Call15 一人っきりのオカルト研究部
────
──────
─────────
カーテンを閉めて、多目的室に入る日光を遮断する。
この多目的室は、放課後にはどの部活の人間も使っていない。
真っ暗になった室内の方を向けば……黒板や椅子が、暗闇の中にうっすらと浮かび上がる。
和美に招かれた時と違って、そこにはオカルト的なものは何もないけれど……今日からここが、私の部室になる。
部員はまだ集まっていない。
いや、そもそも部員を集める気は、私にはない。
恵先生にはオカルト研究部を作ると言ったけど……正式な部としての活動をしない方が、都合がいいのだ。
形だけ、私がオカルト研究部だと名乗るだけでいい。
私は広々とした多目的室の暗闇の中に、言葉を投げ掛ける。
「和美……今日から私もひとりぼっちになってあげる」
和美はオカルト研究部を設立する前に死んだ幽霊だ。
だから、和美の果たせなかったオカルト研究部の設立を私がすれば、その慰めになるかもしれない。
ただ、それだけだとまだ足りない。
オカルト研究部を設立するだけでも、和美は満足するかもしれないけれど……『ひとりぼっち』の噂に縛られた和美が、それで救われるとは限らない。
噂が怪異や幽霊を縛るのなら、ただ未練の元を無くすだけでは意味はないだろう。
だから、私は『ひとりぼっち』の噂を塗りかえる。
『一人っきりのオカルト研究部』と言う、私が新たに創る一番目の不思議によって……和美を縛る噂を変えてみせる。
「変えられる?」
私の真後ろ、カーテンの方向から……急に声が聞こえてきた。
心臓が跳ねそうになるけど、私も少しはその声に馴れたのかもしれない……驚きの声は上げずに、それが誰かを私は察する。
鈴を転がすような可憐な声には、私の行動を楽しむような響きが含まれていた。
「変えられるかなんて分かんないよ」
この判断が正しいかなんてわからない。
手探りでしかないし……メリーさん達ははっきりと、これで解決すると言ってくれたわけじゃない。
電話で聞いても、成功するとは言ってくれなかったから。
それに、こんなことですぐに噂が変わったら苦労はない。
普通にオカルト研究部をやった方が意味があるかもしれない。
ずっと多目的室を使えるかも分からない。
問題はたくさんあるけれど……。
でも、だからって考えるだけじゃ進めないから、やってみるのだ。
「分かんないから進んでいくの。ちゃんと手伝ってよ? わざわざ電話したんだから」
私が振り返らずに言うと……私の背中からふふっと、小さな笑い声が聞こえた。
「手伝ってあげるのよ、オトモダチだもの」
「ありがと、メリーさん」
私は振り返り、笑顔を向ける。
後ろにいたのは、カーテンを背にした女の子。
宝石のように透き通った綺麗な蒼い瞳、金色の髪、それこそ人形のように美しい、白い肌。
私のトモダチ……メリーさん。
まずはここから。
和美や噂のこともそうだけど……メリーさん達と仲良くなるのも、この場所から始めていこう。
私がそう思った時……。
不意に、空気が揺らいだ。
──…………──
私はバッと、暗い多目的室の空間に振り返り、目を向ける。
急に、誰かの言葉が聞こえたような気がしたのだ。
ありがとう……それはそんな言葉だった気がする。
そこには誰の姿もないけれど……。
「お礼はまだ早いって」
私は微笑んでから、小さな声で呟いた。
本当は私が頑張る必要なんてない事かもだけど、先にお礼まで言われちゃったら仕方ない。
(頑張るから待ってなよ……和美)
もう、ひとりぼっちになんてさせないから。
しばらく、私を見ていなよ。
そうしていつか……。
(いつかさ、本当の友達になろうね)
───────────────
その日が、誰にも認められていない、一人っきりのオカルト研究部が設立された日。
夢見ヶ丘中学校の一番目の不思議を増やせばいいだけだから、もっと良い手もあるかもだけど……。
私はこれで構わない。
だってもしこれで和美が自由になれたなら……その時は同じ部活で、笑ってあげられるんだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
TEL XXX-XXXX-003
私の家のメリーさん
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます