TEL XXX-XXXX-001 深夜二時のメリーさん

Call1 都市伝説と現実と



 『深夜二時のメリーさん』は、私のいる中学校に伝わる七不思議の一つだ。


 深夜二時、中学校の自分の教室で待っていると、メリーさんから電話がかかってくる。

 その電話の内容は、メリーさんが今いる位置を教えてくるもの。

 電話の度にその位置は電話を聞く人間に近付いてきて、やがて真後ろにメリーさんが来たところで、話は終わる。


 人形じゃないこと、深夜二時に教室にいれば無差別に電話をかけて来ること、最初の電話を自分の教室で受けなければならないことを除けば、都市伝説として有名な『メリーさんの電話』とほとんど同じ話だ。


 ……もっとも、実際に電話がかかってきた今、ただの都市伝説や怪談とは言えなくなってしまったが。



『ふふ、なぁに? わたしとお友達になりたいの?』

  

「は、はい……」


『いいわよ、すごくうれしい』



 場所はさっきの教室、時刻もさっきと同じ。

 違うのは、受話器の向こうの人物と話していること……すんなりと友達になる許可を得れたこと。

 自分で言った事だけれど、とても戸惑ってしまう。


 最初はどこか信じてなかったから。


 メリーさんと友達になる……なんて意気込んで学校に来たのはいいけど、学校に着いたときには、馬鹿馬鹿しく感じて帰ろうかと思ったほどだったから、いざ友達に、となるとためらってしまう。


 それに本当に大丈夫なのかとか、殺されるんじゃないかとか、不安が拭いきれない。


 自分で選んだことなのは分かっているけど、メリーさんという都市伝説が、人に害をなすものとして広まっているのは事実だから……どうしても怖い。 



 ……そんな私の態度を楽しむように、ねぇ、と、スマホの向こうから声が聞こえた。


 鈴を転がすような可愛らしい声。


 でも可愛いのに、口調はどこか落ち着いた感じ……大人と話しているような、子供と話しているような……奇妙な感覚。


『あなたの名前はなぁに?』 

「え……」

『ききたいの』



 それに私は言葉を詰まらせる。

 怖いからとかじゃなくて、名前を言うのが好きじゃない……というか……。

 


 逆神天使さかがみえんじぇるって自分の名前が嫌いだから言いたくない。


『だめ?』

「……る、るー』


 だから私は鳴いた。


『るー? るーるー?』


 言葉を楽しむようにメリーさんが繰り返すと、私はそれに頷く。


「あの、私の名前です。るーとか、るーちゃんってみんな呼ぶから、るーです」


 本当の名前を教えないのもなんだか申し訳なくなって、小声で話す。


『ふふふふ。そうなの、わたしはメリーさん、あなたのオトモダチ』


 でも、メリーさんはそれを気にする様子もなく、楽しそうに笑ってからそう言った。


 今はなんだか、そんなに怖くない。


 いや、まだ不吉な想像が過るときはあるけれど、電話で話してたからか、少し緊張とか怖さが薄れてきた気がする。

 私の名前という現実的な問題で、非現実的な気分から抜け出せたのかもしれない。


「あ、ありがとうございます。えっと……」


 何を話そうかな、なんて気楽に考えた時、メリーさんはこう言葉を続けた。



『いまね、二階の廊下にいるの』



 ぶつ、と、それで不自然に通話が終わる。


(あれ、切れた……)


 スマホを見ても、画面は真っ暗だ……電源すらついていない。

 それに私は、少し不吉なものを感じとる。


 だって、メリーさんが名乗ってから、どこにいるのか告げるのは……都市伝説でよくあるものだから。


 考えすぎかもしれないけれど、電話が切れたことが、なんだか不穏だ。


 もし都市伝説の通りなら……。



 ここで……また電話がくる。 



 不安になってスマホを見ていたら、電源もつけてないのに画面に明かりがつき、電話がかかってきた。


 電話番号は非通知……なのに、メリーさん、と言う名前がしっかりと画面に映し出されている。



 どうしよう、出ていいの?


 それとも逃げた方がいい?



 悩んでいる間に、スマホは勝手に通話状態に切り替わった。



『るーるー? わたしよ、メリーさん、いま、教室の前にいるの』



(ひ……ま、ままま待って待って、友達友達、友達になってくれたんだよね?)



 背後にメリーさん来て死ぬ、死ぬやつじゃないこれ、違う?


 やっぱり怖い、分かってたけど怖い、というか話違うんじゃん!


 混乱する頭で、わたわたとスマホを持って教室を歩き回る。


 その間に、通話はまた切れて……。


 やだやだやだ死にたいわけじゃない。


(適当に話して友達になったんじゃなかったの!?)


 なんか都市伝説みたいになっちゃったよおかーさん!?


 目まぐるしく回る思考の中で、そんなことを思った時……。


『るーるー、わたしメリーさん』


 スマホからそう聞こえた後……次の言葉は、直接的に耳に響いた。



「いま、あなたの後ろにいるの」




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