第894話 シーランディアでの戦闘ー6!

 俺が手を出さずにいると、女王たちも戦闘態勢を解かないままの膠着状態が続く。

 いざ、女王たちと対面した俺だったが、殺す――いや、種族を根絶やしにする理由を、エリーヌやモクレンに話を聞きたかった。

 目の前の女王たちが、害をなす種族に感じられなかったからだ。


 睨み合って、数分が経過する。

 相手は複眼なので、俺を見ているかは分からないが、俺は睨み合っていると感じていた。


「なにをしているのじゃ?」


 背後からアルが話し掛けてきた。


「……終わったのか?」


 俺はアルの方を見ずに、先程の蟻人族と蜂人族を倒してきたのだと直感した。


「もちろんじゃ!」


 アルの答えは俺の思っていた言葉だった。


「ネロはどうした?」

「上の巣を見てくると言っておったぞ」


 俺たちの会話に、目の前の女王たちが怒っているのを感じた。

 【魔力探知地図】で確認すると、マークは目の前の三つだけだった。

 つまり、この三人を倒せば終わりということだ。

 女王たちも、自分達以外に生き残っている者はいないと知っているのだろう。


(アル。悪いが、ちょっと神たちの所へ行ってくる)


 俺が【念話】で話すと、アルは軽く頷いた。

 【神との対話】を使用している間、この世界の時間は停止する。

 それを利用して、モクレンとエリーヌに連絡を取ろうと考えた。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 目の前にはエリーヌがいた。

 モクレンを呼んでもらうと、少し待つことになった。

 その間、俺は今回のことを整理する。

 まず、ガルプの後始末で人族の脅威となる蟻人族と蜂人族を、全滅させる必要があったかだ。

 人族への脅威ということであれば魔物も同様だ。

 いくら繁殖力が高いとはいえ、全滅させるのには疑問を感じる。

 それ以外の理由――俺たちが知らない事実があるのかも知れない。

 なによりガルプ絡みという点で、かなりきな臭い。


「お待たせしましたね」

「いえ」

「それで用件というのは? あと少しで終わりなのに、なにかありましたか?


 俺は自分の疑問をモクレンに聞いてみた。

 話を聞いたモクレンは、疑問に答えてくれた。

 まず、蟻人族と蜂人族だが全滅させる大きな理由は三つあった。

 一つ目は、俺の思っていた繁殖能力の高さ。

 二つ目は、種族の情報共有と女王の知能の高さ。

 女王は一定期間まで成長すれば、前世の記憶を思い出す。

 つまり、このまま放置すれば人族の言語の理解はもちろん、文明のことや人族の弱点など人族も知らないことを知識として伝承していくことも可能になる。

 三つめは、蜂人族はガルプが開発したウィルスを持っており、免疫力が低い種族が感染すれば、子孫を増やしにくくなるそうだ。

 これは、自分たちの種族をより優位にするためのものらしい。


「彼女らは、エクシズではイレギュラーな存在です。だからこそ、処分しなくてはいけないのです」


 モクレンの言っていることは分かる。

 あくまでもガルプの実験体として存在している者だからだ。


「全滅させるのは気分が乗りませんか?」

「……そうですね。出来れば女王たちだけ、違う世界に行ってもらって欲しいです」

「それは、その世界が滅んでもいいと言っているのですか?」

「いえ、そういうわけではありませんが……」


 モクレンの言っていることは、もっとものことだ。

 後始末を後回しにして、誰かに押し付けているだけだからだ。


「その女王だけでもガルプの実験前に戻したりは出来ないんでしょうか?」

「それは難しいですね。実験前に戻したところで、問題点は解消できないかと思います」

「そうなんですか……」


 結局、何を言っても無駄のようだ。

 女王を目にして、生き残るために女王同士戦ったことを聞いた。

 彼女たちも、ガルプいや神による被害者だと俺は思っていた。

 出来れば助けたいと思う気持ちが芽生えていた、


「モクレン様‼」

「なんですか、エリーヌ」

「その……ガルプ様いえ、ガルプによって改造される前にして、他の外骨格が多く生息する世界に転移者として送り込むことは出来なのでしょうか?」

「……出来ませんね。繁殖能力が高い者が多くいる世界に、あの女王を送り込むとどうなるか想像がつきません」

「しかし、それはタクトや、アルシオーネにネロなどの転移者や転生者も同様です」

「それは、そうですが……」

「今のベースとなった種族に似た種族がいる世界であれば、それほどの影響力が無いと思います」

「……エリーヌ。その案は承諾できません」

「なぜですか⁈」

「本人の意思確認が取れていないからです」


 モクレンの言葉にエリーヌは思い出す。

 転移もしくは転生する場合、本人の承諾が必要なことに――。

 俺もエクシズに来るときのことを思い出した。


「女王に、その意思があればってことか?」

「えぇ、それは死んだ後でも出来ますよ」


 ……そういえば、俺も死んだ後だったことを思い出す。


「その……あの女王が、どういう決断はするかは別として、その打診はして貰えますか?」

「はい。約束します」


 俺はモクレンの言質を取り付けたと、話を切り上げて【神との対話】を切った。

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