Call28 考えることが多くても……




(メリーさんって私が死ぬことはどう思ってるんだろう)



 最初の夜は殺さないでくれて、和美の時は守ってくれて、テケテケの時は放っておいた。

 私にはメリーさんが分からない。

 直接聞くことは出来るけど……。



「そういえばメリーさんってゲームとか出来るの?」



 私は身体シェア発言をしたメリーさんがちょっぴり怖くなって、別のことを聞いてみた。

 さすがにメリーさんがゲームを出来るとは思わないけど、なんでもいいから他の話題をしたかったんだ。

 朝の喧嘩の時、私と同じと言ったメリーさんの真意。

 お母さんがメリーさんに謝った理由……聞かないといけないことはまだあるけど、今日はもういろいろあったから、聞くのは後でいいと思う。



「できないのよ。でもやってみたいの」



 案の定、ゲームは出来ないらしい。



 けど、やってみたいという言葉に、私はおっと思う。



 ゲームなら怖い話題にはなりそうにないし、安心できる気がする。

 私はちょっとうきうきとしながら、笑顔を浮かべた。



「じゃあやろっか! お父さんの部屋にあるから!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 メリーさんとのゲームは好調だった。

 メリーさんとはいま、お父さんの好きなレースゲームをしてる。

 車の動きもちょっぴり本格的なそのゲーム……メリーさんはルールもよく分からないと言った感じだったけど、私が丁寧に教えたこともあって、なんとかルールを理解してくれた。

 


「メリーさんが動かしてるの、すごいのよ」


 でも、画面で車が動いてるのを見ただけで、笑顔を浮かべるメリーさんは、なんというか微笑ましいし、すごく可愛らしい。 

 言ってはなんだけど私は負けず嫌いだし、お父さんより強い。

 だから本気を出したらメリーさんの勝ち目はないんだけど、そこはそれ、加減をしてあげることで、メリーさんと楽しく遊ぶことが出来ている。

 メリーさんはとてもたどたどしくコントローラーを握りながら、画面に集中しているようだった。



「終わったのね、いまのはメリーさんが勝ったの?」

「ううん、今のは私だよ」

「ならもう一回やるの、次は負けないの」



 レースに負けると、ちょっぴり膨れてそういうメリーさんも可愛らしくて、次は勝てるように手加減しようかなーっとか、そういうことまで考えて、私達は楽しく時間を過ごした。




 ……ただ、この時、私は知らなかったんだ。

 メリーさんに、勝ち負けのあるゲームはさせたらいけないって。



──

──── 

──────



 後悔、と言う言葉がある。

 自分のしたことを後で悔やむ時に使われるその言葉は、まさに今の私に相応しい。


 理由は……。



「もう一回……」

「待って、もうやめよ」

「もう一回……」

「うぅ……」 



 もう、深夜になる。

 お父さんは泊まりになったらしいから、この部屋は今日は使いたい放題なんだけど……。



 私達はあれからずっと、レースゲームをしていた。



 結果は途中から私の全勝……というのも、手加減をするとメリーさんが怒るのだ。

 そしてメリーさんが負けると、決まってこう口にする。



「もう一回」



 さっきも言ったけど、私はお父さんより強い……。

 その結果何が起きるかと言えば。



「もう一回」

「次で終わりとか……」

「嫌なの、勝つまでがいいのよ」

「私はイヤだよ!?」

「やるの、悔しいのよ」



 繰り返し繰り返し、テレビ画面で展開される、終わりのない公道バトルレースゲーム

 いややめたいよ私は!?

 ただ、やめようとするとかなり怖い雰囲気で止められるから、全然やめられない。

 許されたのはトイレと、食事を持ってくることだけだ。


「トレーニングモードで練習してからとか」

「勝ってからなの」

「メリーさん全然上達してないじゃん! 教えながらやろうか!?」

「次は勝つからいいの、るーるーには全力でやってほしいのよ」

「ねむーいー!!」

「もう一回なのね」



 ジョンさんは言いました、メリーさんは粘着質なガキだって。

 違うねこれ! 粘着質というかめちゃくちゃ負けず嫌いだね!!


 えぇーいちくしょー! やけだ!!



「えーい! いいよやるよ! 4桁勝ってやるからね私! 精々後悔しなよ!!」


「後悔するのはるーるーなのよ、メリーさんも4桁勝つもの」


「それはやめて! メリーさんが一勝したら寝るんだ私はー!!」



 半分やけになったのと、真夜中までゲームをした眠気から、そんなことを私は叫んだ……。





◇◆◇◆◇◆◇◆



 それは実に不毛な、なんでもないただの遊びゲームの時間。



 だけど、それはそれでいいのかもしれない。

 聞きたいことや知りたいこと。

 考えないといけないこと、知らないといけないこと。

 メリーさんとの価値観の違い。



 向かい合わないといけないことはたくさんある。


 それにまだまだ、私はメリーさんに怯えてる部分もある。

 迂闊なことは言えないし、たまに怖いことを言うから……本当に安心出来るわけじゃない。

 メリーさんが私と同じなんだとしたら、最初は私と本当に仲良くしたかったわけではないのかもしれない。

 まだまだ、形だけのオトモダチだ。


 朝はそのことに否定的だったけど、今は、それならそれでいいんじゃないかな……とも、少しだけ思ってる。

 というより、なんだかどうでもよくなった。

 最初がなんであっても、今はこうして、隣で遊べてるから。



「うえーい! どーだ! 私のドリフトはー!!」

「もう一回やるのよ」

「こぉい! メリーさんには私の後ろがお似合いだー!」



 ほとんどやけくそでゲームを続けて騒ぐ私に、再挑戦を口にするメリーさん。



 メリーさんが我が家に来た最初の一日目……朝からいろいろなことを考えることになったその日の最後は……レースゲームの軽快なBGMと共に過ぎ去っていった。


 







◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





TEL XXX-XXXX-004



三番扉の花子さん



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る