Call8 最後の不思議




 本来表示されるはずのない、文字化けした電話番号。

 発信者の名前にはメリーさんの文字。

 やっぱり、夢じゃなかった。

 これは現実、受け入れよう。

 ……大丈夫大丈夫、馴れたものだ。

 いやなんにも馴れてないけど、メリーさんと仲良くなるんだから、いつでもどこでも電話が来るって考えるくらいで良い。

 ノイズ混じりの画面をタップして、通話に出る。

『もしもし、わたしメリーさん』

「……も、もしもーし、るーるーだよー。あはは」

 声がわざとらしかったり、ちょっと怯えてるのは許してほしい。

 また真後ろに来るのかなーとか考えてキョロキョロしていたら、メリーさんはこんな事を言ってきた。



『なにかあったら、メリーさんに電話してほしいの』



 ぶつ、と、それで電話は切れた。

(え? え?)

「……えー?」

 メリーさんのお助け電話サービス……とかそんな言葉が頭に浮かぶ。

 なんだったんだろいまの。

 困惑しながらスマホをしまうけど……また電話が来る様子もない。

(……んー?)

 メリーさんって実は心配性? 寂しがり屋?

 ……そんな風に思いながら、私はオカルト研究部……通称オカルト部の部室に、足を運んだ。





   ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆





「あー、きたきた。そこ座って」

 カーテンの締め切られた部室、幾つかの机にはよくわからない魔方陣の紙や、人形みたいなものが置かれたりもしたけれど、あとは大して特別なものはない。

 何冊かのノートを持ってきた和美は、私にこう話した。

「今から七不思議について話すけど、一番目は最後に話すね」

「えっと……なんで?」

「最後に聞いた方が面白いから」

「というか私、七不思議は知ってるし、どちらかと言えばメリーさんとかを詳しく……」

「いいからいいから」

 楽しそうにそう言った和美は、それから順番に、七不思議のことを話し始めた。

 蛍光灯が古いのか、天井の明かりが明滅する。



「まずは深夜二時のメリーさんから……」




 『深夜二時のメリーさん』は、聞くまでもなく、私が友達になったメリーさんの話。屋上から飛び降り自殺したメリーという子が、夜中二時、教室にいる人間に電話をかけるとか、メリーという子が教室でいじめられ、窓から落ちて死んだ……とかいろいろな内容がある。

 もっとも……どれも噂でしかないから、実際がどうかは分からない……七不思議は結局、人間が噂したものだから。

 次が、『三番扉の花子さん』。

 三番目の花子さんという都市伝説に近くて、三階トイレの三番目の個室を、三回ノックすると、花子さんから返事があると言うもの。

 花子さんはそこで首絞め遊びがしたいと言うのだけれど、遊びの内容を聞いたり、遊ぶことに同意すると、花子さんに絞め殺されるのだとか。

 条件が厳しい上に遊びに同意しなければいいんだから危険度は低そう……とか昔は思ってたけど、深夜に首絞め遊びを提案された身としては、聞いてるだけで怖く感じる。



 そこまで話した時……チカ、チカ……と、電気がついたり消えたりした……なにかおかしい気がする。

 和美は一回話を止めると、私と同じように天井を見てから……すぐに視線をノートに戻す。

「続けるね、るー」

「う、うん」

 度胸があるな……と思いながら、私は耳を傾ける。



『四つ目の空き教室』

 三階にある四つ目の教室、使われていない空き教室。

 その教室で四つの椅子を向き合わせ、そこに四人が座って四秒数を数えると、向かいの席の人間が死ぬときの姿が見えるというもの。

 害はないけど、たまに試した人はいるらしく、実際にその姿が見えたとか。

 次が『五秒さん』

 放課後の教室に一人で残っていると、教室の後ろで、誰かが数を数えはじめる。

 一から五までを数える声の主になにか言葉を返したり、その姿を見ようとすると、そのまま殺されてしまう……というもの。

 詳細は不明で、その声の主や、秒数を数える理由については様々な噂が流れている。

 そして『六人目のかげぼうし』

 夜六時ちょうど……誰そ彼時に六人だけで校庭で遊んでいると、いつの間にかに人数が五人になっていて、一人が影になって消えてしまうというもの。

 地面に写る影だけは動いていて、夜になると消えてしまうのだとか。




 これが二番目から六番目までの七不思議……あとは、一番目と七番目。

「七番目はね、一番目から六番目までを知ったら、七番目の不思議が現れて、その異世界に連れ込まれるっていうのなんだ」

 そういえばそうだ……机の向かい側で、七不思議の書かれたノートを捲る和美の話を聞いて、それを思い出す。

 だから……そう。

 この学校の七不思議の一番は、欠番になっている。

 『消えた一番目』……そう呼ばれている。

 一番目を知ったら、七番目の不思議に拐われる、だから一番目の不思議を知る生徒はどこにもいない。という七番の不思議とセットの謎……。

 だから和美はおかしいんだ。

 七番目を教えるなら分かるけど、一番目は教えるものじゃない。

 一番目は語らない、それは夢見ヶ丘中学校で七不思議を話す時の決まり……お約束みたいなもののはずなのに。

 一番目を教える?



 バチン……と、電気が消えた。

 カーテンの閉められた教室が真っ暗になる。

(なに? ちょっとこれ……)

「か、かずみ?」

 私が不穏な空気を感じて和美に声をかけるけれど、和美は変わらぬ様子で、こう口を開いた。



「最後の不思議はね、『ひとりぼっち』」



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