第133話、初デートのムスカ。
「見よ! 松本ヒロシ! 人がゴミのようであるぞ!」
「み、見えます。見えますから」
「ふぅぅーっはっはぁ! 人がゴミのようだァ!」
「ちっとは黙らんかい!」
「だって見るが良い! 松本ヒロシ! 間違えた、マツモトキヨシ!」
「何も間違ってねぇよ、松本ヒロシであってるんだよ。なんでわざわざドラッグストア召喚したんだよ」
「見よ見よ! 人が叫んでおるぞ! 哀れじゃなぁ! 滑稽じゃなぁ!」
「話聞けよ!」
「うぉぉぉぉ! こうするとめちゃくちゃ揺れるわァ!」
スケルトンと名付けられた観覧車で、バーニングさんは立ち上がって嬉しそうに俺の肩を叩いた。
「ちょ、ちょっと! バーニングさん! ストップストップ!」
「ストップトップも好きのうちじゃろ!」
「そんな言葉ねぇよ!」
グラグラと揺れるゴンドラの中で、俺は涙目になりながら怒鳴り散らした。しかし、バーニングさんは一切聞く耳を持たない。むしろ尚のこと楽しそうに笑い声を上げ、立ったまま腰を振ってゴンドラを激しく揺らした。
「見よ! 見よ松本ヒロシ! 揺れておるぞ! 大いに揺れておるぞ!」
「見なくても分かるわ! 体感で分かるわ! ってかじっとしろぉ!」
今、俺とバーニングさんが乗り込んでいる観覧車はカップルの間で大人気と噂の全面アクリルパネル張りゴンドラだ。壁のみならず床までも透け透けで、宙に浮いている錯覚を味わうことが出来る。
どこの誰が思いついたのかは分からないが、最大高度110mから見下ろす街並みは、絶景を通り越してただの恐怖でしかない。
アクリルパネルも毎日丁寧に磨いているのだろう。一瞬本当に何も無いように錯覚してしまう。
体が宙を浮く感覚に支配された途端、腰が引け、全身をゾッとした感覚が駆けていくのだ。
そんな観覧車の謳い文句は『吊り橋効果を実感せよ!』。
いや、吊り橋効果ってこっそりやるものだろう。堂々と書いたらダメじゃね?
「ほれ! 松本ヒロシ! あそこで蠢いておるのも人であるぞ! ゴミじゃ! よもやゴミじゃ!」
「バルス!」
「あぁっ! 目がァァ!」
突如両目を抑えた彼女は、和服がはだけるのもお構い無しに、ゴンドラの中を転げ回った。
この人、めっちゃノリがいい。
「バーニングさん、ラピュタ見たことあるんですね」
「パチンコでやったぞ!」
「パチンコ!?」
「うぬぅ! 大当たりじゃ! 玉がゴミのように出てくるぞ! だがお主は未だに歳足らず。遊びには行けぬのぉ。残念至極ごくごくプハァじゃな!」
「別に行きたくはねぇよ」
ツッコミを入れつつ思った。
なんだか、楽しい。
それから観覧車を降りた俺達は、バーニングさんが先導する形で次から次へとアトラクションを乗り回した。
実の所、俺はこれまでの人生において遊園地という場所に行ったことが一度もない。
一応佐藤さんとデートが出来るかもしれないと発覚した日に、大都会K市遊園地について色々と調べはしたが、やはり百聞は一見にしかずだ。
実際にアトラクションを体験してみて初めて分かった。
めちゃくちゃ楽しい。
バーニングさんが嬉々として俺の手を引き、俺もまた同様に笑顔で彼女を追う。
正直に言おう。
素敵なデートだと思った。
もしも隣にいる人が佐藤さんなら、とも考えたが、きっとここまではしゃぎながらアトラクションを駆け巡れたのは、喜怒哀楽の激しいバーニングさんと一緒だったからかもしれない。
「これがジェットコースターなるものかぁぁぁぉぁぁぁぁぉ」
「喋るな舌噛むぞぉぉぉおぉぉぉぉぉおおぉぉ!」
二回転した後に漏斗を流れる水のような旋回。トンネルに向けて超加速したまま突き進んでいくジェットコースターも、最初は恐怖で声すら出なかった。しかし四度目ともなれば楽しさの方が勝る。
先頭車両で操縦している気分を味わったり、最後列で徐々に迫り来る落下を視覚的に楽しんだりと、何度乗っても飽きることがない。
「マツモトキヨシィィィィィ」
「松本ヒロシだってのぉぉぉぉゴッ」
舌を噛んだ。
それから、休憩しようとバーニングさんに誘われるまま、また別のアトラクションへと。
「
「ちょっ、やめっ、とめっ! 止めろォォ!」
コーヒーカップは最悪だ。バーニングさんの力は想像を絶するものだった。吹き飛ぶ。遠心力で吹き飛ぶ。
「あはははは! 松本ヒロシ、楽しいのぉ! 妾はこの様な思い出を持てて幸せであるぞ!」
「う、うるせぇ! 死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬッ!」
俺がどんなに必死こいて止めようとしても、彼女は決して手を休ませない。
俺も必死だった。吹き飛ばないようにベンチをしっかりと掴むのに。
「あ、あのぉ……大丈夫ですか?」
心配して駆け寄ってきたキャストさんに対し、バーニングは豪快に笑うのだった。
「最高であったぞ!」
「は、はぁ」
俺とバーニングさんは、まるで竜巻に飲み込まれたかのように乱れた髪を整えながらメリーゴーランドへ。
「なんじゃ、遅いのぉ」
「これが普通だよ!」
「おぉ、そうなのか!」
驚いた顔の彼女を、何も知らないんだなぁと俺は笑った。
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