第933話 その後……‐6

 エリーヌと一緒に、俺とユキノの死後の世界を幾つかの映像を見続けた。


「本当にありがとうね」


 エリーヌが笑顔で俺に礼を言う。

 神の理不尽さ、横暴さに怒りを感じることもあった。

 しかし、エリーヌは神としては失格かも知れないが、感情を言葉に乗せて俺にぶつけてきた。

 もし、俺の仕える神がエリーヌでなく、モクレンや他の神たちだったら――。

 俺は考えながら、エリーヌの使徒で良かったと、心から思っていた。


「エリーヌ様。私のほうこそ、使徒に選んでいただき感謝しております」


 俺の丁寧な言葉使いに、エリーヌは目が点になっていた。


「タクトらしくないね」

「やっぱりか」

「うん、いつもの話し方の方が、私たちには合っているよ」


 二人して笑った。

 腹黒女神や、ポンコツ女神などと言ったこともあった。

 基本的に変わってはいないと思う。

 しかし、エクシズを平和な世界にしたいという気持ちは変わっていない。


「俺のほうこそ、ありがとうな」

「どういたしまして」


 俺は改めて、エリーヌに礼を言うと、笑顔で言葉を返してきた。


「俺は……このまま消滅するのか?」

「そうだね。タクトには話をしていなかったね」


 エリーヌの表情が変わる。

 使徒という立場で一定以上の成果を出した俺には三つの選択があるそうだ。

 一つ目は、魂の消滅。

 二つ目は、記憶を消去して普通の魂と同じように転生する。

 三つめは、神候補として見習いとなれること。


「ちょっと、待ってくれ!」


 一つ目と二つ目は、予想の範囲内だ。

 しかし、三つ目の神候補の見習いは……。


「神候補の見習いは、タクトの功績があったからだよ。一般のスカウトと違って、タクトの場合は、特別枠になるからね」


 その後も、エリーヌの説明は続いた。

 冥界の魂から、神候補になれる魂が発見されると、冥王オーカスからエリーヌに連絡が入る。

 その魂が、本当に神候補なのかを、中級神モクレンと上級神ヒイラギと段階的に審査される。

 ヒイラギの了承が得られれば、神候補つまり、神見習いとして神界での面接が始まるそうだ。

 俺の場合は既に、ヒイラギの了承を得ているそうで面接はあるが、俺の判断をエリーヌが聞いてからになるそうだ。

 なにより、大きな違いは神候補になると決めた時点で、冥界からの魂は生前の記憶を全て失い、神として別の記憶が植え付けられるそうだが、性格や基本的な思想まで影響をすることがない。


 エリーヌの話を聞いて、エリーヌも選ばれた魂なのか? と疑問を感じながら、エリーヌを見る。


「あー、タクトが今、何を考えているか当ててあげようか⁈」


 不機嫌そうな表情で、俺を睨み返す。


「私も選ばれたから神なんだよ」

「分かったって」


 エリーヌの底抜けな純粋さは理解出来る。

 それが仕事に向けられているか、サボることに向けられているかは別だが――。

 俺は疑問を抱く。

 エクシズを混乱に陥れたアデムとガルプも選ばれた神だった。

 なぜ、そんなことが起きてしまったんだろうか?


「アデム様とガルプ様のことを考えている?」


 エリーヌは俺の表情から察したようだった。


「あぁ、魂の本質は変わらないと言ったが、あの二人でも神になれたんだよな?」

「……うん。でも、あの件は私たちの間でも前代未聞のことなんだよ。原因を突き止めるために調査もしているようなんだけど……下っ端の私までは情報が下りて来ないんだよね」

「そうか……」


 自分自身、俺の本質が神に近いとは思っていない。

 もしかしたら、記憶を失って神となった俺が、第二のアデムにならないとは言い切れない。

 そのような想像をすると――。


 エリーヌは簡単に、魂の消滅と転生の説明をしてくれた。

 俺が知っていると思っているので、詳しい説明ではなかったが、転生の注意事項として、極稀にだが過去の記憶を思い出すことがあるらしい。

 それが夢だったり突然、頭の中に浮かんできたりと様々らしい。

 これは転生後の自分に、魂の持っている記憶からの、何かしらのメッセージだと話す。

 つまり、転生を選択すれば、記憶のない何度か転生を繰り返した俺が、夢などでエクシズのことを思い出すことがあるということだ。

 そのことが、その時の俺にどう働くかは疑問だが――。


「エリーヌ。俺は魂の消滅を選ぶことにする」

「えっ、本当に魂の消滅でいいの?」


 俺の選択にエリーヌは驚いていた。

 良くて、神候補の見習い。悪くても、転生だと考えていたのだろう。

 転生でも良いと思ったが、俺自身の記憶は転生後の自分に重みを背負わせたくないと考えた。

 エリーヌには、そのことを説明する。


「……タクトらしい選択だね」

「そうか?」

「うん。転生後の自分のことまで気遣っているなんてね。……でも、仕方がないね」

「悪いな」

「ちょっと、待っていてね」


 エリーヌは誰かと連絡を取っていた。

 俺が魂の消滅を選択したことを報告しているようだった。

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