第917話 終活‐4!


「……どういうこと?」


 リロイとユキノの足音が完全に聞こえなくなるのを確認したニーナが、俺を睨んでいた。

 いきなり話を合わせてくれただけで、事情を知らないのだから、仕方がない。


「そんなに警戒するなって」

「タクトが私と二人っきりで話をしたいだなんて、警戒するに決まっているでしょう。絶対にいい話の訳ないじゃない!」

「いやいや、本当はリロイを交えて話というか、報告をしたかったんだが、リロイには先に話をさせてもらった」

「……報告って、私たちのことじゃないの?」

「私たち? なんか勘違いしているようだが、違うぞ」

「そう……それで、話ってなによ」

「時間も無いことだし、ささっと報告するぞ」


 俺はニーナに、ユキノと俺の寿命の話をする。


「なにを言っているの……」


 ニーナは先程以上に俺を睨み、語尾を強める。


「俺が冗談を言っていない事くらいは分かるよな」

「それは……でも‼」


 悲痛な表情を浮かべるニーナ。

 受け入れられないのだろう。


「夫は……リロイ様は、なんて言っていたの?」

「受け入れてくれた」

「そう……結局、タクトには恩返しが出来なかったわね」


 俺はニーナの言葉を聞いて、思わず笑う。


「どうして笑うのよ」

「いや、リロイと同じことを言うから、夫婦って似るんだな」

「そんなこと……」


 ニーナは頬を赤らめていた。


「リロイ様から何か聞いた?」

「いいや、俺の話をしただけだったからな」

「そう……じゃぁ、私たちからも報告があるの」

「報告……ニーナ、子供が出来たのか‼」

「違うわよ‼」


 顔を真っ赤にして、ニーナが声を荒げた。


「違うのか。それは、それで残念だな」

「っとに……タクトと話すと調子が狂うわ」

「それで、報告って、なんだ?」

「それは――」


 ニーナから報告を聞いた俺は驚いた。

 リロイが半魔人としての能力が、無意識に発動するとのことだった。

 原因は不明だが、急に女性たちの態度が変わったことで、リロイ自身も戸惑っていたそうだ。

 当然、リロイは自分が半魔人だとは知らない。

 ニーナは、執事のマイクに相談をしたそうだ。

 この事が起きる少し前に、マイクは自分がインキュバスで、ニーナと同じように魔力を封じていることを、リロイに気付かれないように話していた。

 マイクなりに、ニーナの気持ちを少しでも和らげようとしたのだろう。

 自覚のない魔力の暴走に、リロイは戸惑い悩んでいる姿を、一番近くで見ていた二人だからこそ、余計に辛かったのだと想像できる。

 自分が半魔人だということ、そして母親がサキュバスだということ。

 リロイはマイクから聞かされた事実を素直に受け入れた。

 その上で、リロイはマイクに色々と質問をしたそうだ。

 マイクは、その前にニーナを踏まえた話し合いを提案すると、リロイは承諾する。

 ニーナも加わって、話し合いを再開する。

 リロイの症状は発作的なものらしいが、リロイが自覚すれば多少は制御可能かもしれないと、マイクと二人で特訓をしていたそうだ。

 そして、リロイはマイクから衝撃的な言葉を聞く。

 魔力を失ったとはいえ、サキュバスのニーナ。

 そして、半魔人として目覚めたリロイ。

 二人とも、人間族よりも老化が遅い。

 見た目が人間族の二人だからこそ、いずれ良からぬ噂が立つと、マイクは忠告する。

 ニーナは覚悟をしていたが、リロイは戸惑っていたそうだ。

 しかし、すぐに結論を出す。

 数年後に今の立場を捨てて、平民として余生を過ごそうということだった。

 これに反対したのはマイクだった。

 前領主からリロイのことを託されたからこそ、先祖が守ってきた貴族の地位を簡単に手放すことに納得できなかったのだ。

 しかし、リロイはマイクに向かって言い放つ。


「先祖の方々には申し訳ないと思っています。しかし、生前に御父様は私に言いました。自分の好きなように生きろと‼」


 初めて自分の意見をはっきりと示したリロイに、驚きながらも喜びを感じていた。


「幸いにも今、私とニーナの間に子供はいません。数年ごと言いながらも、今しかないのかも知れませんね……」


 子供が出来れば、簡単に今の地位を手放すことは出来ない。


「私としても、簡単に今の地位を捨てるつもりはありません。タクトとの約束もあります」


 俺との約束とはゴンド村が魔都ゴンドに変わった時のことだろう。

 その後、アルとネロに相談をしたそうだ。

 半魔人だということを知ったのは最近で、お互いの先祖が半魔人だったため、突然変異で症状が現れたということにしたそうだ。

 聞く限り、かなり無理がある設定だと俺は感じていた。


 そして、リロイは国王であるルーカスに話をして、ジークの領主を退く決断をする。

 当然、貴族のなかには半魔人の貴族を認めない者も多数いることは想像できたし、リロイ自身が自分の後任には、人徳とある者が来て欲しいとも話す。

 魔都ゴンドと隣接する都市なので、悪い領主を任命すれば、ルーカスの立場が問われるからこそ、人徳者を任命するとは思うが……。


 どちらにしろ、リロイがルーカスに報告をしてからでないと、なんとも言えないだろう。


「それで、ジークを出たらゴンドに住もうと思っているのよ」

「あぁ、いいんじゃないのか。ゾリアスたちに一度、聞いてみればどうだ?」

「……あっさりと、承諾したわね」

「承諾はしていないぞ。俺に決定権は無いからな」


 俺もリロイとニーナが、ゴンドに住んでくれるのであれば、正直嬉しい。

 俺の知らない間にも、いろいろと変わっていっているのだと感じていた。

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