第893話 シーランディアでの戦闘ー5!

 蟻人族と蜂人族の女王を追った俺だったが――。

 目の前には、今まで戦った来た相手とは違う蟻人族と蜂人族が一人ずつ。

 そして、蟻人族なのか蜂人族なのか微妙な感じで、今ままで一番大きな奴が一人。


 向こうも俺の存在に気付くと、逃走を止めて戦闘態勢を取っていた。

 蟻人族と蜂人族は、微妙な奴を守るかのような体勢を取る。


(あいつらが蟻人族と蜂人族の女王じゃないのか?)


 女王が他の者を守ろうとする行動を取るはずがない。

 だとすれば――。

 俺は守られている奴をもう一度、注意深く観察する。

 触覚は長いが、片方はまっすぐで、片方は曲がっている。

 羽根は蜂人族のように大きい。

 しかし、口周りは蟻人族に近い感じもする。

 ……こいつは、一体?


「女王様。ここは私たちに任せてお逃げください‼」

「貴女さえ生きていれば、私たちは何とでもなります‼」


 蟻人族と蜂人族が、守っている者に話し掛けていた。

 先程まで戦っていた者たちは会話などしていなかった。

 この二人は、それだけ知能が高いということだ。

 話の流れ的に、あいつが女王らしいが――どうして、蟻人族と蜂人族の女王が一人なのだろうか?

 俺は会話を引き続き聞く。


「私だけが残っても意味がない‼」


 女王と呼ばれた者が声を張り上げる。


「女王様のために生きることが、我らの使命なのです‼」

「その通りです。先代の蟻人族の女王と、蜂人族の女王が命を懸けて戦い、勝者である蟻人族の女王が、我ら蜂人族の女王を食して能力を引き継いだからこそ、女王様が誕生したのです。女王様は蜂人族と蟻人族の希望なのです‼」


 蟻人族と蜂人族の前女王同士が戦った?

 それは封印されて食料が無くなったから、苦渋の選択を迫られたということなのだろうか?

 しかし、【仮死状態】のスキルがあれば、食料問題も解決していたはずだ。

 つまり、先代の女王同士が戦いに勝利した蟻人族の前女王が寿命を迎えて、目の前にいる新女王を産んだ後に、【仮死状態】のスキルを習得したということになる。

 仮死状態になった蟻人族と蜂人族は、新女王の下で長い間復活の時期を待っていたのだろう。

 そして、その時期が来た!


「……あんたが、女王なのか?」


 俺が話し掛けると、三人が驚いた様子で俺への攻撃態勢を強めた。

 表情が変わらないので、何を考えているかが読み取りにくい。


「……私たちの言葉が分かるのか⁈」


 俺が会話できたことに驚いていたようだ。

 俺には【言語解読】のスキルがあるので、この世界エクシズで言葉を持つ者であれば会話が成立する。


「奥のあんたが、女王様らしいな」


 俺の言葉で、蟻人族と蜂人族の二人は、女王を守ろうと構える。


「お前たちの目的は何だ?」


 俺は女王に質問をする。


「目的?」


 女王が俺に聞き返す。


「お前たちこそ、私たちをなぜ攻撃する‼」


 何故って……。


「お前たちが、人族への攻撃をするからだ」

「種族繁殖のためには仕方のないことだ‼」


 蜂人族が叫ぶ。

 たしかに、種族を増やすために他種族を攻撃するのは、人族でもしていることだ。

 蟻人族や蜂人族だけを責めることは出来ない。

 そもそも、蟻人族や蜂人族が人族の脅威になるから、今回のことをモクレンから頼まれているわけだ。


「俺たちを餌としか見ていないんだから、攻撃するのは当たり前だろう」


 生殺与奪。

 弱肉強食。

 強者のみに与えられる権利だ。

 そもそも、ガルプの実験体として作られた存在なので、自分の存在意義も不明確なのだろう。

 もっとも、人族でも自分の存在意義を見出している者がいるのかも、微妙は感じだが……。


「しかし、蟻人族と蜂人族が共闘とはな」

「お前には関係のないことだ‼」


 蟻人族が俺への敵意向きだしで叫ぶ。

 安易に攻撃をしてこないのは、今までの戦闘から情報を得ているからだろう。

 必死で女王を守ろうとする蟻人族と蜂人族の二人。

 生きるためには仕方がない。

 蟻人族も蜂人族も繁殖能力が、他の人族よりも高い。

 モクレンの言う意味も分かるが――。

 ここまで、蟻人族や蜂人族を殺してきた俺が今更だが、本当に殺さなければならない存在なのか? と目の前の三人を見て思う。

 共存という道は、本当に選択できなかったのだろうか?

 あの数の蜂人族や蟻人族が大陸に進出すれば、たしかに脅威なことは間違いないからだ。

 俺は昔のことを知らないので、モクレンの言うとおりにした。

 間違っていたとは思っていないが、なにか引っ掛かるものを感じた。

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