TEL XXX-XXXX-002 夢見ヶ丘中学校七不思議

Call5 夢か現か




「わたしはメリーさんよ。こっちが花子、犬みたいなのがジョン」

「ジョンじゃねーよ」

 メリーさんが机に腰掛けてくすくす笑うと、その足元の人面犬が不機嫌そうに否定する。

 怖いかどうかで言えば怖いし、さっきと状況が変わったわけではないけれど……オトモダチになったし、メリーさんを捨てることも許されない。

 なら、怖くてもなんでも、今と向き合うしかない。

 退屈そうに私を見てる花子さん、仏頂面な人面犬、そしてそれこそ人形のような笑顔を浮かべるメリーさんに、私は深々と頭を下げる。

「るーです、よろしくお願いします!」

「よろしくね、仲良くしましょ、るーるー」

 柔らかにメリーさんが笑うと、花子さんが口を開く。

「終わった? 戻っていい?」

 声はヒヤリとしていて、花子さんが私を見る目も、どこか冷たい。

 その下から、今度は人面犬のおじさんの声。

「俺も帰る」

「いいわよ、またね、花子、ジョン」

「ジョンじゃねーよ」

 そんな会話がされると、花子さんと人面犬の姿が教室から消える。

 真っ暗な空間……あとには、私とメリーさんだけが残された。

 消えた二人が私を歓迎していた様子はない、本当に、メリーさんに呼ばれてきただけなのだろう。

「他のみんなも戻っていいわよ」

(他のみんな?)

 メリーさんが言った言葉に、そんな疑問がわく。

 教室に誰かがいる様子はない、でも、きっと私には見えないだけで、誰かがいた……のかもしれない。

 ガタ。

 椅子の一つがずれる音がして、思わずそこを見たけれど……やっぱり、誰もいない。

「本当はみんなね、るーるーを連れていきたかったの」

 メリーさんが私にまた顔を向けると、綺麗な金髪が小さく揺れる。

 連れていきたい……。

 行き先は聞かない方がいいのかもしれない……きっと良い意味ではないだろうから。

「だけどるーるーはわたしのオトモダチだから、連れていったらダメって言ったのよ」

「ありがとう、ございます」

 どうやらメリーさんは他の怪現象が私をどうにかしないように、言ってくれたらしい。

 ……メリーさんがダメっていったらダメになるあたり……メリーさんは他の怪現象より上の立場なのかもしれない。

「あとねるーるー……ため口」

「え?」

 メリーさんが、急に頬を膨らませ、むすっとした様子でそう言った。

「わたしはため口が好きよ、オトモダチなんだから」

 言われてからハッとなる。

 オトモダチになったんだから、確かに敬語は変かもしれない。

「…は…はい! じゃなくて、えっと……」

 まだ形だけの友達関係……ううん、形すら整ってない友達関係だけれど、だからこそ、形から、ちゃんと直そう。

「えっと?」

「う、うん、そうだね。ため口にする」

 ほとんど、無理に言わされたようなため口だけれど、それでメリーさんは嬉しそうにふふっと笑ってくれた。

 怖いと感じてきたけれど、こういう姿はちょっと、可愛いなって思った。

「これでちゃんとオトモダチね」

 メリーさんはそう言って笑うと、すっと私に手を差し出し、握手を求める。

 ……ちゃんと向き合えば、仲良くなれるかもしれない。

「うん、オトモダチ。これからよろしくね、メリーさん」

 私はそう答えると、少しだけ躊躇してから……冷たいその手を握った。

 





 そうしてハッと目が覚める。

 目覚まし時計のアラーム音、外から聞こえる鳥の声。

 それに、カーテンの隙間から入り込む朝の日差し。

 朝……朝だ。

 さっきまでのは、夢?

 疑問に感じつつ服を見ると、ちゃんとパジャマを着こんでいる。



 ……夢、なのかな。



 枕元のスマホを持って画面を確認するけど、着信履歴に変化はない。

 首に触れても、首についたはずの傷はない。

 普通に考えれば夢なんだろう。

 ……夢なんだろうけど、とても、現実の事のように思えている自分がいる。

「……」

 あれが夢だったか現実だったかは分からないけど、夢だったら……安心はするけど、少しだけつまらないな。

 そんなことを考えながら、私はベッドから起き上がる。

 そうすると、くぁ、と、寝起きの口から欠伸が零れた。

 これから学校だ、メリーさん達のことでも、なにか調べてみようかな……。






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