第160話、明日は時間がありますかな。
「ゴールドランクはどういう特典があるんですか?」
佐藤亜月の問いかけに、俺は答える。
「ゴールドランクは、簡単に言うと自由なんだ。シルバーランクの内に、ある程度ヒーロー活動で社会に貢献した人が、次はゴールドランクに上がる。すると、管轄区域絶対防衛義務から開放されるんだ。つまりどこへ行っても良くなる。とはいえ、ゴールドランクのヒーローなんてそれこそほんの一握りだからさ。シルバーランクのヒーローが常駐していない地域を回って人々を守ってるような方もいるって聞く。ちなみに俺はゴールドランクの特権でL市の地元から出られるようになったから、大都会K市の高校に入学できたってわけ」
俺の発言を聞き、佐藤亜月が驚いたように手を口に当てた。
「ということは、この街に来た当時はゴールドランクだったんですか!」
「そうだよ、そして、昨日ついに俺はダイヤモンドランクになったのだ!」
「すごい!」
「凄いですな!」
「妾も褒めてくれ!」
あー、すごいすごい。
「それで、ダイヤモンドはどんな特典が?」
細柳の質問に、俺はニヤリと笑って答えた。
「病院や公共交通機関、その他資料のために使う本なんかのありとあらゆる料金全てをヒーロー協会が肩代わりしてくれるのさ!」
「す、凄い!」
「でも松本くん、確かあなたの能力ってお金を消費するんじゃありませんでしたっけ?」
俺は頷いて首をすぼめた。
「どうやらトランスに使用するお金は自腹らしい。しかも俺はまだ未成年ということで給料も本来の半分しか貰えねぇんだ。だから、生活するためにもヒーロー活動しながらお金稼がなきゃ」
「……それ、嫌われますぞ」
細柳の言葉に、俺はうるせぇとだけ返した。そんなことは知ってる。ヒーロー協会は今やこの国で必須となるまで重要な組織となり、一部税金で賄われている。それなのにヒーローが助けた人から金をせびるようでは、嫌われるのも当然だろう。
「金ねぇんだから仕方ない」
俺の言葉に、細柳はやれやれと笑った。
「そして最後のプラチナランク。これはヒーロー協会本部直属のヒーローとして認められたことになる。一応ダイヤモンドから遠征命令は出るんだが、プラチナになると遠征の幅がかなり広がるらしい。それこそ、人類立ち入り禁止エリアのN市辺りにまで行くんだとか」
「えっ」
「ま、マジでありますか!」
二人が驚く後ろで、バーニングさんはハトのモノマネをして歩いている。
「その分、色々と優遇されているみたいだけどね。俺だって、ダイヤモンドランクになったから遠征命令は下されるかもしれないけどさ」
そう言って笑うと、二人は心配そうな顔を見合せていた。
「ちゃんと、帰ってきてくださいね?」
佐藤亜月の言葉に、俺は力強く頷く。
「うん。必ず」
俺の帰る場所は、佐藤亜月の待つあの家だ。
「仲良しで羨ましいですなぁ、我も一緒に住みたいですぞ」
そう言って笑う細柳だったが、俺は笑えない。せっかく好きな人と一つ屋根の下生活を共にしているというのに、野郎の存在は要らない。邪魔だ。
「よいぞ! 妾の部屋に来るか?」
余計なことを言うなバーニング。
「あ、いや。結構ですぞ」
バーニングさんに焼き殺されかけたトラウマでも蘇ったのだろう。急に細柳は冷や汗を流しながらどこか遠くへ目線を送った。
うーん、よくやったバーニング。
「寂しいのぉ……」
「ところで松本殿」
「ん?」
細柳がふと、俺の方を振り返ってニヤリと笑う。
「例の件、明日でよろしいですかな?」
彼の質問の意図を察した俺は、慌てて佐藤亜月に目配せした。
「佐藤さん、明日予定入ってないですよね?」
「え? えぇ。まぁ」
「妾も暇暇のヒマンゲリオンじゃ!」
肥満下痢オン? なんだその体調不良MAX不健康人造人間は。
というツッコミはさておき、明日決行で良さそうだ。
「コホン、では、我から宣言させていただきますぞ!」
細柳の言葉に、佐藤亜月とバーニングさんが同時に首を傾げた。
「明日、我ら四人で遊園地に行くであります!」
「おぉ!」
すかさず俺はガッツポーズを掲げた。
「うおぉぉぉぉ!」
バーニングさんも反射的に両腕を掲げた。その一方で、佐藤亜月は不安げな表情を浮かべたままだ。それもそうだろう。彼女は追一週間ほど前、遊園地での戦闘に巻き込まれ記憶を失ったことになっているのだから。それなりに怖いはずだ。
「だ、大丈夫でしょうか? それに、遊園地ってあれだけ大きな被害があったのに、もう開園しているんですか?」
「それに関しては問題ありませんぞ! ダイヤモンドランクのヒーローチームが結集して、三日で修繕を終わらせたそうであります!」
「ヒーロー協会からの連絡で、手の相手いるヒーローは遊園地周辺の安全管理をするよう指示が入っていたから、それこそK市に常駐しているシルバーランクのヒーローとかがいると思う。ある程度安全は保証されてるよ」
「……分かりました」
複雑な気持ちを露わにする佐藤亜月に、俺は優しく微笑む。
「もし何かあったら、俺が必ず守るから」
その言葉に安心したのだろう。彼女は「はい」と、微笑みを見せた。
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