第928話 その後……‐1
私はクロさんと目を合わせると、二人してアルシオーネ様に視線を移す。
アルシオーネ様は何も言わずに頷かれた。
私たちの行動で、アルシオーネ様も御主人様が亡くなったことが分かったようだ。
隣にいるネロ様に耳打ちしているので、ネロ様に伝えているのだろう。
国王様たちは、ユキノ様を亡くされたことを受け止め切れていない御様子だった。
「シロ。貴女が言うべきでしょう」
クロさんは、小さな声で私に話し掛ける。
私のほうが従者として、クロさんより先に関係を結んだからこそ、譲ってくれたのだと感じた。
「皆様に御報告が御座います‼」
私は皆に届く声で叫んだ。
俯いていた国王様や、泣き続けていた王妃様も、私に顔を向ける。
「たった今、タクト様が亡くなられました」
私の言葉に一瞬、時間が止まったかのように皆、動きを止めた。
「シロ殿、どういうことですか‼」
最初に声を上げたのは、第一王子のアスラン様だった。
「我が主人タクト様より、皆様には言うなと言われておりましたが、ユキノ様を蘇生した代償として、ユキノ様が亡くなられたことで、タクト様の寿命も残り少なかったのです」
「なんということだ……」
アスラン様は額に手を当てて、顔を左右に振られていた。
「タクト様から皆様に遺言が御座います」
「遺言……」
アスラン様たちは、再び私に注目された。
「黙っていて悪かった。どうしても伝えることが出来なかった。ユキノが亡くなって悲しんでいるところに、追い打ちのような感じで本当にすまないと思っている。俺のような常識知らずの冒険者にユキノを嫁にくれたことは、本当に感謝している。そして、義理とはいえ親より先に死んでしまったことも、本当にすまない。最後まで迷惑を掛けてしまうが、俺らしいだろう。一介の冒険者と、その妻が亡くなっただけだ。大がかりな見送りは不要だからな……とのことです」
「あの馬鹿め‼」
国王様は感情を押し殺せなかったのか、拳を壁に叩きつけて叫ばれる。
「どうぞ、中にお入りください」
私の言葉に合わせるように、クロさんが部屋の扉を開けてくれた。
部屋の中に目を向けると、幸せそうな顔の御主人様がユキノ様の横にいた。
まるで、眠っているかのようだった。
「クロさん。御願い出来ますか?」
クロさんは頷くと、姿を消した。
御主人様とユキノ様が亡くなったことを魔法都市ルンデンブルク領主のダウザー様たちに伝えに行った。
これは、生前に御主人様から言われていたことだった。
「大丈夫か?」
「泣いてもいいの~」
アルシオーネ様とネロ様が、私のことを気遣ってくれた。
御二方とも、必死で平然を装っておられるのが見て分かった。
御主人様の存在は、御二方にとっても特別だったからこそ、長年に渡り何度も経験した別れとは違う感情を抱いているのだと思っている。
「ありがとうございます」
私は気遣ってくれた御二方に礼を言う。
悲しくない! と言えば嘘になる。
しかし、御主人様は笑って別れるという選択をされた。
だからこそ、私やクロさんも笑って御主人様を見送ろうと誓っていた。
「シロ殿」
国王様が扉の横で待機していた私に声を掛ける。
「どうかしましたでしょうか?」
「タクトをユキノの横に寝かせても良いだろうか?」
「はい。私が行いましょうか?」
「いや、家族全員でやらせていただきたい」
「分かりました。皆様にお任せいたしますので、宜しく御願い致します」
私は頭を下げた。
倒れるようにユキノ様の側で亡くなった御主人様を不憫に思ってくれた。
そして、家族という言葉を使われた国王様たち。
私は、とても嬉しかった。
国王様たちは、御主人様をユキノ様の横に寝かせると、御主人様とユキノ様の手を繋いでいた。
御主人様とユキノ様を意思を尊重してくれたのだと感じた。
暫くすると、ダウザー様たちが到着する。
慌ただしく部屋に入り、御主人様とユキノ様と御対面された。
「嘘だろ‼ いつもの冗談だろう! なぁ、タクト‼」
ダウザー様は必死に御主人様に語り掛ける。
しかし、御主人様からの返答は無く、無言のままだ。
ダウザー様の奥様で、王妃様の妹であられるミラ様は王妃様と抱き合い涙を流していた。
御令嬢のミクル様もヤヨイ様と涙を流されていた。
「シロ。ここは私に任せて下さい。貴女も、やるべきことがあるでしょう」
「はい。ありがとうございます」
私はクロさんに、この場を任せることにした。
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