第887話 シーランディア浮上!

 ――シーランディアが浮上を始めた。

 海では大波が立ち、海中に生息する生き物たちは、生態系が狂ったかのように、異常な行動を始める。

 魔物の活性化、魚の大量捕獲に、波打ち際に多くの魚や魔物の死骸――。

 シーランディアの存在を知らせることは、混乱の元になると情報公開をしなかったオーフェン帝国。

 海に面した土地で生活する者たちは「天変地異だ!」と叫ぶ。

 同じように海に面した土地を持つシャレーゼ国も同じように、情報公開していない。

 シャレーゼ国の場合は、指揮命令できる仕組みがクーデーター後から、まだ戻っていないこともある。

 しかし、両国ともに被害を出さないようにと対策はしていたようだった。


 俺とシロにクロは、浮上してくるシーランディアを、上空より観察していた。

 海面に姿を現したシーランディアは、俺の思っていたよりも大きかった。

 シーランディアの浮上に伴い、アーマゲ山も活性したのか、黒煙を上げて噴火をしていた。


「たしかに、ロッソ様も封印がされていますね」


 クロが小さく話した。


「影で移動でもしようとしたのか?」

「その通りで御座います」


 俺が良い当てたことに、クロは嬉しそうに答えた。


「はぁ……しかし、あの中にどれだけの蜂人族や蟻人族がいるんだろうな……」


 俺はため息交じりに独り言を呟いた。


「御主人様。シーランディアの封印に干渉しない範囲で、結界を張ればどうでしょうか?」

「かなりの範囲だろう? 俺でも出来るか分からないぞ?」

「大丈夫です。これを用意しました」


 シロの言葉にクロが反応して、影からブイに似た球体を取り出した。


「ん?」


 俺はクロの手にあるブイのような球体が何か分からずに、眉をひそめた。


「これはエテルナ様が、ロッソ様とシーランディアに施されている封印道具を一緒に製作したそうですので、それと干渉しないような道具をエテルナ様と作成しました」


 ブイのような球体は、結界の範囲を広げることが出来る道具のようだ。

 シロから説明を受けるが、この道具に名前がない。

 仕方がないので、説明上ブイのような球体は、そのまま『ブイ』と呼ぶことにした。

 ブイは幾つもあるので、俺がブイに【結界】を施して、それを広げたい場所に配置することで、【結界】の範囲を広げることが出来る。

 海中に置いたりすることも可能で、座標指定のような仕組みで波などで移動することもない。

 しかし、このブイの使用可能時間は、約三時間ほどだった。

 つまり、三時間内で飛び回る蜂人族や蟻人族を全滅もしくは、かなりの数を減らす必要がある。

 ブイの配置はシロとクロに頼むことは決定なのだが……。

 封印が解ける時間が正確でないので、どのタイミングでブイを設置するかが重要になる。


 俺が考えていると、アルとネロが俺たちの目の前に現れた。


「強さは戻ったのか?」

「さぁ、どうじゃろうな」

「大丈夫なの~‼ 師匠に負けないくらい強くなったの~!」


 そう答えるアルは、自信に満ちた表情をしていた。

 ネロの回答には首を傾げる。

 俺の記憶では間違いなく、ネロに勝てたことは無い。

 もちろん、戦いでの話だが――。

 笑顔のネロを見ると、俺は何も言えなかった。

 とりあえず、準備は出来ているということなのだろう。


「それで、お主も強くなったのか?」

「さぁ、どうだろうな」

「……そうか、お主も強くなったようじゃの」


 アルは悪そうな笑顔を浮かべていた。

 魔眼で俺を見て、何かを感じたのだろう。


「さて、作戦の確認でもしておくか?」

「作戦など関係ないじゃろう? その蟲たちを倒せば良いのじゃろう?」

「そうなの~、簡単なの~!」


 ……この二人に聞いた俺が間違いだった。

 だからこそ、ロッソも自分で封印作業をしていたのだろう。


「蟻人族と蜂人族の女王は、アルとネロで倒すか?」


 強者との戦いを望んでいる二人だからこそ、俺は聞く。


「戦いたいがお主が直接、あやつたちから依頼されたのであれば、それはお主に女王を倒すことを任せたのじゃろう。妾たちは前回同様に、露払いしてやるから思う存分戦ってくるがよかろう」

「そうなの~、弱い奴は私とアルで倒してやるの~」

「……あっ、そう」


 アルとネロは誤解しているようだが、別に俺が蟻人族と蜂人族の女王を倒せとは言われていない。

 まぁ、アルとネロがそう思っているなら、否定することも面倒なので俺が蟻人族と蜂人族の女王を倒すことした。

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