第24話、それは大好きで。
ガトーショコラの決め台詞と同時に、彼女が身に纏っていた褐色のドレスには様々な花の文様が浮かぶ。まるでたった今咲き誇るかのような美しさ、それを身につける本人からは全く美を感じないが。
そんな化け物じみた女の四肢を褐色の茨が覆った。植物のように伸び、そして鉱石のように鋭く頑丈に光る。なるほど、アーマータイプか。それで防御しているつもりらしい。という事はダイヤモンドと同じく物理特価近距離型だろう。
消耗戦には持ち込めない。相手は手数が多い。色んな宝石をどんどん使ってくるはずだ。しかもモード事に空間魔法を発動してくる。どうなるか分かったもんじゃない。しかし、ここは何とかハッタリを効かせて隙を見つけなくては。
今俺には二つの選択肢がある。一つは隙を見て逃げる。しかし、一番の逃げるタイミングを俺はみすみす失ってしまった。さらに、仮に上手いこと逃げられたとしてもきっとまた直ぐに戦うハメになるだろう。ガトーショコラとしても、俺がヒーロー協会とかに情報を売る可能性を考慮するはずだ。女の子を人質にとるトランス能力使いが居るなんて俺がバラせないよう、着実に殺しにくる。逃げるということは、今の問題を先送りにしているだけだ。金が手に入らない限りガトーショコラは倒せない。金が手に入っても、倒せるかどうかすらわからない。
そしてもう一つは、携帯端末を利用して手元にある何かを換金する。俺が身につけている衣服は安物過ぎて三分と戦えないだろう。ウルトラマンもビックリだ。一番いいのはこの家に散らばる宝石を拝借し携帯に読み込ませることだが、それは出来ないことが判明した。万事休すだ。
「俺だって、まだまだ星座はあるんだぜ……。お前に今見せた能力は牡牛座と天秤座の能力だけだ。だが考えてもみろ、世の中にどれほどの星座がある事か。その全てが俺の味方だとしたら、お前はどうする」
そう、俺には十二星座が着いている。その全てに固有特価能力があり、またオリオンスターを消費する事で固有必殺技を放つことも出来る。問題は預金がすっからかんという事だが。
「あはは♡ でもダーリン、アタシの宝石はきっとダーリンよりももっとあるよ。倒せるかな?」
挑発には乗らないか。心做しか彼女の頬が高揚しているように見える。まるで酒でも飲んだみたいに。
「さぁ、それはどうかな。覚悟しろよガトーショコラ。俺はお前のことが好きだからな」
……ん? あれ?俺今なんて?
「ダーリン、今、今なんて?」
「えっ? いや、だから……俺はお前の事が好きだ……え?」
「ほ、ほえっ? あ、あはは♡ も、もうダーリンたら♡ は、恥ずかしいよぉ……♡」
あれ、おかしい。俺は何を口走っているんだ? 好き? 誰が? 俺が??? え、俺が誰を好きって? ガトーショコラ??? は? いやいやいやいや、それはない、有り得ない、決して有り得た話じゃない。
「ダーリン、アタシも大好きだよ♡」
「は? 誰がてめぇみたいなブス、愛してるわボケ!」
「はうっ……だ、大胆……♡」
待て待て待て待て、ん? ちょっと待て、状況を整理しようか。俺今なんて言った? 愛してる? は? 誰を? ガトーショコラを? 俺が? 俺がガトーショコラを愛してるのか? は? ありえないんだが。そもそも俺はなんて言おうとした? 確か、ガトーショコラに好きとか言われて、なんかキレて、ムカついて、俺はお前の事を愛してるって言おうとして……ん? ストップストップ、タイム。は? 何考えてんの俺。は? は? は??? 俺が、ガトーショコラを、愛してる?
「んなわけねぇだろ! 愛してるぞガトーショコラァァァ!」
ストップ止まれ俺のバカァァァ!
「ダーリン、アタシも愛してるよぉ!!!!」
「うるせぇ黙れ! 可愛いんだよてめぇは!」
「きゃっ、か、可愛いって言われちゃった♡」
「大好きだよガトーショコラ」
「アタシも、ダーリン」
ストーーーーーップ! おい待て待て待て待て待て待て待て待て待て。落ち着け俺、落ち着け松本ヒロシ、落ち着くんだ
「グォァオアォアオアオアオァァオォォオアッ!」
「ダ、ダーリン大丈夫……?」
大丈夫じゃねぇよ、どうしたんだ俺、なぁ、どうしたんだよ俺。なんでさっきまであんなに嫌いだった相手を好きになってんだ。だって俺、最初からガトーショコラのこと好きだったよな?
「だからちがぁぁぁぁう!」
え、待って待って、いつから俺はそんな風に思ってたの? え? 恋って落ちるものだとか言われてたけどそういう事なの? フォールインラブなの? なんで? え?
「ダーリン大好きだよ?」
「うるせぇ俺はお前の事が大好きなんだよォ!」
だからなんでだよォォオオオオ! 好きなの? え、いつから? ねぇ答えてよ鬼龍院刹那、俺いつから好きになったの? え、おかしくない? 俺が一目惚れしたのって佐藤亜月じゃなかった? ねぇ、むしろ佐藤亜月の体乗っ取って攻撃してきたガトーショコラの事、俺嫌いじゃなかった?
……そうだよ、嫌いだよ。おう、嫌い嫌い。思い出した。そう、嫌い。この感情大事。忘れるなよ。そう。俺は。
「俺はガトーショコラが大好きだァァァァァ!」
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