第115話、以津真天奇譚語らん。
「あれ……俺って寝落ちした記憶はないんだけどな。むしろ、佐藤さんがエレベーターの中で寝てたからかなり驚いて……」
間違いない。あんな素敵な寝顔、見間違えるはずがない。
二度見どころか、ガン見したんだ。
もう穴が空くぐらい見つめたんだ。
舐め回すようにジロジロ見てたら、それを彼女が察したかのようにぱっと目が覚めたんだ。
「いや、寝てたのは松本さんの方ですよ? エレベーターの中で松本さんが寝てたから、なんだろうなと思って中に入ったら……なんだったっけ。アナウンスのようなものが聞こえて……」
その瞬間、一体の魑魅魍魎が脳裏を過った。
「
俺の場合はエレベーターに入る前からだった。
しきりに『上へ参ります』を繰り返すエレベーター。それを動かしていた魑魅魍魎が以津真天。てっきりあいつは役割を終えて昇天したものとばかり思っていたが……。
「以津真天、ですか?」
「そうです。一応、俺もそれで上へ向かったんですけど……」
あいつの能力は……確かナビゲート。正しいルートへ案内する能力で、それ以外のことは出来ず役割を終えれば死ぬはず。
一体どうして……。
というか、
ごちゃごちゃとした色んな世界を上昇して行き、魅皇の居る世界……恐らく彼女の結界内に通された。
冷静に考えれば、そこに辿り着くまでのルートをガトーショコラが導き出せるわけもない。あんなカオス空間の中をガトーショコラが自分の力で移動してきたとは考えられない。それに、エレベーターの階数を若干だが覚えている。優に7万は超え、既に8万にさしかかろうとしていたはずだ。そんな高い場所まで自力で登るのは不可能だろう。
とすれば、以津真天の能力でガトーショコラは俺の所に辿り着いたと解釈する方が自然だ。
「あぁ、以津真天でしたか」
ふと、ぼそり呟いたのは
「知っているのか出部太田」
「細柳小枝です」
彼はそう言い返すと、軽く咳払いをして話し始めた。
「我の知っている範囲で良ければですが……
彼は一瞬表情を暗くしたかと思うと、どこからともなくライトノベルを取りだした。
「日本神話を根底から覆す新説唱えた超現代宗教小説! なぜこの国は生まれたのか、どうして光は我が国を照らすのか。神々の織り成す様々な現象、事象、その全てが今までの根幹を揺るがす大事件を隠し通すために存在していた。その作品内に登場する魑魅魍魎が一人!
「あぁ、始まった……」
「以津真天の姿は、顔が人間のようで、曲がったくちばしに
怪鳥……鳥なのか。
「そしてそいつは『いつまで』『いつまでも』と、疫病で死んだ人々を見下ろしながら鳴き続けたのです!」
俺が会った以津真天は違う言葉だった気がする。たしか『上へ参ります』とばかり口にしていたが……。
「上に参ります、じゃないの?」
そう問いかけると、細柳小枝は大きく頷いた。
「この小説に登場する
「能力……か」
確かにエレベーターの以津真天も役割を終えた途端さぞ満足気だったな。
「そう! 能力! そして以津真天の能力は『案内』」
「案内……。間違いない。俺が会った以津真天はナビゲートの能力を持っていた。決められたルートへ案内すると言っていたな」
俺が出会った魑魅魍魎と、細柳小枝の愛読書に登場するキャラクターが異常な程に似通っている。
「そう。通常の以津真天は、死んだ人を忘れられず、いつまでもいつまでもその人ばかりを思い続ける。そんな、心が囚われてしまった人間を案内し、死者の亡骸や魂の場所を知らせる魑魅魍魎なのです。その能力は『相思する魂同士のルートを繋げる能力』とされています。つまり、死者に囚われた人間と、そんな人間と一度でいいから話をしたい死者の想いを汲んで、二人を繋いでくれる存在です」
「なるほどな……ん? 待てよ、魂って言ったか……?」
「はい。魂です。肉体の移動は行っておらず、声による伝達か魂を引き合せることしかやっておりません。恐らく、松本さんはここに来た当初の目的である、
「なるほど」
魅皇自身も俺に会いたがっていた。というか、わざわざ学校で心霊現象まで引き起こして俺を呼び出したのだ。互いが会いたいと思っていたからこそ、ルートが繋がったのだろう。
魅皇と相思相愛か……。複雑な心境だ。
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