第16話、それは封印した力で。

 俺がヒーローになったのは、小学一年生の頃だった。当時俺は、先祖から伝わる血筋のお陰で偶然にもオリオン座の力を手にし、トランス能力を利用して小学一年生という若さにも関わらず宇宙塵エイリアンとの戦いに参戦していた。いや、勝手に参加していた、の方が正しいかもしれない。

 そんな俺に戦い方を教えたのは父親だった。父親は村一番のヒーローだった。ヒーローの中で最強と謳われ、いくつもの伝説を残したらしい。

 そのせいもあってか、色んな都市やヒーロー協会からスカウトが来るほどだ。しかし、あの人は根っからのヒーローだった。正義とは金や名誉のためにあるのでは無い。平和のためにあるのだと豪語し、一切の金品を受け取ろうとしなかった。たまに受け取るのは、その日の夕食になりそうな食材か、クーポン券ばかりだった。

 我が家は母が仕事をし、父は世間一般に言うニートだった。いや、毎日ヒーローとして戦いに行くのだが、必ずその報酬は受け取らなかったり、被害者に寄付したりと、家庭を顧みない活動家だったのだ。

 俺は昔から飢えていた。貧乏だった。だから、トランス能力を使って誰かを助ける度にお小遣いをせがんでいた。誰かから施しを受ける俺に対し、父親はヒーローというものの重要性を幾度となく説き、「正義そのものであれ」と教育していた。

 正直、貧乏は嫌いだ。金にならないことは大っ嫌いだ。そんな俺も、善行のためだけに生きる父親の背中に憧れ、完璧なヒーローというものを目指していたのを覚えている。


 しかし、やはり小学一年生に宇宙塵エイリアン討伐は難しい。まず体格差が凄かった。俺の拳は届かず、奴らの蹴りが物見事に入るのだ。不利で仕方がない。だから、俺の仕事は専ら小学校に通うことだった。父曰く「小学生の仕事は学校で勉強することだ」らしい。俺は父に憧れていた面も大きく、その言葉に逆らうつもりは一切無かった。だから俺の日々の生活はただ単に学校へ行き、そして帰る。それ以外の特別な事は無いに等しいだろう。

 たまに通学路に現れたエイリアンと戦った事はあるが、やはり相手が強すぎて直ぐに父親や親戚に連絡をとっていた。それから、助けが来るまで時間を稼ぐ程度。もっと強い敵は、基本的に父親か、親戚の誰かが鉱山に向かい、倒して帰ってくる。そんな日々だ。

 俺も早く父親達の仲間入りをして、立派なヒーローになりたかった。そのために力を得たのだと思っていたから。俺の力は父親と肩を並べ敵を倒すためにあると信じていた。


 いや、自惚れていたんだ。


 俺は同級生とは違う、選ばれた存在なんだと自惚れていた。だからある日、俺は自分の意思で鉱山に向かった。立ち入りが禁止されている宇宙塵エイリアンの出没区域に立ち入ったのだ。誰の断りもなく。

 朧気おぼろげではあるが、誰か同級生と二人で鉱山に入ったのを覚えている。

 そこで俺は宇宙塵エイリアンと出会した。とてつもなく強かった。同級生を巻き込んでしまい、怪我まで負わせてしまった。その時俺は、得たのだ。十二星座の内の一つ、牡羊座の能力を。

 初めて訪れたピンチを救うようにして、星座は俺を呼んだ。もっと強くなれと。もっと戦えと。もっと恨めと。もっと憎しみ、もっと怒り、もっと刃を研ぎ澄ませと。

 俺の中で何かが弾け飛び、そして目覚めたのを今でも鮮明に記憶している。


「行くぞ、牡羊座」


 俺の指示に合わせてベルトから牡羊座の文様が飛び出し、それが仮面の形を変形させる。


『トランス・エリース』


 この能力を使うのは、これで三度目になる。

 一度目は小学一年生の頃、初めてこの能力に目覚めた頃だ。正直あの時は上手くこの能力を使いこなせなかった。使ったあとの記憶が無いのだ。そして父親からは、二度と使うなと言われた。

 二度目はいつだったか、あまり記憶にはないが、人間に向けて。何故宇宙塵エイリアンでもない人間に対してこの能力を使ったのか、全く覚えてはいない。しかし、誰かが泣き叫ぶ声だけは耳から離れない。その日以降、俺はこの力を使わないと決めていた。

 そして三度目が……今だ。封印されていた能力を、十年ぶり近いだろうか。今解き放つ。

 正直なところ、俺はこの能力を嫌っている。二度と使う気にはなれなかった。十二星座の中で最も要らない能力だ。というのも……。


「ウガァッ」


 突如頭の中の理性が弾け飛び、意識が薄れるの……を感じ……た。…………そ、う。この……能力は……俺の……怒………………り。俺の………………憎しみ……………………。争う……事が……………………本能。


「ガルルルルル」


 敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵、敵。危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険、危険。

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