第880話 火精霊ホオリン―1!

「なぜ、転移で行かぬのじゃ⁈」


 アルが不満を俺にぶつけてきた。

 なぜ、アルいや、アルとネロが同行しているかと言うと――。


「そんな、我儘な奴は妾が叱ってやるのだ‼」


 ユキノの同行を確認している時に、話を聞いたアルが悪そうな顔で言い放った。


「そうなの~」


 ネロもアルに同意していた。

 そもそも、アルやネロだって俺にしてみれば同じようなことをされた記憶がある。

 どの口は、そんな戯言を言っているんだ‼ と、正直思った。

 反対しても、駄々をこねられるだけなので、俺の言うことを聞くのであれば、同行を許可する。

 アルとネロは、素直に首を縦に振った――。



「だから、さっきも説明しただろうが‼」


 ホオリンがいるのは、オーフェン帝国にある海に囲まれているアーマゲ山だ。

 定期的に噴火を繰り返すため、地形は常に変化している。

 転移した先がマグマだったら、悲惨なことになる。

 俺はアーマゲ山の位置を正確には知らない。

 だから、俺が【転移】を使用することは出来ない。

 アルとネロの【転移】だと、今一つ信用出来ないし、「あっ、間違えた!」なんてことになれば、大事だ。


 案の定、近くの所までの【転移】をネロに任せたら、地上でなく海中だった……。

 ユキノだけ死にそうになっていた――。

 すぐに俺が【転移】し直して、空中へと移動をしてユキノを抱える。


「師匠~、ごめんなの~」


 ネロは、本当に申し訳ないと思ったのか謝ってきた。

 悪気はないし、ユキノも「大丈夫ですよ」と笑顔で返していたので、俺としてもそれ以上は追及しない。

 ただ……これがマグマの上で無くて、良かったとだけ思っていた。


 俺は【飛行】を使い、アーマゲ山へと移動する。

 アーマゲ山に近付くと、かなり熱く感じる。

 ユキノの体調が心配なので、水精霊ウンディーネのミズチと、風精霊シルフのアリエルを呼んで、ユキノの周りの温度調整を頼んだ。

 出来るかどうかは微妙だったが、ミズチとアリエルにとっては造作もないことだったようだ。

 アリエルがユキノの周囲で風を作り、その風に微量の水いや、ミストに近いものを混ぜることで、ユキノの周囲の温度を下げていた。


 アーマゲ山は噴火はしていなかったが、頂上からは煙が上がっていた。

 これだけの煙が上がっていれば、何度もオーフェン帝国を訪れている俺が見逃すはずがない。

 シロが最近、噴火したことを教えてくれた。

 煙の周りには、『グリフォン』が飛び回っている。

 俺たちに気付くと、当たり前だが襲いかかってきた。

 抱えているユキノが怖がっていないかと、視線を向けるが笑顔を崩さずにいた。


「怖くないか?」

「タクト様と一緒であれば、なにも怖くはないです」


 ユキノは自信満々で答えた。

 そこまで信頼してくれて、俺は嬉しかったので、自然と笑顔になる。


 グリフォンの大群はアルとネロが、殆ど倒す。

 シロが貴重な素材だと教えてくれたので、クロに頼んで落下していくグリフォンを回収して貰う。

 長期間、飛ぶ事が出来なかったピンクーも、空を飛ぶ事が出来るようになったと、誇らしげに報告してきたので、俺が褒めると照れていた。

 確実にピンクーも強くなってきている。

 それはピンクーとの別れが近づいていることを表している――。


 実力差が分かったグリフォンは、俺たちから逃げるように去っていった。

 他にも魔物が数種類発見したが、グリフォンとの戦闘を見て、すぐに消えていた。

 これが魔物として正しい選択なのだろうが、このアーマゲ山付近の魔物は、少し違っていた。

 そもそも、アルたちを目視した段階で、殆どの魔物は逃げる。

 頻繁にアルやネロの脅威を感じていないから、感覚が麻痺しているのだろうか?

 俺の中で、変な疑問を感じていた。


 俺たちは地上に下りるが、地熱もかなり高い。

 周囲の海水もかなりの水温なのだろう。

 ユキノに様子を聞くが、大丈夫そうだった。

 アリエルとミズチが上手く気温調整をしている証拠だ。

 地熱の対応は出来ないので、俺が抱えることにする。

 ユキノは嬉しそうで、少し恥ずかしそうな表情をしていた。

 両手が塞がったことで、俺は非戦闘員になる。

 まぁ、アルとネロがいる限り、戦闘は任せられるので、ホオリンに会うまで俺がすることはないだろう。

 火山口付近に下りようとしたが、気温が不明だったのでユキノのことも考えて、少し遠い個所に下りた。

 俺が【結界】を張れば問題ないのだが、ユキノが拒否をした。

 ユキノが「なんでも俺に頼るのは良くない!」と、話した時は驚いた。

 守られるだけの存在にはなりたくないという、意思表示なのだろう。


「お前たちなら、ホオリンの気配が分かるのか?」


 俺は地精霊ノームのノッチも呼び出して、ミズチとアリエルの三人に質問をする。


「……えぇ、分かるわよ。あの火口にいるわ」

「行くのもそうだけど、会うのも億劫だわ」

「ミズチもアリエルも相変わらずだな‼」


 嫌そうなミズチとアリエルを引き連れながら、火口へと向かう。


「……あれ、馬か?」


 俺は遠くに馬の集団を発見する。

 こんな草木もない場所……いや、魔物が多数いる場所で生息していることに驚く。


「あれは、カトブレパスじゃ」

「カトブレパス?」

「あぁ、カトブレパスの眼は石化の能力があるぞ。ユキノは目を瞑っておいたほうがよいじゃろう」

「石化って、バジリスクと同じ効果か?」

「その通りじゃ。カトブレパスは頭がデカくて石化能力がある、ただの馬じゃから危険度も高くないじゃろう」


 俺はアルの言葉に、「ただの馬じゃないだろう‼」と心の中で、ツッコミを入れる。

 アルとネロが先陣を切って、カトブレパスに向かって行くが、アルとネロの強さを感じ取ったのか戦いを拒否するかのように、散り散りに逃げて行った。


「もう大丈夫じゃぞ」


 誇らしげに話すアルに、俺は礼を言う。

 念のため、ユキノには暫く目を瞑ってもらった。

 不安になるといけないので、俺やシロそれに、ミズチやアリエルたちと出来るだけ会話をする。

 場所が違えば、ピクニックと言っても過言ではないだろう――。

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