第931話 その後……‐4

「お疲れ様……ってのも、変だよね」


 死んだ俺は冥界でなく、エリーヌの前にいた。


「やはり、冥界には行けなかったか」

「うん、ごめんね」


 薄々は感じていたことだった。

 女神の使徒である俺の魂の所有権は、エリーヌにあると思っていた。

 やはり、あの時がユキノとの最後だったのかと、改めて感じていた。


「まぁ、時間はゆっくりあるんだし、お茶でもしながら、ゆっくり話そうよ」

「……お前、仕事はいいのか?」

「何言ってるの? これも大事な仕事だよ。どちらかと言えば、最優先にしなくちゃいけないことだよ」

「それなら、いいが……」

「とりあえず、タクトが死んだ後のことを見せるね」

「……って、俺が死んでから、どれくらい経っているんだ?」

「うーん、一ヶ月くらいかな」

「なんで、そんなに時間が掛かるんだ?」

「書類や、手続きが面倒だったから、仕方がなかったんだよ」

「お前のせいか?」

「失礼ね! これでも早い方だったんだからね」


 エリーヌは俺を睨みつける。


「分かった。悪かったな。で、あっちの様子は?」

「そんなに急かさないでよ。今、映すから」


 何もない空間に映像が映し出された。

 俺の死後、シロやクロが俺とユキノの死を伝えてくれていたこと。

 そして、ルーカスが国として俺とユキノの死を正式に発表したこと。

 この裏で、悲しみを殺しながら仕事をしていたマリーの姿も映し出されていた。

 俺の想像以上に、悲しんでくれている人が多かった。

 しかし、この機会を狙ってか、反魔族派と呼ばれる集団が、魔都ゴンドに襲撃を企てていた。

 当然、アルとネロ、それにクロで簡単に追い返して犯罪者として捉えて、国に引き渡していた。


「しかし、本当によかったのか?」

「ん、何が?」

「アルとネロのことだよ」

「あぁ~、大丈夫じゃないかな。しかし、私が半分冗談で言ったことを、本気にしてくれて助かったよ」

「……お前って、奴は」


 アルとネロは俺の死後、エリーヌの使徒になることを了承していた。

 一応、使徒経験者なので問題はないということと、旧知の仲である二人であれば、助け合って信仰を広めることも出来ると、エリーヌは考えていたようだった。

 しかし、アルとネロも一方的に使徒を引き受けるつもりはなかったようで、エリーヌに条件を出した。

 アルの条件とは、自分の仲間にクロを加えること。

 ネロの条件は、人体実験がエクシズで行なわれた場合、知らせることだった。


「アルシオーネの件は、パーガトリークロウ次第だけど、ネロの件は大変だったよ」

「干渉問題か?」

「そう! 教えることが干渉しているかって議論になってね。まぁ、非人道的なことをしているのであれば、教えるくらいなら問題無いだろうってね」

「……ガルプたちのことが関係しているのか?」

「うん。神が犯した罪だから、反対する神たちも強くは言えなかったみたいだね」

「そうか」

「しかし、アルシオーネもパーガトリークロウと、主従関係を気付けないと知っていたんだろうね」

「どういうことだ?」

「タクト以上に主従関係を結べるとは思っていないんでしょうね」


 俺が生きていた時のクロは、名前を付けたことでネーム付きとなり、主従関係となった。

 しかし、今のクロはネーム付きで無いため、俺が生きていた時よりも能力は落ちている。

 そもそも、クロが主従関係を気付きたいと思える人物に名前を呼んでもらえなければ、主従関係は成立しない。

 つまり、今のクロという呼び名は名前でなく、愛称に近いのだろう。

 これは当然だが、シロにも言えることだ。


「まぁ、あの二人ならタクトとは別の方法で、私の名前を広めてくれると信じているんだけどね」


 ……俺には、エリーヌの言ういい未来が想像できなかった。

 ただ、クロがいれば安心だということだけは、はっきりといえる。

 アルとネロ、クロがこの先、何があろうと魔都ゴンドは守り通すと言ってくれた言葉を思い出してた。

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