Call27 気にする事と助ける事と


 ──自宅──




「テケちゃんは、帰しちゃったのね」

「……。……知ってたの? テケテケ来たこと」


 メリーさんと一緒に自宅に帰ってから……私は鞄を机に置き、そのままベッドに腰掛ける。

 ちゃんと話そうと思ったのはいいけど、どうやって話を切り出そうか……と考えていると、メリーさんがテケテケの話を始めたのだ。


「会いにいったのは知ってたのよ、るーるーに会いたがってたから」


 メリーさんは私の隣にふわりと座り、私の顔を見てふふっと笑う。


「会いたがってた?」


「……るーるーが振り返ってくれたからなの」


「……振り返るって」


 なにかあったかな、と思うけど、すぐに思い当たるものはない。

 んーっと悩んでいると、少しして、一つの小さな記憶が思い起こされる。

「もしかして、夢で……とか」

 そういえば、妙な踏み切りの夢を見た気がする。

 それにメリーさんは、小さく頷く。


「るーるーが気にしてくれたからなのね」


「気にしたから?」


「そうなの」


 メリーさんはその答えに満足げな笑顔を浮かべると……私から視線を外し、ベッドから立ち上がる。

 なんだろう……と思って視線で追うと、私が鞄をおいた机の上に、いつの間にかに小さなぬいぐるみやフランス人形達が幾つも並んでいた。


「気にしてくれる子は、みんなみんな好きなのよ。ジョンも、花子も、テケちゃんも、気にしてくれて嬉しいのね。だから会いたがるの」


 ぬいぐるみは全部汚れたり、傷がついたりしている。

 犬や猫、熊やクジラやパンダ……女の子や男の子……普通なら捨てられているような人形達は、見た目は不気味にも感じられたけど……メリーさんはその全部を、愛しそうに見つめていた。


「メリーさんは?」

「わたしも好き、大好きなのよ。でも……気にすると助けるは違うのね、違うの……助けるは、拾うことなのよ。るーるーはだから、テケちゃんを拾えないの」

 メリーさんはぬいぐるみの一つを手に取ると、少し悲しげに目を細める。

「拾う……」

「落ちて汚れて、可哀相だから拾うのね……でも、るーるーの手はちょっとしかないの、少ししか持てないの。メリーさんとは違うのよ」


 メリーさんの出した人形やぬいぐるみ達が、ふわ……と浮かび上がる。メリーさんの周りを人形やぬいぐるみがふよふよと浮かぶ光景は……どこか幻想的なものにも見えた。


「こういうこと、るーるーはできないのよ。こんなに持ってあげられない、拾っても持てないのね。置くことしかできないの」


 メリーさんが人形達を見てそう言ったから、小さく頷く。


「うん」



「るーるーはでも、拾おうとしたのね、わたしを。持てるかも分からないの、わたしがなにかも知らないの。でも、約束しようとしたの……約束は二人のものなのに、勝手にした……拾われるのは怖いのよ、捨てられるかもしれないの、なのに期待しちゃうから」


 メリーさんの声が暗くなる。

 電気がチカッ……と明滅して、風もないのにカタカタ、と、部屋の小物が揺れた。

 ポルターガイスト。

 だけど……それは怖くない、メリーさんが怒ってたのは知ってるから。


「……うん、ごめんね……約束した時の気持ちはさ、今も変わらないんだけど。守れるかどうかも考えないで、勝手に約束したのは、ごめん」


 私が謝ると、ポルターガイストはあっさりとおさまった。

 代わりに……メリーさんがくすっと笑い……浮かんだ人形やぬいぐるみ達が、薄れて消えていく。



「るーるーは人間なの、わたし達は違うのよ。人間はたくさん持てないの」



 そう話すメリーさんの顔は、やっぱりどこか寂しそうにも見えた。

 私になんとかできないかな……と、つい思ってしまうけど。

 今はまだ、その答えは置いておこう。




 代わりに少し、気になっていたことを聞いておく。


「……ね。ところで……メリーさんが今日、私がテケテケに襲われた時に助けに来なかったのはさ、やっぱり、怒ってたから?」



 私がメリーさんに聞くと……メリーさんは違うの、と呟いた。


 違う?


 疑問に思って顔を見ると、メリーさんはその理由を話してくれる。



「るーるーがどうするかみたかったの」

「どうするかって……呪文知ってるの……分かってたの?」

「ふふ、わかってたの」



 いつ知ったんだろう、と思ったけど……お母さんの近くにいたなら、私が都市伝説に詳しいことを知っていても不思議はないかもしれない。


「でも……どうするかって事は……私が呪文を唱えるかどうかを見たかったの?」


「そうなのね。るーるーがテケちゃんを帰さなかったら、手伝ってあげるつもりだったの」


 手伝う?


(え……? それって……)



「な、なら、呪文唱えなきゃ、テケテケを……助けて、あげられたのかな? メリーさんと一緒に、メリーさんが手伝ってくれるなら……なんとかなったかな?」


 私がそう聞くと……メリーさんは私の隣で首を横に振り、にんまりと笑った。




「違うの、わたしが手伝うのは、テケちゃんが身体を分けるお手伝いなのよ」




 ひぇ、と私が息をのむ。



「捨てないでシェアなのね、るーるーも仲良くなって幸せなのよ」



「本気?」


「冗談なのよ、ふふふ」


 私の隣でにやにや笑うメリーさんを見ながら……私はこっそりと思う。



 どうかこの言葉が、本当にメリーさんの冗談でありますように。



 にんまり顔のメリーさんの真意を……まだまだ、私は掴むことが出来なそうだった。


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