第111話、強敵の後に抱く恐怖たるや。
「いいかガトーショコラ。一旦ここは引け。引くんだぞ!」
ガトーショコラの右拳どストレートが
だが、相手は
今でこそ奴が怯んだ隙をついて逃げ出すことは容易だろうが、いつまた闇に紛れて現れるかも分からない。
現に、ガトーショコラが殴り飛ばした魅皇の姿は闇へと紛れてしまった。もうどこに彼女が潜んでいるのか分からないのだ。
「これ以上戦闘に無駄な時間を使う必要は無い。行くぞ、ガトーショコラ!」
という俺の発言は、どうやら彼女の耳には届いていなかったらしい。
「っ! そうよね、アタシ今まで押しまくりだったものね! 押してダメなら引いてみろ……つまり今ここでダーリンが攻め、アタシが受け♡ はいダーリン♡ 襲って?♡」
ガトーショコラはおもむろにダイヤモンド柄のドレスを脱ぎ始めた。真っ暗闇の中、壊れた壁から注ぐ外の灯りと、彼女の身にまとっていた輝くドレスが素肌を照らす。
周囲が暗いせいだろうか。なんだかイケないことをしているような気分になってきた。
って違う!
何を流されているんだ俺は!
「変な勘違いしてんじゃねぇよ。魅皇の能力が分からない以上、奴のテリトリーで戦うのは危険だって言ってんだよ」
自分から敵アジトに乗り込んだ手前人のことは言えないが、姿が消えて色んな場所から瞬時に現れる彼女の能力を攻略しない限り、倒せる未来が見えないのもまた事実だ。
先程はガトーショコラの超人的なスピードで魅皇の顔面を殴り抜けることも出来たようだが、同じ手が通用するとも思えない。
魅皇からしても、俺という人質を手に入れて慢心していたこともあるだろうし。完全に不意をつけただけだ。
「それに、奴ならいつでも細柳小枝を捕まえられる。闇に紛れて、体の一部だけを実態化させてるだなんて。まるで瞬間移動みたいな能力を使うわけだし……」
魅皇が捜し求めている
残り香とやらを頼って俺に辿り着いたのもまた事実。そう考えればやはり、俺に対してクラスの中で一番親しく接してくれている
そして、魅皇は能力を使えばいつでも細柳小枝本人を拐いに行けるはずだ。
「よし、ガトーショコラ。今すぐ地上に帰って細柳を回収するぞ!」
「とか言ってダーリン♡ アタシと逃避行したいんでしょ♡」
「違ぇって言ってんだろバカ! ってか逃避行するのに第三者の細柳小枝を回収する意味無いだろ!」
「……あ、本当だ」
「いや、逆にあいつのことなんだと思ってたんだよ」
「ペット?」
「もう少し人間の心持てや!」
必死にツッコミを入れる俺の背後で、再び魅皇の気配が瞬時に漂う。間違いない。瞬間移動だ。先程ガトーショコラの拳が彼女の顔面を捉えてから、魅皇は壁にめり込み向こう側まで吹き飛んで行った。それなのに今はちょうど俺の背後から気配がするのだ。すぐ後ろに、立っている気配がするのだ。
「くっ、コイツ!」
完全に隙を突かれた。今度こそヤバい。
どうする?
逃げるか?
いや、それは無理だ。先程俺を捕まえた魅皇は、どこからともなく手足を出して俺を羽交い締めにしてきた。背後を取られた今の俺が、どんなに必死になって逃げてもすぐに捕まるだろう。
なら、戦うのか?
あぁ、そうだな。
戦うとしよう。
何せ俺はヒーローだ。
世界を守るヒーローなのだから!
そう硬く決意すると、腰に手を当てた。
全身の熱が腰へ集中していき、それは質量を伴うベルトへ──
「──
俺が振り返るより先に、ガトーショコラの棒読みな必殺技が飛び出した。
「ギャァァア!」
俺を避けるように放たれた
と思ったのだが、声のした方を向くとそこにはダイヤモンド化した右足だけが落ちていた。
「あ、あいつはどこに!?」
思わず驚愕する俺を他所に、ガトーショコラは笑顔で俺の手を引き微笑んだ。
「ほーら♡ 邪魔者は居なくなったんだから、帰ろ?」
ガトーショコラの態度からハッキリわかる。魅皇は倒した……もしくは逃げたのだろう。ガトーショコラの言動を思い返しても納得はいく。どうやら、彼女にとって魅皇は取るに足らない敵のようだ。完全に遊んでいた。
そして俺はといえば、ガトーショコラにとってザコ敵当然の扱いを受けていた魅皇に対して恐怖を抱き、不覚を取り、敗北していた。
ガトーショコラが来てくれなければ勝てなかった。
ガトーショコラはこの世界に
「俺はこいつを倒せるのだろうか」
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