第98話、決別せざるを得ない。
あぁ、待ってくれ。ちょっと待ってくれ。一旦整理しよう。
まず、魅皇からのお願いは一つ。
そしてその理由も一つ。この世界を魑魅魍魎が支配すること。
なぜそんな重要な仕事を俺にお願いしたのかというと、俺の傍にいつも居るから。
「俺の傍に……誰だろう」
基本一人で行動しているつもりだったのだが、ふむ。俺の傍に居る人。第三者が見ても明白な程に俺の間近にいる人。えっと、俺の近くに居る人といえば……誰だ。ま、まさか佐藤亜月さんだろうか。うん。佐藤亜月さんだな。いや、これは俺の希望的観測か。いやいや、佐藤亜月さんでいいんじゃないかな。うん、ずっと一緒に居たい人だし、周りから見てもずっと一緒に居るように見えるのでは……。いやいやいや、良く考えろ。一緒に住んでるじゃん! 佐藤亜月さんじゃん! ずっと傍に、片時も離れず傍らに居てくれてる人は佐藤亜月さん以外思い当たらないよ!
「って違う!」
彼女は
いや、そもそも考えてみろ。彼女の中に潜むガトーショコラは魑魅魍魎を知らなかった。魅皇の話曰く、俺の近くにいて魑魅魍魎について語っていた人だとか言っていただろう。魑魅魍魎について詳しく、そして俺の傍らから離れようとしない人間。その条件に当てはまる人間……。
そこまで考えて、気がついた。
「……細柳小枝ッ!」
魅皇は微笑みを崩さない。ただ表情を1ミリも変えずに口を開いた。
「今はそのような名を使っているのですね、あの方は」
「あの方……お前はまだコンタクトが取れてないってことか」
俺の言葉に対し、魅皇は極まりが悪そうな表情を浮かべる。まるで宿題をやってこなかった時の小学生が、先生に指摘された時のような。どうもかなり聞かれたくないことらしい。
「ははぁん、むしろ避けられてるとか?」
あえて挑発するように首を傾げて見せると、魅皇の表情が少しばかり変わったように見えた。
あれは、怒りの表情だろうか。
「わっちは別に避けられているわけではありんせんよ。」
声に少々棘がある。しかし、過度に否定する様子はなく、むしろ肩を落として溜息を零した。あからさまに落ち込んだ態度だ。
「ただ、天照大御神様がなぜだか結界を貼っているのでありんす。わっちは神の残り香を頼りに探すことこそ出来ましょうが、姿を見ることができぬのでありんすよ」
「結界……?」
ガトーショコラがよく展開するような、空間に作用するタイプの異能力だろうか。ヒーローの中には結界を使用するタイプの人もいると耳にしたことこそあるが、それが結局何なのかよくわかっていない。
「仮に細柳小枝……じゃなくて、その天照大御神って人が結界を展開しているんだとしたら、俺にも姿は見えないんじゃないか?」
ガトーショコラとの戦いで彼女が展開した結界の効果は、俺を外へ逃がさないことと、外部からの認知阻害だった。それを天照大御神が使用し、魅皇から姿を隠しているのだとしたら俺にだって見ることはできないはずだ。だが、細柳の姿なら毎日学校で確認している。ということは、人違いだろうか。
「いんや、結界を貼っているのはあの方ではなく写し鏡の方。言わば能力自体の方。わっちにも姿は見えておるのでありんすよ。ただ、神の持つ後光が見えぬのでありんす」
ちょっと何言ってるのか分からない。
「後光?」
「天照大御神様の使う力でありんすよ。わっちら魑魅魍魎の類は魂を光として見ることができるのでありんす。そして天照大御神様はあまりにも強い光をお持ちのお方。見ればすぐに分かるほどの。それが見えぬのでありんす。臭いはすれど、姿だけが見えぬのでありんすよ」
つまり、どの辺りにいたのか痕跡をたどることはできても、誰が天照大御神本人なのか見極める手段がないということだろうか。
「なるほどな、それで俺に見極めてもらい、言伝をしたいというわけか」
「話の分かる男で安心したでありんす。
「いや、やらないけど」
「え?」
「え?」
俺が断るとは思っていなかったらしい。こいつの自信はどこから湧いてくるのだろうか。片手で数えれる程度の空白の時間が生まれ、それから魅皇は少し涙目になりながら手を合わせた。
「ど、どうしてもダメでありんすか?」
ダメとハッキリ言いたいが、滅茶苦茶その顔は反則だと思う。可愛い。
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