第158話、ミキ様からの重大な話。
「……な、なんの話しでしょう。これは多分、俺の能力で……」
ミキ様はじっと俺の表情を睨みつけていた。もしここで少しでもボロを出せば、まずい気がする。俺がヒーロー協会に申請したトランス能力の詳細は、むしろ彼女達の方が把握しているはずだ。本来ありえない超回復を病室で発現してしまった以上、ヒーロー協会としても警戒しているだろう。
俺の新たな能力だと判断してもらえれば、成長を喜んで貰えるはずだ。事実、これまで様々な星座を手に入れる度に報酬を貰っていた。しかし、もし俺の怪我が回復した理由に気づかれてしまってはどうだろう。もしそれが、今K市を脅かしている
俺は本来敵である存在と裏で繋がっていたことが露見するわけだ。タダで済むはずがない。
「ミスター鬼龍院の能力は呼吸により体細胞内で形成されるATPを星座の力で体表面に出力し、
「い、いえ。ありません」
「でしタラ、不思議なんデスよね。ミスター鬼龍院の使用する能力に超回復と近しいものは見当たりマセん」
口いっぱいに拡がった唾液すら飲み込めずに、俺は表情を笑顔に固定して首を傾げた。
「ほんと、ラッキー、でしたよ。体細胞内で生成されたATPが、回復にも役立つのかも知れませんね?」
「……」
ミキ様はゆっくりと俺から距離を置いて、小さく頷くと、初めて笑顔を作って見せた。あまりに冷たい笑顔に、どっと冷や汗が溢れ出す。
しかし、彼女はどうも満足したらしく、踵を返してブラックオペレーターズと共に病室を出ていってくれた。
「ぷはぁ、緊張したぁ……」
俺はそのままベッドに腰を下ろすと、天井を見つめる。なにか、抜けてるところはなかっただろうか、気づかれるようなことを言っては居ないだろうか。自分の言動を振り返りつつ、そっと横を見ると、看護婦さんも同じように汗をかいて座っていた。
「こ、怖かったですね」
俺がそう話しかけると、彼女は小さく頷いた。
「ヒーローの世界も、大変そうですね」
「ははは、ほんと。命がいくつあっても足りないです」
つい先日まで死にかけてた俺にしては、気の利いたジョークを言えたと思う。
「あぁ、言い忘れていマシた」
突然ミキ様が病室に顔を出し、俺と看護婦さんは慌てて背筋をピンと伸ばす。彼女の口調は丁寧なのだが、表情がピクリとも動かないのだ。そのポーカーフェイスぶりに、何を考えているのか勘ぐってしまう。要するに、凄まじいプレッシャーに晒されてしまうのだ。
「な、なんでしょうか!」
俺がそう返すと、ミキ様は顔だけひょっこりと出したまま続けた。
「ミスター鬼龍院のご友人並びにご家族等への事情聴取をブラックオペレーターズへ依頼したところ、特に怪しい点はありマセんでシタ。むしろ気持ち悪い程に健全で、完全にミスター鬼龍院の功績でアルと確信が持てマス」
「は、はぁ……?」
「つまるところ、ミスター鬼龍院刹那の功績は、転居してカラたったの一ヶ月で絶大なる成績ということデス。これはK市に住まうどこの誰よりも大きな功績と言えるデショう。自分の管轄するブラックオペレーターズでスラ把握出来なかった
「は、はい。本当に偶然かなーなんて、思ってます」
「いいえ、これをたかだか偶然で片付けることはできマセん。故に、近いうち視察を兼ねて、ミスター鬼龍院の実力を調査するプラチナクラスのヒーローを派遣いたしマス。場合によっては、ミスター鬼龍院のランク変動も考えていマスので、お楽しみに」
「……それってつまり」
一瞬俺は期待を胸に抱いた。これって要するにだ。
「ミスター鬼龍院のランクアップを検討していマスよ」
ミキ様がぎこちない笑みを浮かべたのを見て、俺は嬉しさのあまりガッツポーズを取った。
「やったぁぁぁ!」
「ちなみに、既にミスター鬼龍院のランクはゴールドランクからダイヤランクまで上げさせていただきまシタ。ダイヤランクからは、戦闘に応じて発生した損害の全てを教会が受け持ちマスので、入院費等もお気になさらず。月末のお給料を楽しみにしていてくだサイね」
ミキ様はそう言って、病室の扉を閉めた。
つまりだ、俺は魑魅魍魎撃退で貢献した功績から、ランクアップ。待遇がさらに良くなったというわけだ。
あまりの嬉しさに、鼻歌交じりで身支度を始めた俺を見て、看護婦さんはよく分からない様子で「良かったですね?」と言ってくれた。
「はい! ありがとうございます!」
その日の内に両親へ連絡を済ませた俺は、最後の病室ベッドで熟睡を決め込むことにした。
そして次の日の朝、目が覚めるとそこには。
「おはようございます、松本さん、迎えに来ましたよ」
「え、佐藤さん!?」
愛しの人が、わざわざ迎えに来てくれていた。
「退院したてですから、一人での移動は難しいかと思いまして」
「妾も来たぞ!」
拝啓お父さん、お母さん、俺は遥か遠いこの土地で、どうやら上手くやっていけそうです。
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