第924話 終活‐11!
ライラはブレードウルフとの戦闘中だった――。
近くにサーベルウルフの死体が幾つもあるので、この討伐対象のブレードウルフと行動を共にしていたサーベルウルフたちがいたようだ。
ざっと数を数えたが、三十数匹はいる。
ライラが、この数のサーベルウルフを倒したのには、少し驚いた。
俺が思っているいるよりも、力をつけているようだ。
ブレードウルフは無傷に近い。
それに比べて、ライラはサーベルウルフとの戦いで、MPをかなり消費しているようだ。
地形の変化からも、広範囲魔法を使用したのだろう。
普通の冒険者であれば、サーベルウルフの群れを発見した時点で、ブレードウルフの討伐は無理だと判断して、ギルドに戻って報告するのだろう。
俺と一緒にいた期間は短いが、悪いお手本になってしまったのだと反省をする。
師匠であるコスカの影響も、多少はあるだろうが……。
勇気と無謀を混合してはいけない!
前世で聞いた覚えのある名言が頭に浮かんだ。
きちんと、ライラと話し合う必要がある。
ライラはブレードウルフの様子を見ている。
ブレードウルフたちが倒されたのを見ているから、ブレードウルフも迂闊に動けないのだろう。
ブレードウルフが一定の距離を保ちながら、ライラの周囲を行き来する。
膠着状態が続く。
先に動いたのはライラだった。
けん制なのか、【雷球】をブレードウルフに向かって放つ。
ブレードウルフは【雷球】を回避するが、その先には既にライラが【雷球】を放っていた。
まるでブレードウルフが、どこに避けるか分かっていたかのようだった。
【雷球】はブレードウルフに与えたダメージは、微少だろう。
しかし、自分の行動を読まれていたブレードウルフには十分効果的な攻撃だ。
心理戦のような戦いも出来るようになったのだと、感心していた。
これで、ブレードウルフは迂闊に動けない。
ライラは自分が有利な戦況を作り出した。
それからは完全にライラが戦況をコントロールしていた。
接近戦では不利になると分かっているので決して、ブレードウルフを言っての距離より近付けさせないでいた。
MPの残量もあるので、最小限の魔法で最大の効果を出しているのだろう。
しかも、ブレードウルフの最大の武器である俊敏さを封じるかのように、右後足に【雷鞭】を的確に当てて、ダメージを負わせた。
そして、ブレードウルフの周囲に【炎壁】を作り出して、行動を制限した。
(ソニックウルフとの戦いで敗北したとはいえ、そこから学んだことは大きかったようだな)
俺はライラの戦いを見ながら、何もできずに意識を失ったソニックウルフとの戦いを思い出していた。
完全に行動を制限されたブレードウルフをライラは【炎砲】で止めを刺す。
雄叫びを上げながら、ブレードウルフがその場に崩れ落ちる。
しかし、ライラはすぐにブレードウルフに近寄らずにいた。
遠くから倒れているブレードウルフを見ていた。
万が一、生きていた時に反撃をされる可能性があるから、慎重になっているのだろう。
冒険者として当たり前の行動だが、功を焦る冒険者は忘れてしまいがちになる。
初心を忘れないことは良いことだ。
ライラは用心深く観察した後、【雷球】で攻撃をする。
一瞬、横たわっているブレードウルフの体が痙攣したかのように動くので、ライラは警戒を強める。
追撃として、【火球】を数発放つが、ブレードウルフの体が動くことは無かった。
ライラはブレードウルフが絶命したと判断したのか、少しずつ近づく。
俺はブレードウルフが、ライラの【炎砲】で息絶えていることが分かっているので、心配はしていない。
ライラは討伐の証拠として、ブレードウルフの牙と名前の由来ともなっている耳の先に生えている小さな刃のようなものを切り取っていた。
それを切り取り終えると、倒れている多くのサーベルウルフからも同じ個所を切り取り始めた。
クエストではないが、報告するために必要だ。
正確に状況を知らせることで、今後のクエストを受注する冒険者の危険を減らすことが出来る。
面倒だからと、やらない冒険者も多い。
なぜなら義務ではないからだ。
罰則もないし追加報酬もないので、冒険者の良心に任せることになる。
俺はライラの作業を終えるのを、黙って見ていた――。
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