第926話 終りの時‐1!
ユキノの体調が悪くなる。
流石に隠し通しておけないので、ルーカスたちに伝えることにした。
「なんとかならないのか‼」
ルーカスたちは、すぐにゴンドまで移動してきた。
そして、ユキノの治療方法を探そうとする。
しかし、俺が「蘇生させた時の影響だ」と話して、それにアルとネロも同意する。
「それに、無理な延命はユキノの意思じゃない」
「……なんということだ」
ルーカスは肩を落とし、イースとヤヨイは泣き崩れていた。
「親より先に死ぬとは……」
小さく擦れた声で呟くルーカスの顔は見えないが、泣いているのだろう。
当たり前だが、国王や王妃でなく、家族としての感情だろう。
人払いをしておいて正解だった。
護衛衆も部屋の外にいるし、アルとネロも部屋を出ているので、この部屋にいるのは、俺も含めてユキノの親族だけになる。
「タクト」
「ん、どうした?」
俺の名を呼んだのはアスランだった。
「どのような言葉を掛けていいのか、分からないが……ユキノは幸せだったと思う」
「どうしたんだ、急に?」
「タクトとあってからのユキノは、本当に嬉しそうに笑っていた。そのタクトと結婚をして、二人の時間を過ごしたこと。ユキノは満足な人生を送ったんじゃないだろうか」
「そう思ってくれていたら、嬉しいんだけどな」
「思っています‼」
泣きながらもヤヨイは、ユキノとの話を始めた。
ここ数ヶ月、俺と二人で世界中を旅したこと。
普通なら絶対にいけない場所や、美味しい食べ物。
ユキノを王女として接しずに、平民の娘として交流できたことなどを聞いていたそうだ。
それにヤヨイはユキノから、「もう何度も行けることはないですから……」と寂しそうな表所を浮かべていたユキノのことも教えてくれた。
その時は、特に変だと思わなかったが、今になってユキノの言葉の意味を理解した。
「ヤヨイ。貴女も、自分の気持ちに正直になったほうがいいですよ」
「おっ、御姉様‼」
自分の気持ちに正直に生きたユキノから、王国騎士団長ソディックと恋仲のヤヨイへのアドバイスだったのだろう。
もしかしたら、自分は二人の幸せな姿を見られないと感じたことから、発した言葉なのかも知れない。
(御主人様‼ ユキノ様の御容態が!)
(分かった)
「ユキノの容態が急変した!」
シロから連絡を受けた俺は、そのことをルーカスたちに伝える。
そして、ユキノが横になっている部屋へと急いで移動した。
「まだ、大丈夫じゃ」
ユキノの横にはアルとネロ、シロにクロが見守っていたが、俺たちが部屋に入ると、後ろに下がり自分たちがいた場所を譲ってくれた。
王妃いや、母親のイースが右手を、妹のヤヨイが左手を握っていた。
ユキノは辛そうな表情を見せずに笑顔で、俺たちを見ている。
ユキノの表情を見て、本当にアルに感謝をする。
アルがモクレンからの報酬を、「ユキノの痛みを出来る限り感じないように和らげて欲しい」としてくれたことで、穏やかな日々を過ごす時間が出来ていたし、今も我慢できるほどの痛みで治まっているのだろう。
ルーカスとアスランは、イースやヤヨイの横で、心配させないようにと必死で笑顔を作っていた。
「タクト様!」
「俺なら、ここにいるぞ」
ユキノ呼ばれて、安心させるように元気に振舞う。
「タクト様にお会いできて、本当に良かったです」
「俺もユキノに出会えて良かったと思っている」
「本当にありがとうございました」
「俺のほうこそ、本当にありがとうな」
ユキノは笑顔のまま、目を閉じた。
手を握っていたイースとヤヨイも、ユキノの手に力が無くなったのを感じたのだろう。
二人が同時に泣き叫んだ。
ルーカスも人目を気にすることなく、何度もユキノの名前を呼びながら、目から大粒の涙を流している。
俺は邪魔をしないようにと、少し離れる。
「良いのか?」
「あぁ、大事な家族が亡くなったんだ」
声を掛けたアルの質問は、俺の時間も残り僅かだということを言っていたのだろうが、家族との別れの時間を奪うことをするつもりはない。
悲しみに満ちた声だけが、部屋中に響いていた。
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