セドリックの五人は微笑み頷いている。


 やってやった! 成功だ!

 頭を下げるフレイが俺に願い出る。


「この件、アルトロ王子にお任せします」

「任せなさい」

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