第925話 終活‐12!

 作業を終えたライラは帰ろうとしていた。


「ライラ‼」


 背後から声を掛けると、ライラは身構え攻撃の体勢を取った。


「お兄ちゃん!」


 俺の顔を見ると、安心と驚きの表情をしていた。


「どうして、ここに?」


 俺がここにいることに戸惑っていた。


「ライラと会いに来たらコスカからクエストをしていると聞いて、ヘレンにライラのクエストを教えてもらった」

「そうなんだ」


 ライラは嬉しそうな表情で俺の話を聞いていた。

 嬉しそうなライラの顔を見ると、この後に俺が話すことが、いかに残酷なことかを痛感していた。


「強くなったな」

「えっ! お兄ちゃん、今のを見ていたの?」

「俺が見ていたのは、ブレードウルフからだけどな」

「……恥ずかしい」


 ライラは顔を赤らめて下を向いた。


「恥ずかしがることは、ないぞ!」

「そんなこと……」


 自信なさげに、ライラは答えた。


「……強くなったな」


 俺は優しくライラに話し掛ける。

 秘められたライラは嬉しそうだ。


「あっ、私に会いに来たってことは、何か用事があったんでしょう?」

「あぁ……ライラに直接、伝えたいと思ったからな」

「そうなの?」


 ライラは不思議そうに首を傾げた。


「とりあえず、これはライラへの土産だな」


 俺は【アイテムボックス】から、少し小さめの肩掛け鞄を取り出した。


「可愛い鞄だ!」

「収納鞄だ。マリーやユキノが持ってたものと同じだ」

「えっ‼」


 ライラは驚く。


「これがあれば、討伐のクエスト証拠や、普段の買い物など、少しは楽になるだろう」

「……こんな貴重な物を貰ってもいいの?」

「もちろんだ。俺はセンスが無いから、ユキノに頼んで、イラに合うような鞄を選んで貰ったんだぞ」

「ユキノ様に!」

「あぁ、だから大事に使ってくれよ」

「うん、大事にする!」


 余程嬉しかったのか、鞄を撫でながら微笑んでいた。


「ライラ。大事なことだから、きちんと聞いてくれ」

「うん」

「種族によって、寿命が異なることはライラも知っているよな」

「うん、知っているよ」

「人族の中でも、俺の人間族は短命な種族だし、ライラの狐人族は長命な種族だよな」

「……うん」

「つまり、普通に考えれば俺はライラより早く死ぬってことは理解しているか?」

「……」


 ライラは答えなかった。

 知ってはいるが、遠い未来のことなので考えないようにしていたのだろう。


「でも、お兄ちゃんはランクSSSの冒険者だし、なんでも可能にしてきた凄い人だから――」

「俺も万能じゃないんだぞ」


 ライラの言葉を遮る。


「ここに来た理由だが、俺は長く生きられない」

「えっ‼」

「今迄の戦いのつけなのかも知れないが――」

「いや‼」


 今度はライラが俺の言葉を遮り、話し始めた。


「私が……絶対に、お兄ちゃんを死なせたりしない。必ず死なない方法を見つける。回復魔法が必要なら、私が必死で勉強するから……だから」


 話しの途中から、ライラは泣いていた。


「ありがとうな。でも、何をしても無駄だし、俺のためにライラの貴重な時間を使って欲しくはない。もし、俺のことを思ってくれているのであれば、俺をお兄ちゃんと呼んでくれたライラが凄い冒険者になってくれることかな」

「でも……それじゃぁ……」

「なにも明日、死ぬって訳じゃないんだ」

「そうだけど……」

「早かれ遅かれ、時間の問題だったんだ。それが、少しだけ早くなっただけだろ?」

「……」


 ライラは下を向いたまま、泣いている。


「意地悪な質問だが、ライラは俺が何も言わずに死んでしまったのと、今みたいに事前に話をするのと、どちらが良かったんだ?」

「……」


 俺はライラが答えるまで、何も喋らずに待つことにした。


「……黙って死んじゃうのは嫌。でも、死ぬことを知るのも嫌」

「そうか……」


 ライラなりに考えて出した答えなんだろう。


「ライラは、俺と最初に会った時のことを覚えているか?」

「……うん」


 俺はライラと最初に出会った時の話を始めた。

 お化け屋敷と言われた今の四葉商会の建物。

 そこでライラと出会った。

 そして、次期頭首としてのライラを助けるために、ラウ爺と戦ったことや、里の狐人族たちの反乱などをしたこと、思い出せる限りのライラとの思い出を一人で勝手に話した。

 そして、ライラが賢者になろうとしていることも――。

 話をしていくうちに、俺が思っているよりもライラは子供なのだと感じていた。

 必死で俺に追いつこうとしていたことも知っている。

 知らない間に、背伸びさせてしまっていたのではないか?


「冒険者は楽しいか?」

「うん。全て自己責任だし、強くなる実感が分かるので楽しいよ」

「そうか。いずれ、里に戻る気はあるのか?」

「まだ、分からない。出来れば戻り抱く無いってのが本音かな。ラウ爺が頭首で問題無いのであれば、尾の数なんて関係ないのが証明されたよなものだと思うし」


 涙を拭いながら、少しずつだが俺の言ったことを受け止める気持ちの整理が出来たようだ。


「お兄ちゃんは頑固だから、私が何を言ったって無駄なんだよね」

「ふっ、そう思ってくれていいぞ」

「……お兄ちゃんが死んだら、どんな方法でもいいので、必ず知らせてくれる?」

「あぁ、分かった」

「それと、私が有名になったら、お兄ちゃんのことを言ってもいい?」

「俺の何を言うんだ?」

「その……私の目標? 背中を追い続けた人が、お兄ちゃんだってこと」

「別に良いけど、コスカが怒らないか?」

「大丈夫だと思うよ。師匠は、心が広いから」

「それなら、いいが……」


 コスカの心が広いという印象が、俺にはない。

 師匠と弟子の関係だからこそ、俺の知らないコスカを知っているのかも知れない。


 ライラは、ブレードウルフや、サーベルウルフの討伐した証拠を、収納鞄に入れていく。

 残った死体は、他の魔物たちを呼びよせることになりかねないので、俺が燃やす。

 そして、ライラと一緒に少し歩きながら王都へと帰ることにした。

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