第886話 弱くなった魔王たち!
俺はエルドラード王国に、シロはオーフェン帝国、クロはシャレーゼ国へとシーランディアのことを報告した。
辛うじて、オーフェン帝国にいるケット・シーのフェンがうる覚え程度の記憶があっただけだった。
ガルプを退治したことで、人類の危機が去ったと思ったのに……一難去ってまた一難だ。
自分たちの領地に近いこともあり、討伐には援軍を送るとフェンは言ってくれたが、討伐には俺とアルにネロがいることをシロが話すと、邪魔にしかならないだろうと、援軍を出すことを諦めた。
「フェンは、あわよくばシーランディアも自分たちオーフェン帝国のものにしようと考えているようでした」
フェンと接触したシロが、オーフェン帝国の思惑を教えてくれた。
「まぁ、そうだろうな。シャレーゼ国は未だに復興の最中で、そんな余裕もないだろうしな」
「主がシーランディアで国を興したら如何でしょうか?」
「俺がか? そんな面倒なことは、するつもりないな。ゴンド村じゃなかった、ゴンドだけでも手いっぱいだ」
魔都ゴンドで何かしているわけではないが、余計なことをするつもりはない。
これからはユキノと二人で、のんびりスローライフを満喫するつもりだからだ。
クロは笑みを浮かべていたが、俺に確認するために敢えて、あのような発言をしたのだろう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルとネロから呼ばれたので、待ち合わせ場所に行く。
二人とも深刻な顔をしていた。
「どうしたんだ?」
いつもと違う雰囲気だ。
「あぁ、実はじゃな――妾たちは、弱くなったかもしれん」
「そうなの~」
「はぁ⁈」
アルの話だと、シーランディアでの戦いを想定して、当時のことを思い出して魔物狩りをしていたそうだ。
狩りの途中で体に違和感を覚えた。
「多分、妾たちが不死ではなくなったことや、ガルプに殺されたことで、意識とは関係のなく体が危険だと判断することを感じているのかも知れん」
「そうなの~」
「先程まで、アルと手合わせしておったが、何度も体が動かなくなることがあった」
アルやネロが感じた違和感とは、体が一瞬だが硬直することだった。
時間にして、コンマ何秒だろう――。
二人が出した答えは、死への恐怖だった。
今まで、意識したことのない死や、機能停止という死に近い感覚を味わったアルとネロが、そのような状況になることは考えられる。
戦闘においての一瞬の迷いは、死に繋がることもある。
アルとネロは、それを知ってる。
だからこそ、戸惑っているのだろう。
「皮肉なもんじゃの、呪いと思っておった不死じゃったが、無くなったことで弱くなるとは――」
いつになく真剣な表情のアルだった。
「アルやネロを倒せるレベルの魔物なんて、ほとんどいないだろう?」
「まぁ、そうじゃが――いらぬことを考えてしまうのじゃ」
いらぬこととは、死のことを指しているのだろう。
「アルとネロでも、スランプになるんだな」
「妾たちも初めての経験じゃから、戸惑っておるのじゃ」
「こればっかりは、自分で解決するしかないからな」
「そうじゃろうな――タクトよ。妾はシーランディアでの戦いまで、しばらく修行するので、戦いになったら連絡をするのじゃ‼」
「私もアルとは別で修業をするの~!」
修行……山ごもりでもするのか?
いろいろと思うところはあったが、アルとネロの意見を受け入れた。
戦いの日に備えて、万全の状態なことを願ってだが――。
「じゃあ、最後にタクトと手合わせでもするかの」
「師匠と戦うの~‼」
アルは不敵な笑みを浮かべて、ネロは無邪気にはしゃいでいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
アルとネロとの手合わせの感想だが、「弱くなった!」と言っていた意味が分からなかった。
以前に手合わせとした時と同じように、俺が一方的にやられた。
アルやネロの言っていた「体が一瞬、硬直する」なんて現象は、俺には分からなかった。
しかし、アルとネロが手合わせした時は、お互いに気付いたと言っていたので、かなり高いレベルでの話なのだろう。
俺は、そのレベルまで到達していないということを実感した。
つまり、俺よりも強いアルやネロが修行するのであれば、俺もと同じように修行する必要があるということだ。
一応、新婚なのだが……と思いながらも、力の差を見せつけられた俺にとって、一番いい修業とは何かを考える。
当然、レベル上げは勿論だが、それ以上の何かが必要だと感じていた。
シーランディアが浮上するまでの時間は、残り少ない。
それに今回の戦闘は、多くの神たちが見ている。
その神たちの前で、無様な戦いは出来ないことも俺へのプレッシャーになっているのだろう……。
敵の情報も少ない中で、有利に戦いを進めるのは至難の業だ。
もしかしたら、負けるかも……弱気になりそうな気持を切り替えて、俺は俺なりの方法で強くなろうと、改めて誓った。
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