第881話 火精霊ホオリン―2!

 当たり前だが火口は、かなりの高温だ。

 流石にこれ以上は、ユキノの体が心配だった。

 それを察したのか、ミズチとアリエルはユキノの周囲をより快適にするように変更してくれていた。


「俺が呼んできてやるよ」


 ノッチが勢いよく、マグマの方へと飛んで行った。

 今、噴火したら面倒だと思いながらノッチを見ていた。


 ノッチが火口に近付くと、火口から一人? が飛び出してきた‼

 紅い長髪のオールバックに細マッチョという表現がピッタリくる引き締まった体。

 クロとは違うが間違いなくイケメンの部類に入る。

 ……ということは、ホオリン以外の上級精霊は女性なので、暗に異性だから嫌われているのだろうか?

 ノッチは、どちらかといえば男性に近い思考なので気が合う。

 そう考えれば、なんとなく理解ができる。

 もっとも、上級精霊に性別があるのかは別だが――。


「おいおい、三人が揃って俺に会いに来るなんて珍しいな‼ 天変地異でも起こるんじゃないのか……って、魔王もいるじゃねぇか‼」


 太々しい態度だが、俺に嫌悪感はなかった。

 それよりも魔王と言って、アルとネロを見た。

 俺は完全無視されたようだ――。

 アルとネロはお互いに顔を見合わせていた。

 二人とも、覚えていないのか? それとも、最初から面識がないのか分からない。


「……ん? お前等、契約を結んだのか?」


 ホオリンは、ミズチたちの違和感に気付く。


「ええ、そうよ」

「なにか文句でもあるのかしら⁈」


 不機嫌そうに答えるミズチとアリエルの二人。


「相変わらず、機嫌悪いな」

「貴方に会うとなれば当然、機嫌も悪くなりますわ」

「その通りよ」

「おいおい、俺が何をしたって言うんだ?」


 ホオリンは悪びれる様子も無く、ミズチとアリエルに聞き返す。

 この発言が、ミズチとアリエルの怒りを更にヒートアップさせた。

 そこからは、ホオリンに対しての文句が止まらない。

 しかし、聞いているホオリンは耳の穴を小指でほじりながら、関係ないかのような態度で聞いている。

 このホオリンの態度で、ミズチとアリエルの怒りは最高潮に達したようだ。


「言って分からないのであれば、態度で示しましょうか⁈」

「アリエル、奇遇ですね。私も同じことを考えておりましたわ‼」


 完全に戦闘モードだ。


「アリエルもミズチも何を言っているんだ?」


 ふざけた様子でなく、不思議そうに言葉を返すホオリンだった。


「大体だな――」


 ホオリンの言い分は、こうだった。

 ミズチの場合、ホオリンがミズチにアーマゲ山に出来た小さな湖が海水と雨水が混じっているため、ミズチに魔物が飲めるように真水への変換依頼をした。

 ミズチからも了承は得たので、ホオリンは待った。

 半年……一年……二年と――。

 しかし、いつまで経ってもミズチが約束を守ることは無かった。

 流石に痺れを切らしたホオリンは、ミズチの住まう湖へと赴く。

 ミズチ不在なので、下位の水精霊に聞くと「何年も戻ってきていない」と言う。

 ホオリンは「騙された‼」と思いながらも、ミズチの言葉を思い出す――「私が約束を破るわけないじゃない。もし約束を破ったら、湖をお湯に変えたり、蒸発でなくしたりして、ホオリンの気のすむようにしていいわよ」と――。

 ホオリンは、ミズチの言葉通りに実行しただけだ。

 俺はミズチを見ると、思い出したかのように顔が引きつっていた。

 これは完全にミズチが悪い、ホオリンは悪くない。


 そして、アリエルの時も同じような理由だった。

 アリエルは「炎なんて風ですぐ消せるわ」と、ホオリンを馬鹿にする。

 ホオリンは「風は炎を消すこともあるが、炎を増す材料にだってなる‼」と言い返す。

 そんな言葉に「なにを馬鹿なことを‼」と、アリエルは鼻で笑う。

 ホオリンは「優劣をつけるようなことではない!」と話すが、アリエルのホオリンを馬鹿にした発言は止まらない。

 さすがのホオリンも怒らずにはいられなかった!

 売り言葉に買い言葉――。

 アリエルとホオリンは激論していた。

 最後にアリエルが「そんなに言うなら、いつでも掛かって来なさいよ。私が証明してあげるわ」と、さも自分が正しいと言わんばかりに挑発をする。

 ホオリンも自分の言い分が間違っているとは思っていないので、引くことはなく「分かった。そのうち力比べに行ってやる‼」と言い残して、その場を去ったそうだ。

 このアリエルとホオリンの口論は、その場にいたノッチも知っているので、「あぁ、アリエルは言っていたぞ‼」と証言した。

 自分の発言を思い出したアリエルは、バツの悪そうな顔をしていた。


 その後も、喧嘩を売るのはミズチとアリエルの方で、文句の言われる筋合いのないホオリンはその度に、怒りをぶつけていたそうだ。

 どちらかといえば、ホオリンが被害者な気がする。

 たしかに、二人いや、上級精霊三人とも短絡的な思考なのは間違いない。

 誤解が続いたいや、ミズチもアリエルも身から出た錆ということだ。


「さて、ミズチとアリエルだが……弁明があれば聞こうか?」


 ミズチもアリエルも無言だった。

 アルとネロも「二人が悪い」と関係ないのに怒っていた。

 もしかしたら、暴れる理由がなくなったからか? とも思ったが――。


「悪いと思ったのであれば、素直に謝るべきですよ」


 ユキノがミズチとアリエルに、優しく語り掛ける。

 俺たちの視線に耐えきれなくなったのか、ミズチとアリエルはホオリンに謝罪をした。

 謝罪されたホオリンは「昔のことだから、気にするな」と大人の対応だった。

 これで長年の誤解が解けたようにも思えたのだが……。


「しかし、さすがは魔王だな。封印が解けかかっていることが分かるとは!」

「……封印?」


 俺はアルとネロを見るが、二人とも首を左右に振っている。


「封印って、シーランディアのことか?」

「それ以外に、なにがある?」


 ノッチの質問に、当たり前だと言わんばかりに答えるホオリン。

 聞きなれない『シーランディア』という言葉。

 俺は再度、アルとネロを見ると思い出したようだ。


「ホオリンとやら、シーランディアの封印が解けるの間違いないのか?」

「あぁ、間違いないぞ。あんたたちが必死で封印したのも随分昔だからな。ってか、それが目的じゃないのか?」


 ホオリンは上級精霊三人に視線を向ける。


「えぇ、私たちが此処に来た目的は違うわよ」


 アリエルが俺たちを紹介しながら、ホオリンに説明を始めた――。

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