第916話 終活‐3!
「タクトは相変わらず、突然ですね!」
「本当に悪いと思っている」
リロイが笑いながら話す。
俺とユキノは、ジーク領の領主リロイと妻のニーナを訪ねていた。
ジークへの買い物に来たついでに四葉孤児院により、時間があったのでリロイを訪ねたことにしている。
ユキノとニーナは別室でお茶会をしている。
「なにか問題でもあったのですか?」
椅子に座るなり、真剣な表情でリロイは問い掛けてきた。
俺が普段と違うと感じたのかも知れない。
「今から話すことは、絶対に口外しないと誓ってくれるか?」
「……それほど重要なことなのですね。分かりました、誰にも言わないと誓います」
俺は【結界】を張り、外部に会話が漏れないようにと遮断する。
「実はユキノが病に侵されていて、残り一年程しか生きることができない」
「えっ‼」
予想と違う言葉にリロイは戸惑っていた。
多分、領地に関する問題だと思っていたのだろう。
まさか、俺個人的な話になるとは思っていなかったようだ。
「ち、治療法はないのですか?」
「ない‼」
俺は断言する。
曖昧な回答をすれば、治療をするためにリロイが東奔西走するかも知れない。
それは俺やユキノの本望ではない。
「タクトが、そう言うのであれば――」
リロイは言葉を失っていた。
一応、冒険者として最高の地位にある俺が断言したから、本当に治療することが出来ないのだと感じたのだろう。
「まだ、続きがあるんだが――いいか?」
「はい。こちらこそ、話を止めてしまい、すみません」
「ユキノが亡くなった一時間後に、俺の寿命も尽きる」
「そっ、それは自ら命を絶つということですか‼」
リロイは興奮して大声をあげて、立ち上がった。
リロイに言われて気が付いた。
たしかに、そう捉えられても、おかしくない表現だった。
「いや、これは契約だ。俺が何をする訳でも無く、一時間後には寿命が尽きる」
「そんな……」
気が抜けたのか、リロイは腰を落として椅子に座る。
「この事を知っているのはアルとネロの二人だけだ。だからこそ、親友のリロイには話しておきたかった」
「まだ、タクトには恩を返していないのに……それにニーナにも――」
「ニーナには俺から話をしようと思っている。誰にも口外するなのなかに、ニーナは含まれていない」
「そうですか」
リロイは少しだけ表情を緩ませる。
これほどのことを妻であるニーナに隠し通す自信がなかったのだろう。
「あとで少しだけニーナと話をしたいんだが、いいか?」
「それは構いませんが……このことは国王様や王妃様は、御存じなのでしょうか?」
「ユキノのことは国王たちも知らない。心配させるだけなので、ユキノの様子を見ながら話そうと思っている。俺のことは話す気は無い」
リロイは俺の言葉を聞き終えると少しの間、沈黙していた。
「タクトが考え抜いて決断したのであれば、第三者である私からは、何も言いません……」
「ありがとうな」
「いいえ、私もニーナが居ない世界を考えることが出来ませんので、タクトの思いは良く分かります」
リロイは話をしながら、何度も頷いていた。
「俺が死んだら、ゴンドの人たちのことを頼むな」
「頼むな……と言われても、私がどうこう出来る範疇を超えていますから……ね」
「まぁ、アルとネロがいるから、馬鹿な真似をする奴はいないと思うが、たまに気に掛けてやってくれ」
「そうですね。時間を見つけて、遊びに行くようにします」
社交辞令でなく、リロイは本当にゴンドまで足を運んでくれるだろう。
ジークと友好な関係を結んでいることをアピールすることは、ジークにとっても悪いことではない。
「タクト。話を戻しますが、本当にユキノ様を助ける術はないのですか?」
「あぁ、残念だが――」
「そうですか……タクトが居なくなるとは考えていなかったので、寂しくなりますね」
「リロイに、そう思って貰えるだけで十分だ。じゃあ、嫁さんたちを迎えに行くか」
「そうですね」
俺とリロイは別室にいるユキノとニーナの部屋へと移動することにした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ユキノ様。タクトは以前に体調を崩した妻を見て頂きたいのですが、宜しいでしょうか?」
リロイの言葉を不思議に感じたニーナだったが、機転をきかせてリロイの話に合わせる。
「そういえば、そうでしたね。最近、体調が良くなっていたのと、ユキノ様のお話が弾んでいたので、すっかり忘れておりました」
ニーナは申し訳なさそうに、ユキノに頭を下げた。
「いいえ、構いませんよ」
ユキノは笑顔で答えた。
「ユキノ様。ニーナの治療中は、申し訳御座いませんが少しの間、私がお相手をさせていただきますが宜しいでしょうか?」
「はい、構いません」
リロイが俺とニーナ二人の時間を作ってくれた。
ニーナもリロイの考えを理解したのか、リロイの話に乗っていた。
「ニーナ。悪いところをタクトに直してもらいなさいね」
「はい、分かりました。ユキノ様、また後程」
「はい」
リロイとユキノは部屋を出て行った。
ニーナは、扉越しに聞こえる足音が聞こえなくなるのを確認していた――。
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