第9話精鋭たち

「ザックは上手く誘導できているか?」


 30人程の兵が息を潜めた部屋の中、窓から様子を伺うアーロンとパリスに確認をする。


 アーロンとパリスの二人は俺に顔を向け、何故か神妙な面持ちだ。

 上手く事が運んでいないのか?


「うまく誘い込んではいるんだが」

「ザック副隊長……なんかキレてるのよ」


 キレてる? どういう事だ?

 俺が椅子に座ったまま顎に手を当てた素振りを見て、察したのかパリスが予測を口にする。


「多分向こうの兵士に何か言われたのよ」


 なるほど!

 完璧に村人だと油断して、暴言を吐かれたのか。

 あの酔っぱらい、暴れたりしないよな。

 

「問題はないんだよな?」

「ああ、問題わない」


 隊長のアーロンが問題ないと言ってるんだ、大丈夫だろ。


 じっと窓の外を伺っていたアーロンが囁くように指示を出す。


「全員、剣を抜き戦闘態勢に移行しろ」


 アーロンの指示で兵たちは剣を抜き、パリスも腰に提げたレイピアを手に取った。

 アーロンは俺に外の様子を逐一報告をしてくれる。


「パリセミリスの兵が中央広場に到着した」


 一瞬、兵たちに緊張が走る。


「隊長と思わしき男と、騎兵隊が馬から降りた」


 完全に油断しているな。

 そう思った次の瞬間、アーロンの広角が上がり、扉を蹴破りときの声を上げた。


 アーロンとパリスが真っ先に飛び出し、あとに続けと一斉に外へ飛び出す兵士たち、俺もゆっくりと椅子から立ち上がり外に出る。


 外に出た瞬間、慌てて立ち上がろうとするパリセミリス兵たちの頭上から、無数の鉄の雨が降り注ぐ。


 馬小屋の方角に目を向けると、セドリックたち弓兵部隊が、鷹の様な鋭い目つきで矢を放つ。


 その中でも一際異彩を放つセドリックは、背に背負った靫から矢を三矢抜き取り、口に一矢、逆手に一矢持ち、騎兵と思われる兵を的確に射抜いていく。


 一矢放ち、透かさず逆手に持った矢を弦に掛け放つと、口に咥える三矢目を透かさず放つ、見惚れるほどの見事な弓捌きだ。


 やるではないかイケメン!

 セドリックは俺の視線に気がつき、ニッコリと微笑んだ。

 俺もセドリックによくやったと頷き、視線を正面に向け直す。


 パリスは手にしたレイピアで確実に敵の息の根を止めている。

 目を一突き、鎧の隙間を縫う様にもう一突き。


 閃光の如く放たれたレイピアを、躱す事も受ける事も出来ぬほど、疲弊した兵士たち。

 女とは思えぬ程の良き腕だ。


 そして彼らの隊長アーロン。

 一切の隙を見せない立ち振る舞いと、圧倒的な剣術。

 右から左へ斬り裂き、流れるように左から右へと斬り裂いていく。


 その他の兵たちも見事な連帯でパリセミリスの兵を葬っていく。


 パリセミリスの兵たちも、この状況を立て直そうと一箇所に集まるが、それは愚策だ!


 屋根の上に佇むルナに目で合図を出し、それに気づいたアーロンたちは、一箇所に集まる兵たちから距離を取る。


 やってしまいなさい、ちびっ子魔道士!


 ルナがボソボソと呟くと、身を寄せ合うパリセミリスの兵たちの足元に、赤き魔法陣が浮かび上がり、ルナが高らかに声を上げる。


「爆裂魔法、エクスバースト!」


 赤き魔法陣が輝きを放つと同時に、大爆発を巻き起こす。


 倍はいたであろうパリセミリスの兵は、断末魔の叫び共に地に倒れ、その数が見る見る減っていく。


 隊を率いていた男も青白い顔に変わり始め。

 俺の出る幕もなく、呆気なく終わりを告げようとしている。


「ま、待ってくれ! 金ならやる見逃してくれ!」


 隊を率いていた男がみっともない声で命乞いをしている。

 だが無駄だ。

 他の国に攻め入ったのなら、死ぬ覚悟くらいできているだろう。


 男に歩み寄り、俺自ら引導を渡してやろうと剣の柄に手をかけた時、酔っぱらいが喚きだした。


「待ってくれ! そのクズは俺にくれよアル!」


 ザックはコイツを殺りたいのか?

 そういえばなんか怒ってるてパリスが言っていたな。


「ああ、別にいいぞ」


 俺の言葉を聞き、村人Aに扮する酔っ払いザックがめちゃくちゃ嬉しそうだ。

 余程腹が立っていたのか?


 ザックは麦わら帽を頭に乗せたまま、腰に提げた剣を抜き、男と向かい合った。


「お前、さっき程の村人か!」

「ああ、そうだ! 俺に勝ったら見逃してやるぜぇっヒ」

「村人如きが舐めるなよ! 剣を手にしたからといって所詮は村人! 図に乗るなよ」


 ザックが村人Aだと完全に勘違いしているなコイツ。


 ザックは腰からスキットルを取り出し、蒸留酒を一気に流し込んだ。

 空になったスキットルを投げ捨て、不敵な笑みを浮かべるザック。


「大した腕もねぇのに、ガタガタ言ってんじゃねぇーよっヒ」

「ほざくなああぁぁぁあぁぁ!」


 皆が見つめる中、ザックと男の一騎打ちが始まった。


 ギイイィイイイッィ


 男の剣をザックが剣で受け止めると、金属の擦れ合うけたたましい音が鳴り響く。


「どした? 村人に止められるようなチンケな腕しかねぇのか?」

「黙れえぇぇえぇぇぇ!」


 男の剣を後方へ跳躍し、躱すザック。

 男は走り込み剣を振るうが、ゆらゆらと左右に揺れながら躱すザック!


 なるほど!

 コイツ! ただの酔っぱらいじゃないな!

 あの動き、間違いない酔剣だ!


 酔う程に研ぎ澄まされていく剣術か、面白い!


「つまんねぇーな! お前弱過ぎ!」

「なんで、なんで当たらないんだ!」


 実力が違いすぎるな。

 奴の腕では何千回振ろうがザックには掠りもしないだろう。


 見てられん。


「ザック! さっさとその雑魚殺しちまえ!」


 俺の声に頷き、ニヤリ顔のザック。


「そんじゃ、終わらせるか!」


 ザックは男から距離を取り、俯き声を上げた。


人技じんぎ、水路流し!」


 揺らめいた残像を残し、ザックは一瞬で間合いを詰め、男の首を刎ねていた。

 男の首は地面を転がり、それを見た数十人の残ったパルセミリスの兵は武器を捨て、戦意を失った。


 それを確認した俺は兵に指示を出す。


「戦意を失った者は捕虜とする。それと誰か、アリアたちに終わったと報告してきてくれるか」

「了解しました」


 近くにいた兵が小走りでアリアたちの元へ報告に向かった。


 俺の活躍はなしか、残念。

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