第929話 その後……‐2

 私は四葉商会に来ていた。

 入り口から入ると、リベラ様が座っていた。


「あっ、シロさん。お久しぶりです」

「はい、御無沙汰しております」

「今日は、お一人ですか?」

「はい。マリー様とフラン様は、おられますでしょうか?」

「マリーさんはいますが、フランさんは外出しています」

「そうですか。では、マリー様に私が一人で来たことをお伝えいただけますか?」

「はい、分かりました」


 マリー様なら、私が一人で店の入口から来た意味を理解されるだろう。

 御主人様から、国王様とダウザー様を呼んだら、マリー様とフラン様を呼ぶように言われていた。

 一応、マリー様たちの立場を考慮して、ダウザー様たちの後にされたのだと、私は思っている。


「わざわざ、ありがとう」

「いいえ」

「それで、いつだったの?」

「つい、先程です」

「そう――」


 マリー様は、階段を駆け下りたのか息を必死で整えながら、私に話し掛けていた。

 一瞬、顔を伏せられた。

 悲しい顔を見せないように、必死で堪えられに違いない。


「リベラ。申し訳ないけど、私とフランは、急用が出来たのでフランを呼びに行ってくるわ」

「はい、分かりました」

「一度、戻ってくるわ。それと申し訳ないのだけど……」

「はい、なんでしょうか?」

「私たちは【転移扉】で出かけるけど戻ってくるまで、誰も帰宅せずに店で待機してくれるかしら?」

「はい、それは構いませんが……」


 マリー様の言葉に、リベラ様は不安な表情を浮かべていた。

 それほど重要なことなのだと感じられたに違いない。


「シロ。フランとすぐに合流するわよ」

「はい」



 フラン様は四葉孤児院で、子供たちに写真の撮り方の指導をされていた。

 四葉孤児院に入ると、マリー様の表情と私が隣にいることで、状況を理解されたようだった。


「――そっか」


 フラン様は上を見ながら、口を堅く閉じていた。


「ごめん。行こうか」


 気持ちの整理をつけたようだった。

 私はマリー様と、フラン様の三人で一度、四葉商会に戻り、四葉商会にある【転移扉】で御主人様の所に移動した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 御主人様とユキノ様の周りには、国王様たちが悲しんでいた。

 マリー様たちが到着すると、マリー様とフラン様だけを残して、国王様たちは部屋を出ていかれた。

 私は部屋の中の扉付近で、クロさんは部屋の外で待機する。


 マリー様は御主人様に、泣きながら文句を言っていた。

 フラン様は、その横で声を殺すことなく泣かれていた。


 御主人様はマリー様のことを『戦友』という言葉を使われていた。

 それは間違いないと思う。

 しかし、私が思うにマリー様は御主人様に少なからず、恋心を抱かれていたのではないかと思っていた。

 マリー様は、御主人様との関係が壊れると思い、その想いを隠し通していたのだと思う。

 このことは、私とクロさんで意見が一致しているので、それなりに確証を持っている。


「ありがとう」


 マリー様とフラン様は、自分たちだけに長い時間を使うのは申し訳ないと思ったのか、気持ちの整理がついたと感じた段階で一旦、御主人様との別れを終えた。


 部屋を出ると、マリー様たちを別の部屋に案内してくれた。

 国王様たちの別室で待機して頂いているのだろう。


「何が起きたんだ?」


 ネロ様が、魔都ゴンド領主であるゾリアス様を連れてきた。

 この後、アルシオーネ様とネロ様と一緒に、魔都ゴンドの住人達に報告する必要があるからだ。

 私は、御主人様とユキノ様が亡くなったことを、ゾリアス様に伝える。


「嘘だろ……」

「どうぞ、こちらに」


 私はゾリアス様を、御主人様とユキノ様の所に案内する。

 横になる御主人様とユキノ様を見たゾリアス様は、言葉を失っていた。


「二人とも綺麗な顔をしておるの」

「死んだとは思えないの~……」


 アルシオーネ様とネロ様の御二方も、亡くなった御主人様とユキノ様との対面は初めてなので、悲しそうな目で御主人様とユキノ様を見られていた。

 ゾリアス様は悲しみと同時に、不安そうな表情を浮かべていた。

 この魔都ゴンドの領主として、冒険者ランクSSSである御主人様の存在は大きかった筈だと思う。

 ある意味、御主人様とユキノ様は魔都ゴンドの象徴だった。

 アルシオーネ様とネロ様を押さえつけられる御主人様が居なくなった。

 そのことも少なからず影響しているのだと思う。

 御主人様が亡くなったことは、御主人様自身が思っているよりも、この世界に与える影響が大きいのだと知っていただきたかった……。

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