Call2 友達になりたい理由




 メリーさんと友達になろう。



 そんな馬鹿げたことを私が考えたのは、お母さんが発端だ。


 私のお母さんは、三ヶ月前に病気でこの世からいなくなった。

 まだ私は中学生なのに……治るってそう信じていたのに、笑っていてくれたのに、呆気なく死んでしまった。



 それから数週間のことに、現実感はない。


 記憶はある。


 たくさん泣いたし、葬儀に出たことも知ってる。


 ただ、自分のことのように思えなくて、お母さんがいなくなったことが信じられなくて……いまでも、受け入れられてはいないから。



 そんな私に、お母さんの遺品である日記を見せてくれたのはお父さんだった。


 闘病生活の間に書かれていたそれには、私を愛してくれていたこと、お父さんに感謝していること……お母さんらしい、優しい言葉がたくさん書いてあった。


 たまに、苦しさや辛さ、不安を感じさせる文も混じっていたけれど……それでも懸命に病気と戦って、家族を愛してくれたお母さんがそこにいて、私はやっとその時に、お母さんが死んだんだって、理解できたように思った。



 ただ、そんな日記の中に、気になる文があったのだ。



ーメリー、ごめんね。友達のあなたに謝れないまま死ぬことは、心残りですー




 それはそんな一文。



 お母さんが死ぬ、ほんの三日前の日記の一部分で……お母さんはメリーという友達に謝っていた。


 最初はほとんど気にもかけなかった。


 お母さんにだって友達はいるだろうし、なにかあったのかな……とは思ったけど、深く考えはしなかった。

 ただ、お母さんに心残りがあったことが、悲しかっただけだ。


 でも、それからお母さんの遺品を整理した時……昔に書かれた日記に、その名前を見つけたのだ。


 『深夜二時のメリーさん』


 オカルトが好きだったお母さんが、ちょっとした肝だめし気分で七不思議を検証したら現れたらしい、本物の怪異。


 怖いもの知らずのお母さんは、電話越しにあれこれと話して仲良くなったらしく……それからはまるで、普通の友達との関係を思わせる内容の日記が続いていた。


 それを私は最初、作り話だと思った。


 お母さんがオカルト好きなのは知ってたし、日記に妄想を書いて楽しんだのかな……とか、そんな風に考えた。



 だけど、時間が経つにつれて……お母さんが死ぬ前に書いた、メリーさんへの謝罪が気になったのだ。



 ……もし、『深夜二時のメリーさん』が本当だったなら。

 ……もしも本当だったなら、お母さんはその大切な友達に、謝れないまま死んじゃったのかな。



 そんな想いが、お母さんの日記を読むたびに浮かぶようになった。


 もちろん、お母さんが謝っていたメリーさんが、そんな都市伝説と関係のない可能性もある。


 私自身、きっと関係ないだろうなって、心のどこかでも思っていた。


 ただ、『深夜二時のメリーさん』は……噂が確かなら、自分の通う教室で呼ばなきゃいけない。

 それはつまり、在学中にしか出会うことはできないと言うことでもある。

 この時の私は中学2年だから……噂を確かめるチャンスは、私の人生の中で、あと少ししかない。



 メリーさんが実在するなんて、本当に信じていたわけじゃない。

 メリーさんが実在するとしても、本心から友達になりたいなんて思ってたわけじゃない。



 だけどもしもお母さんが……本当に『深夜二時のメリーさん』と友達になっていたなら、なにかがあって、謝りたいと思って死んだなら……。


 私がお母さんのことを伝えなきゃって、そう思ったから。


 お母さんが仲良くなれたなら、私もなれるかもしれないから……仲良くなったなら、お母さんのこと、ちゃんと話せるから。


 だからもしも……。

 もしも嘘じゃないなら……。


 本当にメリーさんがいたなら……友達になろうと考えたんだ。



 お母さんが謝りたかったことがなにか、なんで謝らないといけなかったか……それをちゃんと聞くために。

 友達になって……お母さんの代わりに謝るために。 




 意識は闇に落ちていた。

 あれから何があったのかは分からない。

 背中から声がして……それからの記憶がない。

 ただ、周囲から聞こえる声で、意識が少しだけ覚醒する。


(ん……)


 床……冷たい、学校の床かな。



 私は平らな場所に転がされているようだ……もしかして夢だったのかなと思ったけれど。



「るーるーがおきるの楽しみね」



 そんなメリーさんの声が聞こえたから、それを否定する。



「そんなに気に入ったの?」



 それに落ち着いた女の子の声が返ってきた。


 私じゃない、メリーさんじゃない。

 他に誰かいる?



「気に入ったのよ花子、るーるーはメリーさんのオトモダチなんだから」


「ふーん」



 花子?

 もしかして『トイレの花子さん』?



 なんとなく、メリーさんと仲が良さそうに話しているその存在の正体が分かる。


 トイレの花子さんと言えば、学校では馴染みの深い存在……。

 私の学校にも『三番扉の花子さん』として伝わっている。


(ど、どうしよう……)


 メリーさんと花子さん?


 私、友達になるとか言って大丈夫だった?


 私は恐る恐る、様子を見るためにうっすらと目を開き……。



「よう」



 ……え。



「……ひゅえええぇぇぇ!!」



 眼前、文字通り目の前にいたその生き物の顔に驚いて、その場から飛び起きた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る