Call18 平凡な食事とにんまり顔と
食べてる。
しかも平然と。
私はその光景を、目を丸くして見ていた。
「苦くない?」
「苦いの、美味しいのよ」
ひょい、ぱくぱく。
そんな擬音がつきそうなほどにすんなりと、メリーさんは私の作った焦げた目玉焼きを食べていた。
苦いのに美味しいって……ゴーヤじゃないんだよ?
でも無表情だから、やっぱり無理とかしてるんじゃないだろうか?
「無理しなくてもいいよ?」
「大丈夫なのよ、美味しいから」
いや美味しくはないでしょーよ。
と、自分の作ったものながら思ってしまう。
自分で目玉焼きを食べてみると、焦げが苦くて顔をしかめる。
こんなものをメリーさんに出すのはどうかと思ったけど、焦げたのでいいとメリーさんが言ったから、一応出してみる事にしたのだ。
そうしたらずっと、無表情にぱくぱくと食べてる。
無理をしてるんじゃないかって思ってしまうけど……幽霊だから、味覚が違ったりするんだろうか?
(あ、というかそもそも、食べ物食べるんだね……)
つい普通にご飯を出したけど、考えてみたらメリーさんが食べ物を食べるかどうかも聞いてなかった。
この様子なら食べるみたいだけど……本当はご飯を出す前に聞くべきだったことかもしれない。
改めて思うけど、私はまだメリーさんのことをなにも知らない。
「……メリーさんってさ、好きな食べ物はあるの?」
私が聞くと、メリーさんは箸を咥えたまま、目をしぱしぱと瞬かせる。
可愛いなと素直に思う……こうしてみると、普通の女の子みたいだ。
「なんでも好きなの、るーるーと一緒に食べるなら」
箸を口から外したメリーさんは、私を見ながらふふっと笑う。
私が男子だったらすごく喜びそうな一言だ。
私も嬉しいけど。
「普段はなにか食べたりする?」
「食べないのよ」
「そうなんだ……あ、そういえば帽子被ったままだね、脱がないの?」
「脱ぎたくないの、大切だから」
「大切なんだ……あるよねぇ、大切なものって。私もいろいろあるよ」
……そうして普通に話していると、あれ?って思う。
意外と、楽しく話せてる。
それが嬉しくて、私は他のことも聞いて話した。
アクセサリーとかは好むのか、服は変えたりするのか、幽霊としての生活はどんなものなのか……メリーさんは人間の幽霊なのか、人形の霊なのか。
そうしていろいろな事を聞くと、少しずつメリーさんのことが分かってくる。
どうやらメリーさんは食事や睡眠はいらないらしく、こうやって食べることは人間の真似事をしているだけらしい。
それから、メリーさんは人形の幽霊だとも言っていた。
七不思議に伝わっているのは人間の幽霊としての話だったはずだから、その違いには興味が惹かれる。
噂が怪異を縛ることもあるはずだけど、メリーさんはそういう七不思議の噂には縛られていないんだろうか?
聞いては疑問が浮かび、その度にまた聞いて……私がなにもメリーさんを知らなかったことがよく分かる。
お母さんのことは話せていないけど、まずはこういう話題から話していけば、どこかで話せるかもしれない。
「ごちそうさまでした、美味しかったのよ」
「ごちそうさまでした」
話ながら食事を終えると、メリーさんは丁寧に手をあわせてから、静かな蒼い瞳を私に向けた。
食器を片付けようとしてくれたから、私は慌てて立ち上がる。
「あ、いいよいいよ! 私やるから!」
私の声に構わず、食器を片付けキッチンの流しに運んだメリーさんは、背を向けたまま食器を洗い始める。
「ね……るーるー」
「なに?」
私も食器を運び、流しの水を出しながら一緒に食器を洗おうかと考えていると……メリーさんはくす、と、小さく笑って話を続けた。
「わたし、ここに来たことあるのよ 」
「え……?」
私の手が思わず止まる。
そうしてまじまじとメリーさんの顔を見ると……にまりとした笑みを、その顔に浮かべていた。
「るーるーのお母さんの家だものね、ここ」
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