第892話 シーランディアでの戦闘ー4!

 アルが簡単に敵を倒して進み、巣の入口に到着する。

 蟻人族の巣だと思うのだが、巣の奥には蜂人族が低空飛行で飛んでいる。

 もちろん、上には蜂人族の巣があるので、上空でも蜂人族が臨戦態勢を取っている。

 俺が戦い始めて感じていた違和感と、アルの発言――。

 間違いなく蜂人族と蟻人族は共闘している。


「この山を壊せばいいのか?」


 アルの発想が俺と違っていたことに、今さらながら驚く。


「……いや、巣に入って戦おうと思う」

「入ってよいのか?」


 アルは蟻人族の巣に入る許可を俺に取ろうとした。


「あぁ」


 俺への許可は必要無いと、思いながら返事をする。


「崩落するような攻撃だけは、絶対にするなよ‼」

「大丈夫じゃ」


 俺の忠告に、アルは笑顔で返事をする。

 山を潰せば楽になると思うが、蟻人族の場合、地面の下に逃げられると、いろいろと面倒だと思ったので、確実な方法を選択した。


 巣の中は思ったより広かったが、蟻人族の大群が待ち受けていた。

 外よりも狭いとはいえ、相手が固まっている分、攻撃が当たりやすい。

 しかし、気付くと入口から蜂人族が入ってきたのか、俺たちは挟まれてしまっていた。

 前門の蟻人族に後門の蜂人族! といったところだろう。


「元気になったの~‼」


 ネロは俺の腕から口を離した。

 俺が言葉をかける前に、蜂人族への攻撃を開始していた。

 その間、俺はシロとクロに連絡をとり、外の様子を確認する。

 シロもクロも、問題無いというので、詳しくは聞かなかった。


「タクト‼」


 アルが俺の名を叫ぶ。

 今まで攻撃をしていた蟻人族が後退していた。

 後ろでネロと交戦していた蜂人族も攻撃を止めていた。


「なにをしたんだ?」


 蟻人族の異様な行動を不思議に思い、アルに質問をする。


「なにもしておらん」


 アルも不思議そうだったが、アルとネロは一旦、俺の所に戻ってきた。

 俺は【魔法探知地図】でマークの確認をすると、この場所に全てのマークが集まっていた。

 ――ん?

 俺は移動しているマークに気付く。

 この先にいるマークが少しずつだが、さらに奥へと移動をしていた。

 ……時間稼ぎか?

 攻撃をしてこない蟻人族と蜂人族の目的が、女王を逃がすために時間稼ぎだと、俺は感づく!

 アルとネロにその事を伝えると、アルとネロは顔を見合わせて不敵な笑みを浮かべた。


「こ奴等の女王とやらは、お主に譲ってやるので、思う存分楽しんでくるといいのじゃ‼」

「そうなの~、ここは私とアルに任せるの~」


 俺の返事を待つことなく、アルが片手で軽々と俺を持ち上げる。

 もしかして――。

 俺は嫌な予感を感じていた。

 そして、その嫌な予感は的中する。


「じゃあの‼」


 アルは俺を思いっきり前方の蟻人族に放り投げた‼

 俺はロケットと化したかのように、蟻人族の体を貫く。


「面白いの~‼」


 いつの間にかネロが背中に乗っていた。

 俺は楽しむ余裕が全くない。

 そして速度が落ちると地面に足を着く。

 蟻人族の壁を乗り越えた。


「ちょっと、アルの所に戻るの‼」


 ネロは【転移】でアルの所に戻るが、一瞬で帰ってきた。

 このネロの行動で、【転移】をするために俺に引っ付いて来たのだと理解した。

 俺は全身が蟻人族の体液だらけになっている。

 気分がいいものでもないので、【浄化】を使って体を綺麗にする。

 俺一人だけ、綺麗になるのも気が引けたので、アルとネロにも【浄化】を使い、体を綺麗する。


「おぉ、ベトベトが無くなったのじゃ」

「師匠、ありがとうなの~」


 奇麗になった体を触りながら喜んでいた。

 喜んでいるのも束の間で、蟻人族たちが地響きを上げながら、俺たちの方へと向かって来ていた。


「ここから先には行かせんから、安心するのじゃ‼」

「行かせないの~‼」


 アルとネロは戦闘ポーズを取りながら、笑顔で話す。

 俺は再度、【魔力探知地図】でマークの確認をする。

 ここから奥には数個のマークしかない。


(……蜂人族も、この蟻人族の巣を守るために総動員されたってことか?)


 つまり……今、移動しているマークは蟻人族と蜂人族の女王たちで間違いない。


「じゃぁ、アルにネロ。ここは任せたぞ!」

「任されたのじゃ‼」

「師匠も頑張ってなの~」


 俺はアルとネロに、この場を任せて、移動するマークを追った。

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