第932話 その後……‐5

「どの辺の映像が見たい?」

「そうだな、シロを見せてくれるか?」

「眷属その一ね。了解」


 映像が切り替わる。

 人型のシロが映し出された。

 俺の知っているシロと若干、面影が違って見えた。

 隣にはマリーがいる。


「この度、四葉商会の会長に就任頂きましたシロ様です」


 マリーが四葉商会の建物で、社員に説明を始めていた。


「これは、いつの映像だ?」

「えーっとね……タクトが死んだ二日後かな」

「――そうか」


 シロからの提案だった。

 自由に生きていいと言ったのだが、俺の生きた証である四葉商会に関わらせて欲しいと……。

 クロもシロの願いを知っていた。

 同じ思いから、クロも魔都ゴンドを残そうと、アルに自分を選ぶようにと働きかけたのだろう。


 俺がシロに、四葉商会と関わることを了承した時、「今ならフェンの気持ちが良く分かります」と言っていた。

 オーフェン帝国のケット・シー。

 代々、王国を支え続けて来た。

 規模や立場は違えど、シロもフェンも思いは同じなのだろう。


 シロが四葉商会に、どのように関わるかは、俺抜きでシロとマリーで決めてくれと頼んでいた。

 俺が了承してもマリーが了承しなければ、この話は無かったことになる。

 マリーとの話し合いにの結果、会長ということで落ち着いたようだ。

 シロとマリーは「四葉商会に害をもたらす者には容赦しない!」という共通認識が、二人の絆をより深くしているようだった。

 それからも四葉商会の関係する場所を二人で回っていたが、誰もがマリーに優しい言葉を掛けていた。


 この映像が、俺の死後二日ということは、マリーと共に俺のことをグランド通信社などへの対応をしてくれていたのだろう。

 シロは決して、表舞台には出ないと俺に言っていた。

 自分の存在があることで、俺の功績いや、四葉商会の功績に傷が付くのを恐れたのだろう。

 聖獣エターナルキャットがいるから、大きくなった。

 なにか特別な力を持っている。その力を独占しているからだ!

 色々な噂が広まるのを抑止する意味もあるのだと思う。

 俺的には、そこまで神経質にならなくても大丈夫だと思うが、シロらしいとも感じていた。

 シロにもクロと同じように呼び名問題があった。

 マリーが聞くと、はっきりと答えた。


「主従関係が無くなってしまいましたが、タクト様は今でも私の御主人様です。シロという誇り高き名前で呼んでいただきたいと思っています」


 シロの言葉にマリーにも笑みがこぼれていた。

 その後、対等な立場だからこそ、お互いを呼び捨てで呼びあうことで、呼び名問題は決着したようだった。


「パーガトリークロウも、眷属その一も立派だね」

「あぁ、自慢の仲間だよ」


 エリーヌの返事をする俺は自然と笑顔だった。


「それと、この映像も見とくといいよ」


 エリーヌは又、映像を切り替えた。

 すると、王都にある謁見の間が映し出される。

 しかし、玉座には誰も座っていない。

 ルーカスやアスランたちは、通常であれば俺たちがいる位置まで下りてきていた。

 そして、その先にはアルとネロ、シロとクロの四人がいた。

 話の内容は、俺という存在がいなくなったことに起因することだった。

 エルドラード王国と魔都ゴンドの関係を今迄同様なのかの確認と、魔王であるアルとネロ、そしてシロとクロに何かあれば助けて欲しいということだった。

 何かあればと言うのは、外構的な意味でなく人族では立ち向かうのが困難な魔物や、凶悪な犯罪組織による国の混乱のことを言っているのだと、映像越しの俺でも分かった。

 クロはアルとネロの判断に任せるとのことだった。

 二人の答えは魔物討伐に関しては協力するが、国を混乱させるのが人族であれば、自分たちが介入すべきではないという考えだった。

 ルーカスは、一先ず安心したのか、安堵の表情を浮かべた。

 シロは既に四葉商会の会長となっているので、自分たちに関係する人たちが被害にあったのであれば協力すると答えていた。

 シロの回答が、自分が思っていたものと違うと感じていたルーカスは落胆していた。

 しかし、シロの回答は「自分たちに関係する人たち」と言っている。

 それは、四葉商会の商品を購入してくれている人たちのことだ。

 間接的にシロは「お手伝いします」と言っているに等しい。

 ルーカスが、このことに気付くのは国が混乱して時だろうが、犯罪が明るみに出る前にシロが処理してしまっている確率の方が高いと、俺は感じていた。

 少し歪な感じだが、ユキノが愛したエクシズが平和なら、何も問題はない。

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