第23話、それは逆転のようで。
勝利宣言と同時に、呼吸を抑えながらニヤケ顔を浮かべてみせる。これでもかというドヤ顔だ。かなり傷だらけにされたのだから、これくらい精神的優位に立たせてもらっても
「…………」
勝利に酔いしれるこの俺を、ただ憎らしげに見つめ続けるガトーショコラ。墨汁よりも深い黒の髪、焼いた魚のような真っ白の瞳。それらが俺の顔をじっと睨めつけている。恨みつらみを凝縮させた視線は、俺の顔に穴でも開けようとしているみたいだ。
「なぁ、ガトーショコラ」
「…………なによ……ゴボッ」
まだこいつは溺れているらしい。それにかなりのダメージを受け立ち上がることもままならないようだ。能力を解除してテーブルを退けるとか、何らかの抵抗だって出来たはずだが。どうやらそれすらもする気が起きないらしい。
「さてと……、一つ聞きたい。佐藤亜月は無事だな?」
俺の中で最も大切な内容だ。ガトーショコラは佐藤亜月という少女に乗り移っているのか、それとも佐藤亜月に擬態して俺を狙っていたのか。どちらにせよ、佐藤亜月という人間が人質に取られていることに変わりはなく、その安否の確認はせずに居られなかった。そもそも佐藤亜月なんて人間は存在しない、という可能性を脳内から完全に除去していたのは、恐らく俺が佐藤亜月に一目惚れしたからだろう。都合よく、実在すると信じていたのだ。
「……ゴボボボボ…………」
「聞き取れない、ちゃんと答えろ」
「…………ゴボッッ、特大魔法……『
「なっ、貴様ッ!」
ヤバい、ここで特大魔法だと!? いや、今なら押し潰して阻止できるかもしれない。そう思い、全体重をかけて彼女を強く押す。しかし、突如発生した謎の衝撃波によって俺の体はダイヤモンド化したテーブルごと宙を舞い、彼女を自由にしてしまった。
「なんだ……ハッ、シャボン玉だと!?」
どうやらもう既に特大魔法である『
「痛かった、な……。ねぇダーリン、アタシ……怒っちゃったんだけど……。覚悟してよね、アタシ本気出すから」
血も涙も通っちゃいない表情で、まるで死人が口を開いたようなか細い声で、彼女はステッキを振りながら呪文を口にする。
「…………ガーネット、アタシの問いに答えよ。その名に刻まれた永遠の誓いを今ここに示せ、
アクアマリンの能力により自らの肉体を完全回復させたと思えば、続け様に
「って、今は関係ねぇか」
ガトーショコラの次のフォルム、確かガーネットと言ったか。それがどんな宝石でどんな能力を秘めているのか全く想像がつかない。だが、トドメを刺すチャンスをみすみす棒に振り、ピンチを作ってしまったことは間違いないだろう。俺にはトランスを行うための金がない。身を守るダイヤモンドのテーブルも吹き飛ばされてしまった。どうしたものか……。
「それにしても、お前はどんどんトランスするな、消費物はそんなにも消えないのか?」
「ダーリンこそ、もうトランスしなくてもいいの? あはは♡」
「言ってくれるねぇ……ッ」
流石に体液や寿命などの命に関わる何かを消費しているとは思えない。しかし、大技を出し惜しみせず使いまくり、常に空間魔法を発動している様子からも、彼女のトランス代償枯渇を狙った長期戦は不可能と見える。余程トランス代償の量に自信があるのだろう。そうとしか思えないほどの使い放題っぷりだ。
そんな風に考察を立てているうちに、彼女の水色のドレスは光に包まれ、泡のように弾け飛んだ。代わりに褐色のドレスに身を包み、橙色に染ったステッキを握りしめる。
「あはは♡まだまだ宝石は沢山あるのよ♡」
その証拠と言わんばかりに、彼女の背後から無数の宝石が溢れた。見たことあるようなものもあれば、見たことの無いものまで。正直に言えば気持ち悪い。金持ちが道楽のために札束を見せびらかすような余裕気な表情に吐き気がする。そして……。
「実りの女神、ガーネットショコラ!」
彼女は新たな能力を発動した。
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