第131話、怪しき者の跡を附けし二人
朝、8時半。俺とガトーショコラはとある男を尾行していた。
男の名前は細柳小枝。弱々しいその名に反して、実際の姿はかなり蓄えのある豊満ボディ。言ってしまえばデブだ。
身長は男子高校生の中でもかなり低い方。しかし体重は学年一位の座を手にする重さ。
二位と30kg差をつけての一位だ。相当の巨漢であることがご理解頂けるだろう。
その結果、クラスから付けられたあだ名が
彼について知ったのも、クラスメイトと話しているときだった。そのため、実際に本人からツッコミを入れられるまでは、本当に出部太田という名前なのだと思い込んでいた。
それほどまでに、彼のあだ名は浸透している。もはやいじめだ。
しかし当の本人はネタになるからむしろ広まって欲しいと洩らしていた。見た目だけでなく心の余裕もかなりでかいらしい。
そんな彼が、休日の早朝であるこの時間から、何故か外出していた。
俺たちが彼の家の前に到着したのは朝8時きっかし。その時既に、彼は家を出るところだった。
慌ててガトーショコラと二人で彼の跡を着けながら、電車を乗り継ぎアスファルトを踏み締め歩いている。
ガトーショコラには、周囲の目を引かないよう伝えており、実際彼女もそれを理解していたようで、固有結界を解除し、浮遊をやめてしっかりと歩いて着いてきている。
それはいいのだが、なぜだか先程から必死に俺の手をつかもうとしてくる。
「えい! あぅ……。えい!」
「おい、ガトーショコラ。さっきから何やってんだ」
「えー? だって、手を繋ごうとしたらダーリン逃げちゃうんだもーん♡ えい!」
俺の左手を捕まえようとした彼女を、反射的に避けた俺はため息をついた。
「当たり前だろ。手なんか繋ぐわけないだろ」
「えー? だって今デート中なのにぃ?」
「違ぇよ! 尾行中だわ! ってか静かにしろっ、バレるだろ!」
「……声が大きいのはダーリンの方だと思うの♡」
頬を膨らませて抗議する彼女を無視して、俺は物陰に隠れながら細柳小枝を目で追う。
さて、彼は一体全体どうしてこんなに朝早くから家を出ているのか。どこへ向かっているのか。その答えは恐らく魅皇に会うためだろう。
学生になりすましている彼にとって、余裕ある時間を手に入れられるのは土日しかない。
魅皇に見つかり話をつけてから、恐らく今日まではラスボスになるための時間を確保できなかったのだろう。だから今から、恐らく魅皇が待つ場所へ向かう。うん、そうに違いない。
「あいつが魅皇を含めた魑魅魍魎を束ねしラスボスとなる可能性があるんだ。それを俺は食い止める必要がある。なんせ俺はヒーローなんだから」
最近ガトーショコラや魅皇に負けたり、好きな人に嫌われない為にとバーニングさんを傷つけたりしている俺としては、今度こそしっかりとヒーローらしい活動がしたいのだ。
これは世界を守るためという正義感の他に、子供の頃からヒーローをしてきた俺自身の尊厳にも関わる由々しき問題なのだ。
俺が
「まぁ、別にアタシはダーリンが何しててもいいんだけどね♡」
「そりゃお前もラスボスだからな。一応俺らヒーローからしたら倒すべき相手なんだぞ」
「でもダーリンはアタシを倒せないもんねぇ♡」
なんで余裕そうに笑ってんだ。腹が立つ。
「倒せないんじゃない。倒さないんだ。佐藤さんにどんな影響があるか分からない今、放置せざるを得ないだけだ。その分、
「ヒーロー協会にもアタシのこと報告してないでしょ?」
「それはあれだ。協会が佐藤さんの肉体や精神を見捨てる可能性があるから……」
「アタシのためじゃないの?」
「それは無い」
「ちぇー♡」
そんな会話をしている内に、細柳小枝が角を曲がった。
どうもこの一帯は人の数も多く見失いやすい。
どこへ行ったのかと慌てて追うように角を曲がった俺は、愕然とした。
そこは、大都会K市で最も有名な遊園地だったのだ。
そう、今日バーニングさんとデートをする予定だった場所……。
「な、なんでここに……」
理解が追いつかない俺に対し、間髪入れずに声が聞こえてきた。
「おーい! マツモトキヨシ! ここじゃここ!」
声のした方に目線を向けると、最前列で手を振るバーニングさんの姿があった。
「なんで一瞬でバレたんだよ!」
バーニングさんの声で、複数名の観客がこちらを振り返る。
その中にはもちろん、細柳小枝の姿も紛れ込んでいた。
「おや! 松本殿ではありますまいか!」
「あ、あは、あはは」
どうやら、最近の俺は運がないらしい。
この瞬間、俺たちの尾行は失敗に終わった。
「んじゃ、また後でねダーリン♡」
いや、ガトーショコラだけは固有結界の中に逃げてしまった。
完全に、してやられた。
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